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百人一首

 いつも通りな放課後の、いつも通りな和室。

 いつものように、ぱたりと少女漫画を閉じた部長が言った。


「よし! ちょっと今日は茶道部らしく、和を感じることしよーぜ」

「……茶道部らしく茶道をすればいいんじゃないですかね」

「もちろんダメだ。つーわけで……」


 即答し、中身を把握しきれていないらしい押入れを漁り始める部長。

 数分後。嬉しそうな「お、あったあった」という声が聞こえてくる。それは、


「百人一首だねぇ」

「やったーっ、やるやるー」

「先輩たち、よくやられるんですか!」


 ギャルっぽい見た目のわりに、食いつきのいい里奈が訊ねた。


「そうだねぇ。去年は一か月ずっとやってる時期もあったかなぁ」

「はいはーい。わたし読手! 読手やりまーすっ」

「やだよ。スゥの読み方やりづらいし……と言いたいとこだが、先生いないからしゃーなし」


 元気いっぱいに喜ぶ菫先輩が、作りかけの城をさっさと片していく。

 コタツもどかしてスペースを確保し、ほどなく――準備は整った。

 俺の初戦の相手は千雪先輩で、その後ろに里奈の背中と部長が見える位置取りだ。


「ちなみにペポ。いまさら、ひとつも知らねーとか言わねーよな」

「うちの中学、国語の授業つぶして百人一首大会とかやってましたし。多少は」

「ならよし!」


 源平合戦ルールでは、下の句が書かれた百枚の札のうち五十枚ずつ並べて陣地とする。

 読手が読んだ上の句に続くものを相手より先に取り、自陣の札をすべて無くせば勝ち。

 けれど一組しか札がないので、今回は二十五枚ずつ。最初から半分が空札だ。


「食いつき良かったから気にしてなかったけど、りーちゃんは?」

「アタシも平気です。漫画にハマって一時期、遊んでましたから。ひとりで!」

「おぉ。好きなんだねぇ、ひとり遊び」


 反応しづらい一言をつけ足されようとも、千雪先輩は平常運転だった。

 すると早く読みたくてうずうずしている菫先輩が、もう限界とばかりに始める。


「難波津にー、咲くやこの花ぁ、冬ごもーりー。今は春べとー、咲くやこの花ぁ」


 ずいぶんとのんびりした声で、序歌が読み上げられていく。

 おそらく録音テープのものよりもはるかに遅かった。序歌が終わり、緊張が走る。


「うかりける――……」

「「ハゲぇっ!」」


 声に続いてすぐに、ぱぁんっ、と響く快音。今回だと〝うか〟の二文字が読まれた時点で、〝はげしかれとは~〟が確定するので取りは早い。いわゆる〝うっかりハゲ〟だった。


「よっしゃーっ!」


 部長の取りだったらしい。ちなみに向こうで動きがあるということは、こっちには札がないことを意味していた。もしお手つきをした場合、相手から札を一枚送られてしまう。


「部長はともかく、里奈までいい取りっぷり――……ですね」

「いっ、いいでしょ、べつに。今までやる機会なかったんだしっ」


 相手陣地の端まで飛びついた里奈が、振り向いて恥ずかしそうに答える。

 俺が言葉を詰まらせた理由には気づかなかったようだ。目をそらす。ありがたい。


 けれど千雪先輩は、「あれあれぇ?」と言いたげなにんまり顔で俺を見ていた。

 さすがだ。見透かされているようで頬が熱くなり、集中力が落ちるのがわかる。


「いにしえの――……」

「「けふここっ! ……は、ねぇな(ない)」」

「ここだねぇ」


 気を抜いている間に、あっさりと俺の陣にあった札を取られてしまった。

 自陣の札を取られたので、先輩の陣から一枚送られてくる。


「なんだよペポ、だらしねーな。じゃあ、毎度のごとく取りの一番が少ないやつ罰ゲームな」

「いいですね! やりましょう! 負けませんよ由真先輩!」

「望むところ! まずはりーぽん、お前をけちょんけちょんにしてやる!」


 ふたりともノリノリだった。そのまま試合は続き――一進一退の攻防が繰り広げられる。

 一方の俺はというと、すでに十枚以上の差がついてしまっていた。かなりの劣勢だ。


 原因に自覚はある。やはりその時が訪れる度、集中を乱されてしまうのだ。

 すると千雪先輩に手招きされ、お互いに身体を伸ばす。ひそひそ声でささやかれた。


「……ねぇねぇ。そんなにりーちゃんの下着が気になるの? 何色だった? えっちだなぁ」

「――――っ!! そ、そういうわけじゃ……ない、んですけど……」


 そういうわけだった。というのも里奈と部長はかなり暗記していて、動き出しが早い。

 逆説的な空札の判断材料となり、あちらを気にする余裕を生んでしまうのだ。

 結果、里奈が相手陣地の札を取ろうとする際。見えるものが雑念となっていた。


「!?」

「なげきつつ――……」

「いかぁっ!」


 部長が自陣から札を取る。対する里奈は明らかに動きが鈍くなっていた。そして――


「よっしゃーっ! 私の勝ちーっ! ……なんだけど、りーぽんどっか擦りむいたりした?」

「ち、ちがいますっ。あっ、す、菫先輩! 次はアタシが読んでもいいですかっ!」

「んー? いいよー」


 慌ただしく里奈が立ち上がる。もちろん、スカートをがっちりと手で押さえながら。

 目が合った。すごく睨んでいた。聞こえていたらしい。ごめんなさい……。


「じゃあ相手、変えないとねぇ」


 千雪先輩は示し合わせたように菫先輩と入れ替わり、理由をつけて部長の場所に座った。

 部長の背中と先輩たちの笑顔がよく見える。イヤな予感を通り越して手遅れを悟った。


(み、未来が見えるようだ……)


 実際、ふたりにとって俺が見ていたかどうかは問題にならない。勝負に夢中で無防備だった恥ずかしさの自覚が、見えていてもおかしくないという納得をすぐに生むからだ。


 案の定、タイムリープを錯覚するくらい同じ展開。部長の髪がよく逆立っていた。


「……なぁ、そういえば。取りの一番少ないやつがリン……罰ゲームだったよな?」

「はい、由真先輩。罰ゲー……私刑だったと思います」

「おかしいよなぁっ!?」


 じりじりと距離を詰められる。先輩たちはスマホを構え、完全に野次馬ムーブだ。

 だが俺も男だ。罰は潔く受けよう! けれどそれが癪だったのか、想像の三倍ボコられた。



 ――以下、おまけ。


 菫「なんで男の子ってぱんつが好きなんだろうねー」

 智「いやべつに俺も……特別、好きってわけじゃ」

 由・里「……へぇー」

 智「な、なんでもないです……」

 千「逆に女の子で男の下着を見たいって主張はあまり聞かないね。千雪も見たくないけれど」

 菫「好きな相手のならとかは思ってそー。でー? どうなんだよーぅ、ふたりともー」

 由・里「えっ!?」

 由「い、いやっ、私は見たいとかねーけどな? りーぽんは知らんけど。おっぱいデカいし」

 里「む、胸は関係ないと思いますっ! 下着とか、全然興味ないので! ので!」

 千「えぇー、ほんとぉー?」

 菫「わかったー。下着じゃなくてー、裸のほうが興味あるんでしょー?」

 里「ち、ちがいますっ! な、なんでにじり寄って……ぇ、あっ、ちょ。やっ――……」

 智(……とりあえず、自衛のために目はつむっておくか)

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