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一発芸

「すげー暇だから、ちょっと一発芸大会やろうぜ」

「これまた唐突ですね」


 放課後。いつものように六人そろった和室。よく響く声があった。

 それぞれ好き勝手やっていた手を止めて、皆の視線が膝上の部長に集まる。


「人生いつだって唐突なんだよ。ていうかそろそろ慣れろっ! んじゃ私からな。おっとっととっとってっていっとったとになんでとっとってくれんかったとっていっとーと!」

「おぉ~」

「博多弁だねー。かわいいー」

「絶対、練習してきたじゃないですか部長それ」

「いーんだよ。じゃあもういっちょ。赤あぶりかるび青あぶりかるび黄あぶりかるび赤あぶりかるび青あぶりかるび黄あぶりかるび赤あぶりかるび青あぶりかるび黄あぶりかるびっ!」

「先生には言えなーい」

「アタシもです」


 ふたりがそうやって言うもんだから、部長も「だろー?」ってどや顔がすさまじい。


「じゃあ次はアタシが。先輩たちの後にやるのイヤですし」

「おっ、いいね。りーぽん、いけいけーっ」


 皆の注目を浴びながら、里奈はこほんと咳ばらいをひとつ。そして、


「では歌います。一年生になったのに~♪ 一年生になったのに~♪  友達ひっとりもできません~♪ ひゃーくにん、なんてムリですよ♪ がーんばって話しても小○製薬~♪」


 おそらくこの場にいる全員が同じことを思い、同じような顔をしたことだろう。

 それほどの衝撃だ。気にせず里奈は「あっ」と歌い続けている。しかしさすがに菫先輩が、


「りなりなー、それはー。それはただ、かなしいだけかなー……」

「な、なにゆえそんな替え歌をりーぽんお前。いや、歌は上手いんだけどさ」

「最近、保育園のお手伝いでよく歌を歌ってるので。ダメでしたか? 実体験なんですけど」


 部長も言葉を詰まらせていた。すると古賀ちゃん先生が何気なくつぶやく。


「先生、いつも思うけど。自分含めて101人なのに、ひとりはどこへ消えたのよ?」

「帰った、はぐれた、友達じゃなくなった。そんなところだと思うなぁ、千雪は」

「じゃあ彼氏彼女にでもなったんですよ。たぶん」


 俺がそう言うと皆、「おー」と声をそろえて感心していた。けれどひとりだけ、


「くっ、これも恋愛ソングだったっていうの!? そうとも知らずあたし……許せないっ!」

「……この歌に腹立てるのって先生くらいだと思いますよ」

「はいはーい。じゃあ次、わたしわたしーっ」


 元気よく手を挙げ、色々と跳ねさせながら主張する。ちょっと目のやり場に困った。


「でもー。これー、ひとりじゃ伝わりにくいからー。ちゆちゆ手伝ってー」


 もちろん二つ返事でオーケーする千雪先輩。何やらこしょこしょと相談を始める。

 ほどなく横並びでポーズを取り、絵になる顔立ちのふたりが口端に笑みを咲かせて続けた。


「かわいいヒロインズとかけましてー。見つめ合っていないふたりと説くー。その心は――」

「どちらも好きな男がぁ、他にいるでしょうー」

「「タイトル、男が出てきがちな百合っぽいラノベの表紙ーっ!」」

「もはや謎かけでも何でもないし、見つめ合ってても地雷はあるじゃないですか……」

「でも言われてみれば先輩たちから薦められるのって、たしかにいつも見つめ合ってる気が」

「りーぽん。ああいうの読めるんだ。意外だぞ……」

「ま、先生的にはキャラが良ければ表紙詐欺でも気にしないなー」


 各々が感想を言う傍で。もう少しウケると思っていたらしい菫先輩は肩を落としていた。


「じゃあ次は千雪かなぁ。んー、あっ。そうだぁ。ショートコント――〝結婚相談所〟」


 宣言するなり和室にある椅子をふたつ持ってきて、ひとり芝居を始める。


「もう観念しました。普通の人でいいんです」「おや、前回の年収千万の方とは?」「別れました。金あるくせにいつも割り勘……ありえないでしょ!」「なるほど」「だから普通の人と普通に結婚したいんです。間違ってますか!」「間違ってますね。はい、次の方ーっ」


