第四夜 決着
去来するもの
それは……
都会の路地裏などから迷路のような道を通じてたどり着けるような場所。
高層建築物に囲まれた空き地の集積場。リサイクルのための破棄された回収物などが空き地のそこかしこに堆く、雑然と散らかって固めて置かれている。そんな様子を想像させるような、広大な廃棄エリア。
そこに張られていた結界は、対するあたしたちの戦闘によって、
正しくは鬼の過剰な攻撃、雷の顎や爪の斬撃、或いは単純に鬼の激しい移動やぶつかった時の体の衝撃で歪み、ひび割れてしまっている。
ところどころには、人程度なら何とか通れそうな開口部が開いてしまっており、あと一当て二当てすれば鬼の巨体でもくぐり抜けられそうな穴が空きそうだ……
影を使う鬼の影渡りの力を使えば、すき間だらけとなったこの結界なら、苦も無くすり抜けて逃亡してしまうだろう。
結界の外では、あたしの電子妖精や、新たな使い魔たちが忙しく飛び回って、結界の修復、貼り直しに追われているに違いない。
今も電子妖精のわめき声が、頭に直接響いて煩い。通話回線を一度切る。
逃亡の危険性について、警告を続けているのだ。
まあ、戦闘狂のあの鬼ならば、
そんなことは考えずに、目の前の得物に向かって、脇目も振らずに爛々とした眼を輝かせながら、あたしへと襲いかかり続けてくるに違いない♪
永遠にも感じられるほどの、瞬間瞬間の斬り合いが無限に続くかのような、そうした斬撃の繰り返し。
斬撃を偽り、不意を突き、相手の思惑を逆手に、鬼のその身へと切りつけ、
鬼の返す刃を逸らし、躱し、殺意の刃を自らの命から遠ざける。
刹那が永劫の如く、命の遣り取りが愛の睦言であるかのような濃密な時が過ぎる。
どれくらいの時が過ぎたのか……
時を感じる心はもう麻痺してしまっている。
相手の命に刃を届かせるための一瞬こそが全て。
その繰り返しがどれほどあったのか……
ふと、鬼は立ち止まり、物理的に在るようにも感じられるような膨大な覇気を止め、その身に収める。
「どうにも、らちが開かんな。
ここは仕切り直しとゆこうか」
鬼の傍らに揺らめく影が浮かぶ。
あたしの虚をついて、鬼はその影へと身を躍らせる。
-まずい!-
鬼は影を渡って何処かへと跳んだ。
反射的に加速して追おうかと一瞬考えたけれど、あたしはその考えを振り捨てて足を止める。
-だめだ……-
あの鬼の影は重ね張り出来る。
もしそうなら、影で追っても何処に跳ばされるか分からない。
「次の邂逅が楽しみだ。
その命、次のために大事にしておけ」
「そちらの名はその時にでも聞かせてもらおう」
幻聴のような、
そんな微かな鬼の言伝が聞こえてきたような気がした。
廃棄エリアで立ち尽くすあたしに、
電子妖精の光が迫ってくる様子、その姿を、あたしは見るともなく、ぼんやりと眺めていた。
-★☆ ☆★-
-逃げられた-
くそっ、言霊の強さが足りなかった。
あたしもまだまだか。
ここで討ち取るつもりだったんだけどね。
鬼への止めとして準備していた切り札は二つあったけど、試す間が取れなかったね。
ひとつは吸血鬼には致命となる白木の杭。
材料の木材はトネリコ。世界樹はトネリコの木であるという伝承があるのに、聖樹の木の原産は日本だという話も耳にするし、何よりもそのせいで入手がし易かった(笑)
さすがは聖なる木♪
もうひとつは花と蕾の付いた桃の若枝。
となりの大陸の桃源郷伝承に語られるように、桃の実は陽の気を帯びて、不老長寿の実とも言い伝えられるもの。
桃の木は桃源郷の内なる楽園と現世とを分けるように植えられて、陰の気を帯びたものを阻む結界を紡ぐために使われるほどの、知る人ぞ知る聖なる木の一つだ。
