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Y万能説

 いつものように和室でお菓子とお茶を用意し、コタツを囲む放課後。

 古賀ちゃん先生以外がそろっていて、各々が好き勝手にいつもの日常を楽しんでいた。

 そんな時は誰かが何か言い出すのがやっぱりいつものことで、今日は千雪先輩だった。


「定説とか名言ってこの世にたくさんあるじゃないの」

「あるねー」

「あっ、いいなぁって思ってもそれって絶対、千雪が言ったことにはなってくれないでしょ」

「当たり前じゃないですか」

「ペポの言う通りだぞ。いきなり何言ってんだ、お前」


 俺の膝上にちょこんと座る部長は真顔で、里奈も呆れた表情を隠さず静かに頷いている。

 けれどそんなことでへこたれない千雪先輩は、世紀の発見でもしたように続けた。


「というわけで今ここに。このわたくし、茅沼千雪が唱えます! Y万能説をっ!」

「わーっ、どんどんぱーふ! どんどんぱーふ!」

「「「……Y万能説?」」」

「考えるより描いてみようって話じゃない? すーちゃん、ペンと紙とってぇー」

「はいはーい」


 ニコニコした菫先輩がカバンから筆記用具とノートを取り出す。

 数学と書いてあるけども、そこかしこに授業中に描いたであろう落書きがあった。

 中には特に印象的なものがあって、だけどちょっとツッコミを入れにくい絵だった。


「あー、そうだー。力作だから見て見てこれー。〝乳合わせに見えるデリケートゾーン〟」

「いいねぇ。すーちゃんとりーちゃんならできそうだねぇ。そこに千雪、挟まりたい」

「「じぃーっ」」

「ふ、ふたりしてそんなキラキラした目でアタシを見ないでください……」


 胸を両手で隠す里奈に目がいって、部長に「どこ見てんだ」と下からネクタイを引かれる。


「だ、題材はともかく。中学の国語の教科書で見たつぼみたいですね」

「多義図形くんだぞ」

「ゆーちゃんは、錯覚でもちょっと厳しいねぇ。何がとは言えないけれど」

「実質、言ってんじゃねぇか! ケンカ売ってるだろてめぇーっ!」


 唸り始める部長。しょうがないので後ろから軽く抱くように抑えると、すぐ落ち着いた。

 それを笑う千雪先輩が数学ノートに〝Y〟をさらりと描き、感想を求めてくる。


「Vラインだねー」

「じゃあ横にしてみてぇ、これはどう?」

「二の腕とか肋骨とかその辺に見えるな」

「素直に腋って言いなよ、ゆーちゃん」

「そーだよー。じゃあ次はー。ぺぽぺぽとりなりなの番だねー、せーっので答えてねー」


 まさか順番制と思わず、「えっ」とハモる。楽しげにニタニタする千雪先輩。

 描き始めた新しい〝Y〟はゆったりとした小文字で、見るのとほぼ同時に菫先輩が、


「はーい、せーっの!」


 早い! たぶん心は里奈とひとつだった。何とか当たりさわりのない回答を必死に探す。

 それをわかっているのか、いないのか。菫先輩はいい笑顔で優しく急かしてくる。


「し、尻……」

「む、胸……」


 人によって見え方はやっぱりちがっている。いや、もちろん当然なのだろうけど。

 もうこれ、趣向の心理テストみたいなもんだと思う。話せば話すほどボロが出る感じだ。


「ほほぉ。つまりぃ、りなりな的には普段、自分のが上からそう見えてる感じかなぁ?」

「そ、そういうんじゃないですけどっ! ち、ちがいますけどっ!?」


 赤くなった顔と目が合い、そっぽを向かれる。それから部長を見て、鋭い視線に刺された。


「今なんでお前、りーぽんのを見た後。私のを上から見比べようとしたんだ? なぁ?」

「……誠に申し訳ございませんでし――いたいいたい、痛いですって部長」

「それじゃあ次は〝Y〟を逆さにしてちょっと右回転……で、長さを極端にしてみてっと」

「太ももと尻、もしくはふくらはぎだなこりゃ」

「えー? ゆまゆまじゃないのー?」

「さっきからヤんのかてめぇらこら。貧乳で悪いか、貧しくて悪いか! おぉんッ!?」

「あれー? わかってるじゃないー?」

「あのー、部長。もしかしてその〝ら〟に俺は入っ……てますねいたいたい。すごく痛い」

「というわけで、もういっちょ! ぐにゃぐにゃ~とっ」


 お次は〝Y〟というよりふやけた〝T〟に近いものだったが、今回はすぐにわかった。


「あ。正座した太ももを上から見てる感じですね、それ」

「おっ、食いつきいいねぇペポくん。もしや太ももフェチ?」

「ち、ちがいますっ!」

「あぁ、そうだったねぇ。お尻と貧乳と頭皮の匂いと低身長フェチだったよねぇ!」

「もっとちがいますッ!」

「……ちがうのか?」

「え?」


 意識が下に向く。縮こまる部長は「な、何でもない……」とコタツの中に消えてしまった。


「もっといってみよぉーっ! はい、これを……りーちゃん!」

「ス、スクール水着を着た……右肩。というより、背中? ですかね……自信ないですけど」

「正解! ならこっちはどうかなぁ!」

「えっ? えぇと……ごめんなさい、小さい鳥が羽ばたいてるシルエットに見えます」

「惜しい! はい、ペポくん」

「……聞かれる前から考えてましたけど、俺も鳥に見えましたよ。なんです、これ?」


 本当に謎だった。そう言うと千雪先輩は、「ちっちっち」と甘い甘いみたいな仕草。


「ダメだなぁ。想像力とエロスが足りない。ペポくんのリビドーはそんなものかっ! ふぅ、しょうがないなぁ。はい、じゃあすーちゃん。思春期のおふたりに正解を教えたげて」

「はいはーい。いい、正解はねー? ち、く、び、の、せ、ん、た、んっ」

「さっすが、すーちゃん!」

「いや全然ちっとも惜しくねぇッ!?」

「そんなことよりどう? 〝Y〟ってえっちじゃないかなぁっ!?」


 菫先輩はもちろん笑顔で同意し、コタツの中からは「ひわいだ……」というささやき。

 里奈もジトっと返答を待っていて、皆の視線を一身に受けることになる。その時だった。


「猥談!? 猥談なのねっ!? わぁーいっ、先生も混ぁあぜぇえてぇええーっ!!」


 ハイテンションな先生がいきなり現れ、もう完璧に収拾がつかなくなる。

 まぁ、なんてことはない。いつものようにわいわいするだけの、楽しい部活動だった。



 ――以下、おまけ。


 智「あ。というか、さっきはさらっと聞き流しちゃったんですけど」

 由「ん、どうしたよ」

 智「いや、里奈がですね。スクール水着の背中をほぼ即答なんて、よくできたなぁって」

 千・菫「たしかにぃー」

 里「~~っ!」

 由「あー。それ、私もちょっと思った。りーぽんってさ、やっぱむっつりだよな……」

 里「なっ、ななななな」

 瞳「むっちりでむっつりなギャル風真面目系ってわけ? よく知らない女だったらもう全力で叩いてるとこわよ? あたしも丸くなって……くっ、これが教師になるってこと!?」

 千「あ、そうしたら今度りーちゃんが何かで罰ゲームの時はスク水かなぁ」

 里「い、や、で、すっ!」

 菫「じゃあ間を取ってー、ぺぽぺぽが罰ゲームの時に皆のスク水を撮影でー」

 智「どの辺に間があったんですかね……」

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