罰ゲーム
何やかんや七巡もした一発芸大会の敗者は、里奈に決まった。最初はどうにか俺を最下位にしようとしていた皆も、連発される笑いにくいネタでさすがに断念したらしい。
「で。何にするよ? 罰ゲーム」
「とりあえずー、わたしとちゆちゆの私物で使えそうなのはこの辺りかなー」
そう言ってコタツの上に持ってきたのは、手錠と足錠。あとヘッドホンだった。
「また持ってきてるんですか……」
「えぇー? なんでか聞きたいー? それはねー、ちゆちゆと屋上前の踊り場で色々と――」
「あ。教えてくれなくてけっこうです」
即答されてしょんぼり顔になった菫先輩が、千雪先輩に抱きついてよしよしされている。
ふたりのことだから、きっと校内とか関係なくやることをやっているのだろう。
浮かんでくるのは、手足を拘束された菫先輩に迫る千雪先輩の姿で――
「……ペポ。一応、言っといてやるけど。今、お前が想像した絵面とたぶん逆だぞ」
「え。ど、どういう意味かよく……」
「ふぅーーーん。ま、いいや。で、私が持ってるのはこれくらいだな」
部長が「ほれ」と放り投げたのは、変顔アイマスクだ。たぶん懸賞で当てたやつ。
「俺と里奈は、体育で使ったなわとびだけですかね」
「おー。そういやうちの学校、なわとび貸してくれねーんだよな」
「はい、おかげで実家のほうに取りに行くハメになりましたよ」
「そういえばぁ。古賀ちゃんはまだかなぁ?」
千雪先輩がつぶやく。何か取りに行くと和室を出て、まだ戻ってきていなかった。
「んー。まぁじゃあ、とりあえず縛るかー。ほれ、りーぽん。敗者は潔く座れ座れ!」
「は、はい……なんでアタシが最下位なんだろう……おもしろいと思ったのに――……」
ビリの衝撃から立ち直れずにいる里奈が、なわとびでくるくると椅子に巻かれていく。
手錠は挙げさせた両手が後ろにある、ポールダンス用のポールにかかるように。
足錠は右足と椅子の脚にかけ、ヘッドホンと変顔アイマスクが装着される。
残ったなわとびで椅子の後ろ脚とポールを結び、椅子がなるべく動かないよう固定した。
「こ、この時点でもうだいぶ、ちょっと……」
「いかがわしいねぇ」
「えっちだねー」
部長がジト目でこっちを見ていた。手を振ってあげたら唸り始めたので謝っておく。
「あ、そうだー。あれを忘れちゃダメだよねー」
菫先輩がスマホを取り出し、ヘッドホンと接続する。音楽でもかけるのだろうか。
すると里奈の身体がびくりと跳ねた。困惑した表情は、少しずつ赤く染まってゆく。
「――っ!? せ、先輩……これ、あの。ちょっと……え? う、うそ……ひゃ、ふっ!?」
「わたしとちゆちゆがねー。個人サイトで販売してるASMRをかけてみましたーっ」
「あ、相変わらずはっちゃけてんな。お前ら」
「現役女子高生の、って付加価値をつければ何でも売れますもんね……」
千雪先輩が「せいかぁい」と甘く言う。超資産家の血筋が考えることはよくわからない。
とはいえ今は家出をし、菫先輩やメイドさんと四人暮らしなのでお金が必要なのだろう。
「せ、せんぱい。これ、も、もしかしてその……えぇっ、あんなとこでっ、そんなことをっ」
「? んじゃ。そろそろりーぽん、いじくり回すとしますか」
自分がされる側でないため、ノリのいい部長は意気込んで里奈の腋をくすぐり始めた。
「ほれほれほれーっ! どうだ、ここか? ここなんだろ? そうなんだろ? ん? ん?」
「く、ふっ。ひゃっ、あははっ。ゆ、由真先輩ですよね? く、くすぐったいですよぉ」
持ち前の器用さを発揮する部長の前に、里奈は身をよじらせながら笑い声を漏らす。
「ん。なんで私だってわかったんだ?」
「やることが子供っぽいからじゃないですか」
