夜ふかし2
日曜の夜中。今日もベッドに縛りつけられ、俺は目が冴えていた。
隣で寝ている里奈を起こさないよう、静かに身体を起こす。とはいえすることもない。
朝になれば学校へ行くし、放課後はバイト。なるべく早めに寝たくはあった。
トイレを済ませて部屋に戻る。そんな時だった。~~♪♪ 着信音である。
すかさずベッドからスマホを回収。引き返して画面を見れば茅沼千雪とあった。
『もしもし』
『あー、やっほー。ぺぽぺぽ』
電話に出たのは菫先輩だった。驚きはしない。ふたりはまぁ、女と女の関係なわけで。
そもそも同じ屋根の下で暮らしているのだから、こういうこともあるのだろう。
『どうしたんです、菫先輩』
『千雪もいるよぉ』
どうやらスピーカーモードになっているらしい。環境音を含めてよく聞こえた。
『ふふーん、さて問題。わたしたちは今、どこにいるでしょーか!』
鼻を高くして、胸を張っているところがよく目に浮かぶ。
『ヒントその一、わたしは今、全裸だよー』
『ヒントその二、ペポくんが漫画や小説、アニメであると喜ぶ場所かなぁ』
『ふっふっふ。残念でしたね、ふたりとも』
一度目ならまだしも二度目で動揺するほど、軟弱者のつもりもない。
しかも昨日の今日。先輩たちも『??』という感じだった。
『この状況、すでに部長で経験済みです』
少し予想外の返しだったのか、『ほぉ~?』と意味ありげな雰囲気をかもし出している。
すると作戦を変更したらしく、芝居がかった声色の菫先輩が言った。
『……うぅ、なんで初めてじゃないんだよーぅ』
『千雪たちは初めてだったのにぃ』
『恥ずかしがる性格でもないでしょうに』
『しくしく。ひどーい、男になった男の子の台詞だよー』
『まさか寝取られ属性のペポくんが、千雪たちの先をいってるなんてねぇ』
『いや、ちがいますから。ヘンな性癖つけ足さないでくださいよ』
流すと事実かのように話を進めようとするので、ここには触れざるを得なかった。
『えぇー、だって不倫オッケーなんだよねぇ?』
『ゆまゆまが言ってたよー』
『ぶ、部長……』
ガールズトークで自分の話題が出ることを、喜ぶべきなのだろうか? 正直、謎だ。
……ちょっと聞いてみたいようで聞きたくない。どうせまたろくな話じゃないと思う。
『ゆまゆまきっとねー? ぺぽぺぽに電話するかしないかで2時間くらいぐるぐる迷ってー、お風呂でえいやって勢いでかけてー。後から恥ずかしくなってたと思うなー』
『まぁ、そんなところなんじゃないかとは思いましたけど』
『でもちょうどいいね。今日はもうひとつ上のステージへ行こうかぁ』
『そーそー。話す時はちゃんとひとの目を見て話さないとねー?』
『え? ――っ!?』
次の瞬間。画面が切り替わったらしく、『画面から耳を離してください』なんて機械音声に近い里奈の声がした。疑問符が頭に浮かんで、スマホの表示に目をやる。
すると高画質な先輩たちが見えた。見えてしまった。肌色と白の面積が多い。
『えっ、いや、ちょ、ちょっと……』
『あははー、慌ててる慌ててるー。かわいいーなー、もーぅ』
『平気だよ。アプリの機能で自動湯気補正がかかるから』
『そんなアプリ入れてませんし、知りませんけど……』
『この前、スマホを借りた時。勝手にインストールしといたよー』
『音声は千雪たち、ゆーちゃん、古賀ちゃん、りーちゃんから選べるよ。今のところは』
映し出される茅沼邸の浴室は、たしかに的確な箇所へモヤを発生させている。
『インストール済みの端末同士の通話で勝手に起動するから、感想よろしくねぇ』
『またおかしなもの作ってますね……』
『というわけでー、今から柔軟しまーす』
