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通過儀礼

「――だから。昨日のあれはわざとじゃないんですって、部長」

「ふんっ、関係ねーな」


 不可抗力で押し倒してしまった翌日。その放課後。

 膝上に大仏のごとく居座る部長は、どうにもまだご機嫌ナナメな様子だった。


「なら膝の上からどいてくださいよ……」

「コタツから出ていくことになるのはペポ、お前だぞ」


 さっきからこの調子で取りつく島もない。首をかしげる里奈が訊く。


「あの、何をしたんですか?」

「半裸でぇ」

「押し倒しー」

「……バールのようなもの、って何だかすごくいい響きですよね」

「今する話じゃないよなっ!?」

「そんなことより皆。あれ、忘れてない?」


 何やら視線を促してくる古賀ちゃん先生。けれど思い当たるものはない。

 ややあって手のひらを叩いた部長が、「おぉ、そういや忘れてたな」とつぶやく。

 立ち上がり、向かうのは銀の長棒。どう考えても茶道とは無縁だった。


「ペポ! りーぽん! お前らにはやってもらうことがある!」

「そもそも和室になんでポールダンスのポールが……」


 畳から天井まで突き刺さったポール。挙手しての疑問に里奈もうなずいていた。


「なんでってそりゃあ、使うためだろ。コレクションのためにお金出すわけないじゃん」

「古賀ちゃんくらいだよー。もうこんなにギンギンにしちゃってー、とか」

「この匂いは8000コガスメル。はぁ、くっさぁ……って悦に浸るために買うなんてねぇ」

「そうそう。そして思い出す、栄光の小学生時代! 初めての上り棒でこすれた――」


 菫先輩と千雪先輩がおかしなことを言い出し、それに先生が乗っかって、


「あーっ、もう進めていいよー?」

「そうだねぇ。コガスメルとかわけがわからないかなぁ」

「何となくわかってたけど、そこで見捨てるのはあんまりなのぉっ!」


 2秒で泣かされていた。わりとよく見かける、いつもの光景だ。


「バカやってないで本題だ! つってもふたりに踊ってもらうだけなんだけどな」


 踊る姿でも想像してか、里奈の顔はみるみる赤くなっていた。

 部長も「ほれほれ」なんて言って、せっせとコタツから追い出そうとしてくる。


「いや、ほれと言われてもですね」

「……はい、ポールダンスなんてやったことないですし」

「んなもんフィーリングだ。フィーリング!」


 ハードルの高い要求だった。アドリブ力が低いであろう里奈にはまず無理だろう。


「まぁまぁ、ここは一つ。千雪たちがお手本をだねぇ」

「それもそうだねー」

「ん……しゃーないか。言っとくけどやらねーって選択肢はないぞ。通過儀礼だ!」


 部長がしぶしぶ了承し、先輩たちは当然のようにスカートを脱ぎ始めた。


「「「――ッ!?」」」

「……って、なんで部長まで驚いてんですかっ!?」


 脱衣から目をそらす。ふたりの楽しそうな笑いが聞こえた。


穿いたままでも一応できるのに。脱ぐとは思わないじゃん……」

「くっ、当たり前のようにあたしより高いのを穿いているっ!」


 そういう問題じゃない。やっぱりこの先生、ほぼ同級生だろ。


「んー? べつに気にすることないと思うなー」

「うん。羞恥心のない下着姿なんて何もえっちくないからねぇ」


 淡白な受け答えだった。先輩たちは軽く柔軟をし、ポールを掴んで身体を宙に浮かせる。

 さらりとやってのけるけど、そもそもあれが俺にできるのかも不明だ。


「それに少しは見とかないとペポくんが困るんじゃないかなぁ」

「……ですね。やらないつもりもないので」


 里奈と部長が何やらこっちを見て、怨念のようなものを込めている気がした。

 気にせず目を限りなく細め、ぼんやりとしたシルエットを目で追っていく。


 逆立ちのようになったり、ポールに腰をかけたり、ほとんど真上に足を開いてポールに肩を入れたりしながら、昇り降りを繰り返して笑顔で何度も回っている。


 素人から見ればどっちも上手いけれど、たぶん千雪先輩に軍配だろう。

 ほどなく踊り終わり、お辞儀をしたところで和室に大きな拍手が響いた。


「先生、心がオッサンになりそうわよ!」

「いつもじゃん。てかやっぱ上手すぎんだよなぁ、私の求めてるのとちがう」

「何と言うか、大胆ですね……あの、すごい足を開いてたのとか」

「う、うん……アタシ、あんなに柔軟性ないよ」

「えー、どれー? チョップスティックス? アイーシャ?」

「それともドラゴンテイル? スパッチコックかなぁ」

「わからないですけど、大体全部ということで」


 ふたりだからかも知れないが、あまりに扇情的だった。さすがと言わざるを得ない。

 生まれがいいので経験の積み重ねが普通とはちがうのだろう。というわけで――

 いざ俺はポールダンスに挑み、制服の股下が裂けるなんてオチを迎えた。


 どうにも身体を浮かせ、遠心力で回るのは見た目よりも難しいらしい。

 そうして、緊張しきった里奈の番がやってくる。見守られながらポールを両手で掴んだ。


 勢いよく「えいっ」と跳躍し、地に足をつけたままくるりと回ってしまう。

 根本的に筋力が足りないらしい。単なる照れ笑いしながらのスキップになっていた。


「そうそう! これが見たかったんだよ、りーぽん! いいよいいよ、いい笑顔だぞ!」

「うんうん、こういう時にチラッと見えるのがいいんだよねー」

「りーちゃんギャルっぽいのに中身は生真面目だから、ギャップもなおいいよねぇ」


 暖かい視線が里奈を包む。けれどそれが逆に効くのか、完璧に茹で上がっていた。


「うぅ、う……は、恥ずかしいです……もう、やめてもいいですか?」


 部長が即座に「ダメだ」と否定し、里奈はポールを軸にぐるぐる回り続ける。


「というか貴戸さんもこんな感じじゃなかった? チワワとトイプードルくらいの差だけど」

「あっ! こ、古賀ちゃん! 余計なこと言うんじゃねーっ!」

「へぇ、そうなんですね。ところで次は部長の番じゃないですか?」

「な――っ。そ、そんなわけないだろっ! み、見るな! 皆して見ぃーるーなーっ!」


 かたくなに拒絶するが、部長コールは鳴り止まない。さて、どんなものが見れるだろうか。



 ――以下、おまけ。


 智「部長かわいいー」

 千・菫「かわいい、かわいいー」

 瞳「ね、チワワでしょ? 先生、ウソつかない! ……たまにしか」

 里「ふふ」

 智「もうこれ、ひらがなで〝ぶちょー〟でいいんじゃないですか?」

 菫「いいねいいねー、首にかける名札作ろー」

 千「ぶーちゃんだねぇ」

 瞳「ぷくくくくっ」

 由「ぐ、ぐぬぬぬぬっ。お、お前ら好き放題に言いやがってぇ! ひ、ひとりでネタにされる私であるもんかぁ! こうなったらりーぽん、お前もいっしょに踊るんだよ!」

 里「へ?」

 由「へ、じゃないっ! 部長命令だっ、ぶ、ちょ、う、め、い、れ、いっ!」

 里「そ、そんなぁ……」

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