「むかちん。言ったな、ペポお前。じゃあほら、子供っぽくないことやってみろよ」
むすっとした部長にげしげしと急かされ、少し考える。罰ゲームをいいことにヘンなとこを触ったりしたら後が怖い。けれど、足に触れるまたとないチャンスなのもたしかだった。
「――――っ!?」
「す、すげーな。当たり前にニーソ脱がして、足つぼマッサージ始めたぞ……」
「そこはほら、ひとつ屋根の下で暮してる分だけ距離感がちがうからねぇ」
「そーそー。ゆまゆまもして欲しいならー、ずるい私も脱がしてーって頼めばいいのよー」
「た、たのむわけないだろっ! ずるいとか、ちょっと気持ち良さそうとか思ってないし!」
日々経験する手つきで俺とわかったのだろう。わりと容赦ない抵抗だった。
けれど的確に痛い足つぼと気持ちいいところを交互に押していけば、抵抗も和らいでいく。
「……なぁんていうか罰ゲームじゃなくて、痛気持ちいい~って女の子の顔になってるねぇ」
菫先輩が「だねー」と同意した。するとふたりも罰に参加してきて、それぞれ太ももの内側と首筋を攻めていくことにしたらしい。さらにハンカチをくわえさせてもいる。
もう先輩たちの独壇場だった。徐々に直視しづらい状況となり、そこへ先生が戻って来る。
「お、古賀ちゃん先生。なんかいいもんあった? 新品の電動歯ブラシとか」
「あのね、いい? 常識的に考えてそんなもの、学校に持ってきてるわけがないでしょうに。貴戸さんはいったい先生を何だと思ってるの? あるのは極太きゅうりだけよ」
「いやなんでだよ」
「昼休みに松前先生で遊んだの。大丈夫、こっち側はまだきれいなままだから!」
「いや何がだよ……なんでもいいですけど、洗うんで貸してください」
里奈があんまりなので、せめてちゃんと洗っておく。ややあって流し場から戻れば、何やら話がついたらしい。少し顔を赤らめながら仁王立ちする部長に、極太きゅうりを奪われた。
「ぶ、部長命令だっ、お前は部屋のすみっこで大人しくあっち向いてろ!」
「ここから先はー、音声だけでお楽しみくださーい」
「残念だねぇ、ペポくん」
「さすがにこれ。男の子に見られるのは、ちょっとどうかなーってことで。ね?」
素直に従い、〝日日是好日〟や〝悠然見南山〟と書かれた掛け軸を見つめることにした。
何をするかは想像がつく。応えるように響く「キャーキャー」と色めく声。そして連続するシャッター音。今日は女子だけのグループLINEで、夜中まで盛り上がってそうだ。
しばらくして、罰ゲームを堪能し終えた菫先輩がそっと耳元でささやいてくる。
「ねー、ぺぽぺぽ。目隠し取る時にー、ベルトをカチャカチャいじっていてもらうのは――」
「ライン超えですよ。絶対ダメです」
「あー、やっぱりー?」
目隠しを取られてぐったりな様子の里奈は、ぼんやりとした眼差しで俺のほうを見ていた。
その日の夜。正気に戻った後で、本当に見ていなかったかを何度も確認されるのであった。
――以下、おまけ。
里『あのー、昼間も聞きましたけど……本当に見られてないんですよね?』
菫『困ったことにそこで見ないのがー、ぺぽぺぽなんだよなー』
千『うん、だって千雪の友達だもの』
由『まず見てねーだろ』
瞳『あ、でも。見てたってことにして、ケツにきゅうりぶっ刺してみたくない?』
菫『みたいかもー。かわいい顔しそー』
里『ひどすぎます』
由『人工肛門になったらかわいそうだろ』
瞳『貴戸さんはどれだけ激しく出し挿れする想定なの……?』
菫『あー、そういえばー。りなりな宛てにディルド送りつけといたから使ってねー』
千『税込み7982円の電動式だねぇ。3日くらいで着くんじゃないかな』
里『え。冗談ですよね? 冗談と言ってくれませんか? 言いなさい、言え!』
瞳・由『草』