 自然な流れでそう声をかけると、皆の視線が一点へ集中した。


「あのー、皆? 今の流れで迷わず先生のほうを見るのは、何かおかしくなぁーい?」


 おかしくない。先生は渋々ながら椅子に向かい、すらすらと要望を語っていく。


「まず顔、身長、学歴は平均以上、家事はテキトーでもいい人で! 田舎住みと長男はパス。あとあたし、歳上よりも下のほうが気は合うので二十代でも全然。それで年収は――」

「まだ選ぶ側と思ってる限り無理なので、お帰りくださぁい。はい、次の方ーっ」


 辛辣すぎてさすがに笑ってしまった。先生も瞳に涙を溜め込んでいる。


「くっ、くくやちいぃッ。正論ハラスメント禁止っ! あと薬指ちらつかせて既婚者アピールするのやめなさいよっ! ま、まったくこの相談所の教育はどうなってるのよ、教育はっ!」

「これあれだねー。一発じゃなくてー、むしろ一生ギャグだねー」

「日々伏線張って生きてるなんてすげーな、古賀ちゃん! 誰にでもできることじゃねー」

「言いすぎだと思います。先生だって好きでこんな、独身なんてやってるはずありません」

「は、波瀬さん……」

「だから努力もせず結果だけ求める身の程知らずみたいに言うの、よくないと思います。そもそも先生だって。あんな条件、本気で言ってるわけないですよ。そうですよね、古賀先生?」

「おぉ、さらりと懐に潜り込んで的確に急所を! やるねぇ、りーちゃん!」


 感極まっていた先生は里奈の奇襲に「ぐはぁっ」と吐血。ふらふらと俺の傍にやってくる。

 本能が敵味方を識別しているのだろう。チラチラと俺に慰めてアピールをしていた。


「ぐすん。ねぇ波瀬くん。もし、もしよ……ずっと余ってたその時は。もらってくれる?」

「いやあ」

「いやぁあああああっ!」


 爆笑だった。すると見かねたらしい里奈が委員長のごとく仲裁に立ち上がろうとして、


「ちょっと。そこは一応、慰め――」

「先生と結婚するなら、まだ里奈とするほうが高いんじゃないですか」

「ほえ……ぁ。そ、そう…………そうなの。そうなんだ。ふふ」


 想像できないという意図だったけど、里奈は読みかけの小説にうつむく。それを見た先生も錯乱して部長ごと俺を突き飛ばした。それでもひとしきり笑い、涙を拭った部長が続ける。


「やー、笑った笑った。あ、先生はもう飛ばしていいや。んじゃラスト、ペポな」

「俺の番ですか。実は今度、バイト先のカフェでマジックをやってみようと思ってて――」


 カバンからトランプを取り出す。皆に集まってもらい、練習中のネタを披露していった。

 一発芸大会はそのままめでたく二巡目に突入。やがて、ついに五巡目――


「よっし。そろそろ全員、自分の鉄板ネタ使い切っただろ? 次、罰ゲームありの本番な!」


 当然「えぇーっ」と先輩組以外から部長へ非難が飛ぶ。どうやらまだまだ続くらしい。



 ――以下、おまけ。


 智「……なぁ、里奈おまえ。もしかして自虐ネタの反射神経だけ無駄に良いのか?」

 由「あー、言われてみればたしかに」

 瞳「普通に自分に自信がないからじゃないの?」

 里「ぅ……」

 菫「いやー、だからって古賀ちゃんくらい自信過剰のりなりなは見たくないなー」

 千「とりあえず、りーちゃん。胸を張ってみよう。はい、息を吸ってぇ」

 里「え? は、はぁ。すぅ――……」

 菫「うーむ。やっぱりわたしよりでかいねー」

 千「ゆーちゃんの顔くらいあるんじゃないかな」

 由「ちなみに私は、始めから勝負にならん勝負の勝敗には特に何とも思わないタチだ」

 瞳「それ、本当かしらぁ? けどこれであたしの中でもはっきりしたわね。ずばり波瀬さん、菫さん、あたし、茅沼さん――……波瀬くん、貴戸さんよ!」

 智「マジで?」

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