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体重

「ぐぅおおおおおおおっ!!」

「うぉっ、びっくりした……なんですいきなり。クマみたいな声出して」


 いつもと同じ放課後。突如して響き渡った悲鳴は部長のものだった。

 これはただごとではない(部長基準)と確信して、読んでいた漫画雑誌をコタツに置く。


「く、来るなぁ! 見るなぁ! ダメっ、辱めるなーっ! こんな私を見るんじゃない!」

「べつにどんな部長でもいいじゃないですか。気にしませんよ」

「そ、それは嬉しいけどっ、だーめーなぁーのっ!!」

「まぁまぁ。ひとりで何か悩むよりもふたりでうぉっ!?」


 立ち上がろうとすれば、迫真のドロップキックが飛び込んできていた。

 半身で受け流そうとし、それはそれで危ないなと思って両腕を胸元で肩幅に広げる。

 すとんっ。部長が腕の中にぴったり収まった。お姫様抱っこのかたちである。


「何ですかこれ?」

「なんだろう……」


 シュールだった。けれども部長を抱っこしたことで、何が原因の叫びだったかを理解する。


「あぁ。太ったことですか? たしかに部長、ここ最近で二キロ増くらいだと思いま――」

「んがぁっ!!」

「いってぇえええッ!?」


 がぶり。珍しく首元に噛みつかれた。よくは見えないけども、痕になってる気がする。

 負けじとこっちも噛みつこうかと思った瞬間。今度は暴れ始めたので部長を下ろした。


「ひどいなぁもう」

「言ってはならんこと言うし、ヘンなことしようとするからだっ! ペポがっ!」


 顔を真っ赤にしておかんむりだった。だけど唸ってはないのでそれほどでもないらしい。


「けど俺、前から気づいてましたよ? 部長が太っ……おふくよかにおなりになられたこと」

「言い方の問題じゃねー」

「と言われてもですよ、ある程度までなら見ただけで大体の体重がわかっちゃうんですよね」

「……まじ? 女の敵みてーな特技だな、お前それ」

「まぁ、さすがに体型を隠されたら精度は落ちますよ。たとえば、部長は――」

「いっ、言わなくていいんだよっ!!」

「いたいいたい、痛いですって」


 制服のブレザーにひそませていたアメ玉の射撃が、リーチの差を埋めてくる。


「そもそも部長、お菓子を食べすぎなんですよ」

「うっ」

「うっ、じゃありません。運動……というかほら、ここで体幹でもすればいいんですよ」

「体幹なぁ」


 さりげなくお腹に視線を落とす部長。ふにふにと触った後で、俺がいることを思い出してかさらにうつむく。すると何やら決心した部長が「よし!」と意気込み、ビシっと命令した。


「一緒にやるか!」

「いいですよ」


 そろってブレザーを脱ぎ、真っ白いシャツ一枚で体幹トレーニングに励んでいく。

 とはいえここでできるのは、色々と体勢を変えての姿勢維持。ようするにプランク系だ。


「部長、お尻が下がってますよ」

「お尻がたるんでるとか言うなっ!」

「ほら、足が下がってます」

「あ、上げすぎだからっ、辛いからっ! 苦しいからっ!」

「俺は今、部長の苦しむところが見たいんです!」

「ば、ばかーっ!」


 プランクは姿勢が正しくなければ、やってもほとんど効果がない。だから俺も厳しく部長のフォームを指摘し続けた。その結果、仰向けで「はぁっ、はぁ……」と息を切らしていた。


「さっ、部長。締めは腹筋です!」

「わ、わかったよもうぅ……でも、またさっきみたいにパンツ見たら蹴るぞ」

「見ませんって。ほら、目をつぶってますから」

「百人一首のときは見たくせに」


 黙秘した。じーっと見つめる視線を浴びながら、部長の両足に足を絡めて固定する。

 どうにもやる度に浮いてしまうらしい。目をつぶると触れた感触だけが残った。


「ちゃんと押さえとけよ」

「わかってますって。はい、いーちっ」


 短い息づかいが聞こえてくる。その度に部長の足が暴れようとして、しっかり押さえる。

 続くこと十数回。そのあたりから反動の生まれる間隔に開きが出てきた。

 それは一秒、二秒と少しずつ長くなり、さすがに疲れが出ているのだろう。なので、


「部長、もう今日はこれくらいで終わ、り……」


 言って目を開く。息のかかる距離。部長の瞳の中にいる自分がびくりと反応した。


「「…………」」

「な、なんっ、おまっ、め、目ぇ開くなよっ!」


 ややあってから、ハッとして慌ただしくなる部長。それに「いや、でも」と反論すれば、


「でもじゃないっ! ちゅ、ちゅーしだろっ! ダメだダメだ、こんなのはっ!」

「あ、俺はまだやりたいので。そうだ、ちょっと背中に乗ってみてくださいよ」

「え? ぁ……うん。いいけど、なんか釈然としない私だぞ」


 腕立て伏せの姿勢になって、背中におずおずと座る部長。ずしん。体重がのしかかる。


「うっ」

「う? なんだ、私の聞き間違えか?」

「……う、羽毛のように……か、かるい」

「だよな」


 ひどい。それに自分で言い出したことだけども、かなりきつい。正直、やめればよかった。


「――ふっ、ふっ、ふっ、ふ」

「ペポってさ、けっこう筋肉質だよな」

「そう、ですかね」


 部長は「うん」と返事をして、ぺたぺたと背中に触れる。少しだけくすぐったかった。

 数十回と続け、最後は力尽きるように畳へ。けれど部長は背中から降りてくれない。


「部長、終わりましたよ。ありがとうございました。降りていいですよ」

「ダメだ」

「えぇー」


 結局、先生以外の皆がそろって和室に入ってくるまでの一時間。そのままだった。



 ――以下、おまけ。


 里「あれ? おふたりともこんな部室目前でどうかしたんですか?」

 千「あぁ、りーちゃん。こんにちは」

 菫「やっほー。いいとこに来たねー。ほらー、見て見てこれー」

 里「こんにちは。スマホがどうかし……ってなんですかこれぇッ、ふんぐんぐぐっ!?」

 千「もう少し声を抑えて、りーちゃん」

 菫「そうだよー。わたしたちに揉みしだかれても知らないぞー?」

 里「こくこく――ぷはっ。で、ですけど……というか、こんなのいつの間に」

 千「本当に今日、たまたま試験運用で仕掛けたらこれというわけだねぇ」

 菫「そーそー。べつにふたりのアパートに仕掛けようとしてたわけじゃないからー」

 里「……し、信じますけどもう二度とやらないでください。撮るなら堂々とお願いします」

 千・菫「はぁーい」

 千「あぁ、なら言っておくべきかな。りーちゃんの成長を記録したいから脱がして撮るね?」

 里「そういう堂々さの話じゃありませんからぁっ!?」

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