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昼休み

 いつも通りの教室。昼休み突入のチャイムが鳴ると同時、隣席から気配が消えていく。

 内心ため息がこぼれ、カバンから弁当を取り出そうとした。その時である。

 後ろの席――というか里奈が「んんっ」と咳払いをし、弁当持参で教室を出ていった。


(……ついて来いってことか?)


 一応、反応を待ってみる。30秒後、スマホが振動を始めた。お呼びらしい。

 席を立つ。周囲のうかがうような視線を感じながら廊下に出て、階段へ向かった。


「お、いたいた」

「いたいた、じゃないでしょ」


 たぶんスタンプを連打していた里奈が、わずかにムッとした様子でスマホをしまう。


「それで? なに」

「なにって……イヤじゃないの? そりゃあ、アタシも浮いてるほうだけどさ」

「いやべつに。けどそっちは、ぽつぽつ声かけてもらったりしてるんだろ?」

「それは、そうだけど……」


 里奈がクラスで浮いているのは、ほとんど俺の巻き添えなのだ。後ろめたさはある。

 とはいえ義理の兄妹と周知されていけば、多少は関係も改善されていくはずだろう。


「やっぱり。よかったじゃん」

「う、うん……」

「俺なんか、一昔前の漫画みたいに目が合っただけで逃げられて会話にならないからな」

「偏見なのにね」


 そう言ってまるで自分のことかのように落ち込むが、その意見には賛同できない。


「べつに偏見ではないだろ。事実にもとづいた普通の反応なわけだし」

「……意外と冷めてるよね」

「客観的な視点を持ってる、と言って欲しいがな。てかおまえが避けられてるほうが偏見だ」

「そ? じゃあ訂正したげる。ひねくれて斜に構えがちな思春期だよねって」

「そりゃどーも。まぁ、とりあえず学食でも行ってみるかー」


 四階と三階の間でこうしていてもしょうがない。大人しく一階に下りていく。

 学生食堂は喧騒に包まれていた。学年を問わず、あまり周りの目を気にする様子もない。


 けれどこの日はたまたま運が悪かったのだろう。二年の誰かがひそひそ話し始め、そこから一気に火がついたのだ。気づけば俺たちの周囲にはひとりもいなくなっていた。


「……ごめん。余計なことした。行こ」

「気にしてない。同じ中学出身の二年だったんだろ、たぶん」


 さっさと食堂から退散する。弁当を広げる前で行動も迅速だった。

 それに思い出すこともあるのだろう。うつむいた里奈を横目に見る。すると、


「おっ、ペポとりーぽんじゃん! 何してんのふたりして」


 反対側から廊下を全力疾走してきた部長が、目の前で慌ただしく足を止めた。


「ま、いいや! 日替わりまだ残ってた!?」

「えっ。いや、さっき終わったって食堂のおばさんが言ってた気が」

「くぅうう、やっぱり……じゅ、授業が時間通りに終わらないから……」


 がっくりと肩を落とす部長。よほど食べたかったらしい。そんなにうまいのだろうか。


「というかりーぽん、だいじょぶ?」

「……はい」

「あー、いや。その、けっこう学校中に噂は広がってるんだなぁ、と」


 視線で説明を求められ、そう答えると部長は少し考え込む素振りを見せる。


「そっか……よし、そういう時こそ私の出番だろ!」


 ややあってぽんと胸を張り、俺たちを引き連れて部長が向かったのは職員室だった。

 古賀ちゃんは不在であり、代わりに松前先生から鍵をもらって旧校舎へ。


「結局、部室なんですね」

「結局とはなんだ、結局とは!」

「でもここ、アタシは好きです」


 里奈の素直な言葉に部長は、「だろー?」と得意げな顔を浮かべていた。

 いつものようにコタツを引っ張り出し、畳に腰を下ろす。それを見届けた部長は、


「よし。それじゃあ私は売店でも――」

「あ、あの! よかったら一緒に食べませんか? 三人だと少ないかもしれませんけど……」

「今から売店行っても、大したの残ってないんじゃ」


 学食は並んでいる分で完売し、小さい売店は買えなかった生徒であふれているはずだ。


「まぁ、たしかに……いいの?」

「はい、ぜひ。あ、でも口に合うかはちょっと自信ないです……」


 少し意地の悪い笑みを浮かべる部長。里奈がわずかに萎縮するも、いざ実食となった。


 献立はベーコン巻き、玉子焼き、玄米、鶏むね肉のナゲット、etc.。俺と部長が半分こした玉子焼きをおいしそうに食べると、里奈も安心したように顔をほころばせていた。


 それから半分ほど食べ終え、割り箸をくるりと回した部長が改まって言う。


「――で。まぁ、なんつーかあれだな。普段の行いで周りに示していくしかねーのよ」

「俺もそう思いますね。時間はかかるでしょうけど」

「そうなのかなぁ。せめて何かきっかけが……あ、来月の体育祭で大活躍する、とか?」

「足早くてモテる小学生じゃあるまいし」


 里奈が「だよね」と苦笑する一方、部長は完全にきょとんと首をかしげていた。


「え、なに。小学生って足早いとモテるのが普通なの?」

「ど、どうでしょうね。そこそこ頭が良くて明るくて、運動できる子がモテてたような」

「ふーん」

「ちなみに部長はどういう小学生だったんです?」

「知らない」


 ぷい、とそっぽを向く部長。知らないってことはないだろうし、恥ずかしいのだろう。


「ほれほれ、時間ないからぱぱっと食べちゃうぞ! それ、もらい!」


 大事に取っておいたナゲットを横取りされる。悔しい。里奈の弁当からひとつ頂戴した。

 そうして雑談をしながら昼休みを過ごし、予鈴が鳴る前に部室をしっかり施錠する。


「んじゃ、鍵は私が返しとくから。先戻っていいよ」

「いや、さすがにそれくらいは俺が返しに行きますって」

「ダメ! やだ! 絶対! 借りた人が返す、これ常識な」


 断固拒否の姿勢を崩す気配がなかったので、渋々ながら折れてお礼を言っておく。


「アタシからも今日はすみま……じゃない、ありがとうございました。由真先輩」

「りーぽんも何を言ってんだ。私はお前らの部長なんだからな、当然だろ!」


 得意げに「ふふん」と鼻を鳴らす我らが部長は、先輩なのだと再認識する昼休みだった。



 ――以下、おまけ。


 智「先輩らしさってさ。後輩の面倒見がいいとか、尊敬できるところがあるってことだよな」

 里「た、たぶん。そうだと思うけど……」

 智「だよな? なら後輩らしさってなによ」

 里「え。う、うーん……お、おごりたくなりやすさ?」

 智「……なに、餌づけされたいの?」

 里「ち、ちがうってば、もうっ。じゃあなんだって言うのよ」

 智「俺? えー、あー……め、面倒見たくなりやすさ?」

 里「ふぅん、面倒見てもらいたいんだ。そうなんだ。へぇー、へぇー、へー……」

 智「ま、まぁ、先輩たち来たら素直に聞いてみるか」

 里「そうだね。でもそれに合わせたら、なんだかイヤに思われる気がす――」

 瞳「ふふふーんっ、話は聞こえたわ! そういう困りごとなら先生に相談するのが一番――」

 智・里「チェンジで」

 瞳「どぉぢでなのぉおおおおっ!?」

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