どちらもこの国日本で一般的なもの。やはり入手が楽という木だった♪←近所のホームセンターの園芸コーナーに植木として売っているものね(笑)
大陸の伝承を取り込んだ帰たる鬼には、こちらの桃の木のほうが効果的であると、あたしは考察していた。
その二つから加工した武器を伝承などの知識的情報も共に精密な情報として電脳世界へと再現、生成していたのだ。けれど……
それでも実際には鬼の死に触れられたどうか……
そのどちらかか両方が鬼に致命的だったとしても、果たして鬼の心臓へとそれを突き立てることが出来たかは判らない。
あの鬼はあたしの双剣が首を刎ねる軌跡へと腕を割り込ませて逸らしたり、
心臓への一撃を与える剣を掴み取ろうとしていたのだ。
大型の野生動物でさえ心臓への銃撃を受けた後にそのまま暫くは走り続けるのだから、
鬼の心臓をたとえ破壊できたとしても、こちらへと反撃をせずに滅びるとは、到底思えない。
命の一つくらいはくれてやってもいいんだけどね。
名もなき鬼相手にくれてやるほど、あたしの命は安くないんだ(笑)
-それでも、あの鬼はやはり強いねー
それに、以前よりも変わってきてるかも……
戦狂いの鬼なら、ああ言えば絶対に逃げない。
こちらの命を奪うため、死ぬまで戦いに突き進むかと思ったんだけどね。
それで始末できるだろうって……
鬼は竜のように闘いながら進化する。
なるべくなら早めに倒したいんだけど……
影を渡り逃げた鬼を、あたしは追えない。
鬼の影渡りは現世と電脳網との界渡りにも使える。
あたしの出来る転移では時間が掛かりすぎる。間に合わない。
追っても逃げられるだけだ。
今度は逃がさないための手段と、
それともう一つくらい、なにかの切り札を考えないといけないだろうね♪
-さあ~って、どうしようかな-
あいつの足取り、どこから手をつけようか……
-先ずは稲荷ちゃんに連絡かな♪-
-◆◆◆◆◆-
読んでいただきましてどうもありがとうございます♪(^人^)
おかげさまで投稿のひと区切りとなりましたm(_ _)m
次のパートは練り込みが甘いため、校正に手間が必要となるところですので、ゆっくりと投稿させていただくことになります(o_ _)o←五夜までの校正をしつつ、思いつき、流れの変わりそうな部分も出てきそうですし(^_^;)
お待ちいただければ幸いです(●´ω`●)
さて、あとは蛇足ですが、
今までの物語の舞台シーンとして正面に出てきているのは、前回の主人公で狩りの得物であった鬼と、前回の狩人役で今回の主人公であり語り手の猫又です。←あとは探索を行っているサポート役に前回からちらちらと出ていた電子妖精が正面の場面に出ていたりします。
実はそれ以外にも裏方としての人物が居たりいたします。
バックアップの役目としては、別方面から探索を行いつつ、地域の統括パイプ役でもあり、逐次投入される戦力にも数えられている稲荷ちゃんこと稲荷狐の絢葉や、
現実世界、電脳世界の猫又たちの装備製作に関わっている人物、それらの兵站としてネットワーク構築に干渉してじぶんたちに都合よく改ざん作業を行っている人物たちがおります。←彼らは続く話で名前が出てきたり、時に登場する場面があっていたりするかもしれない人物たちですね。既に拙作ろーぷれ世界で名前が出てきたり顔を出したりしてる人物でもあったりいたしますが(^_^;)
彼らは物語の先見性というかソケットというか、初めは拙作の中で書く予定の無い設定として造られていたものを、こちら側でも流用する形で使っております。
そうした裏方の設定は、時に使い回したりも出来て便利なこともあるということですね(^人^)♪
そういった蛇足のつぶやきでしたm(_ _)m