いきなりそんな宣言をし、『いっちにっ、いっちにっ』とストレッチを始める先輩たち。
たしかに見えないようにはなっているけども、やっぱり心臓に悪い。
『……そ、それで。アプリの機能を披露したくてかけてきたんです?』
『いやいやぁ、普通に体調はどうかな? って電話だよ。寝てたら出ないだろうし、逆に日中ずっと寝てたなら眠れなくて暇を持て余してるだろう、と思って』
『あ、そうなんですか。ありがとうございます。もう大丈夫です』
ふたりの素直な『よかったね』という言葉が、少しこそばゆく感じられた。
『でねー、ぺぽぺぽに気持ちよーく寝てもらおうとも思ってて――』
『あ、なんかもうあれな予感しかしないので切ってもいいですか?』
『まぁまぁ。今度出そうと思ってるボイスドラマのシナリオを聴いてもらうだけだからぁ』
『……作品名とTrackのタイトルをいくつか読み上げてみてください』
『しょうがないなぁ、もう。〝ドスケベシスター姉妹のオホイキ絶頂懺悔室〟だよ』
『あー、言わせるなんてえちぃ趣味だねー。1〝手の祈り〟、2〝淫者のあんっ〟、3〝んほぉ人〟、4〝種ありパンツ祭り〟、5〝和姦のいけにえ〟、6〝三身一体〟――』
『ごめんなさい、俺が悪かったです。許してください』
結局、何だかんだサンプルをいくつか聴かされ、悶々とすることしばらく。
千雪先輩の秘所。それを硬く守っていたモヤが、唐突に全て消失したのだ。
『あれ? あれあぇ? どうしちゃったのかなぁ~?』
言葉を失った。態度の変化に気づいた千雪先輩は、誘惑するような仕草をみせてくる。
その後ろでは、ひとり無事なままの菫先輩が必死に笑いをこらえていた。
『ち、千雪先輩。き、消えてます……先輩の湯気補正だけ、その、全部……』
『…………えっ、嘘ほんと? なんで千雪? えっ。す、すーちゃんっ!?!?!?』
『はっはー。時間差でわたしの湯気が消えるなんてお見通しだった、というわけだよーっ!』
赤面する千雪先輩が身体をおおい隠すようにしゃがみ、菫先輩は容赦なく襲いかかる。
さすがにまずいと思い、スマホを遠くへ放り投げた。ややあって、声が聞こえる。
『よいではないかー、よいではないかー。あっ、じゃあねおやすみー、ありがとねー』
通話が切断された。それからスマホを拾って、ソファーのクッションに顔を埋める。
そのまましばらく眠れず、しかしふと気がつけば寝落ちしていたようで。
目が覚めるとニコニコ笑顔の里奈がいた。当然、二日続けて朝から超説教だった。
――以下、おまけ。
智「昨日は聞きそびれたんですが、あのふたつ以外にも最近は何か作ってたりするんです?」
菫「んー、えっちなノベルアクションを鋭意制作中だよー」
千「相変わらず純愛バカゲーだけどねぇ」
智「へぇ……ちなみにタイトルとあらすじは?」
菫「性戦士インバイン~おらの力で孕めオラァッ!~だよー」
千「ヘルメットをかぶってあぜ道を自転車で爆走していたシオリは、突然開かれたヴァージンロードを通り、栗とリスの狭間に存在するヒトのふるさとフィーメルングへ召喚される」
菫「性欲を通常の3000倍にまで引き上げられ、和姦以外で爆死する呪いを受けた彼女は、オラァバトラー・インバインを駆り、終わりの見えない戦乱の世を駆け抜けてゆく!」
千「――おらはヒトは犯さない! その本能を犯す!」
菫「注〝この物語はフィクションであり、男性は一切登場せず、NTR要素もありません〟」
千「どうかなぁ? ところで千雪もそろそろ、そのギャグ漫画みたいな顔に触れてもいい?」
智「どっちも訊かなかったことになりませんかね……」




