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第3話② サントとカインとボス部屋と

 ――いやん、これって同棲、同棲? それとも通い婚? 押しかけ女房? 現地妻?


 町の小路を数歩行くごとに、だらしなく相好を崩して笑みを浮かべている怪しい女魔術士が一人。

 すれ違う人々はみな怪訝そうな表情を浮かべながら避けて歩き、露店主たちは遠巻きに見つめ、犬は唸り声を上げていた。


「只今戻りました〜! サント君、第8階層の進入許可証貰ってきたわよ」


 ラルは意気揚々とユミック商店の扉を開けると店番の美少年に声を掛けた。


 振り返った少年は短めのポニーテールを揺らした。母親カレンによって美少女っぷりに磨きがかかっている。


「はぅっ!」


 サントの笑顔に当てられて膝から砕け落ちそうになるのを必死にこらえる。


「ラルさん、ありがとうございます。 これでやっと先に進めますね」


 サントの笑顔がラルの表情を溶かす。魔道士の顔はもう原形をとどめない程デレデレになっている。


○△□○△□○△□


 サントとラルがパーティーを組んでから2ヶ月が経過していた。

 この間にラルは影魔法(シャドウパレード)の研究開発、サントは鋼一角兎(アーリーラビットソン)を狙い撃ちして、経験値アップと常時クエスト対象であるドロップアイテムの角を集めまくった。


 これにはギルド長ダン・クックも吃驚仰天びっくりぎょうてん。慌ててサントの冒険者ランクを黒旗ブラックスから、正式なパーティーメンバーと認められる青旗ブルースまで引き上げていた。


○△□○△□○△□


「おめでとう。これでサントちゃんもトップシンカーの仲間入りだね。第8階層には門番ゲートキーパーが居るから頑張ってね」


 奥の工房スペースから顔を出した母親カレンがパチパチパチと拍手を送る。


――出たなカレンさん(ライバル)


 北の都にあるダンジョンは、第8階層以降はソロ冒険者の進入が認められていない。それは五つ星のラルとはいえ例外では無く、「荷物持ち(ポーター)」ではない正式なパーティーメンバーを一人以上人加える必要があった。

 そこで二人は、第7階層踏破とサントの冒険者ランクを青旗ブルースにする事を目標に据えた。


 そして今日。

 遂にサントを正式メンバーとした二人組のパーティーが誕生したのだった。


「まぁ、パーティーというよりコンビだけどね。前衛職もいた方が楽だよ~。私達がボス部屋を突破した時の攻略法教えてあげよっか?」


 カレンが軽い口調で茶茶(ツッコミ)を入れる。


「いざとなればハクライも居ますからね。まだ二人で大丈夫ですよ」


 事実、2人で挑んだ第6階層のボスはラルの魔法で完封勝利していた。


 ――ふふふ、二人きりの時間を邪魔されてなるものですか……。商店(ここ)だとカレンさんの監視が厳しくて近づくチャンスすら無いからね。


(主よ、もう遠慮なしだな……)

 ハクライが大きなため息とともに悪態をついた。


 ○△□○△□○△□○△□


 ――第8階層の門番。二つ星のカインさんのパーティーとテッドさんのパーティーが挑んでいる最前線だよね。僕も荷物持ちで一緒に行った時、ボス部屋の前の安全地帯まで行ったけ事はあるけど……。


 意気揚々と歩くラルの後ろでサントは思案に暮れていた。

 第8階層は廃墟の古代都市を抜け、ボスのいる神殿へと入るとモンスターが出現しなくなるのは分かっていた。


 ――次の角を曲がるとボス部屋手前の待機場所だったハズ……。


 二人の視線の先には大きな扉と3人の座り込む男女の姿があった。3人はサントの姿を捉えるとダルそうに話しかけてきた。


「なんだ、最近噂のサントさんじゃないですか? たった二人でココまで来たって事は、青旗(ブルース)に昇格したって話は本当みてぇだな。ついこの間まで俺達と同じ荷物持ち(ポーター)だったクセに、五つ星様は一体どんなイカサマを使ったんだ?」


「イカサマ?」


 カチンと来たラルが杖を上げようとするのをサントは制した。彼等は冒険者として名を上げるのではなく、荷物持ち(ポーター)専門として日銭を稼いでいた。そんな冒険者の成れの果てとも言える彼らからしたら、同類であったハズのサントが目障りであった。


「僕の事は悪く言っても良いですけど、ラルさんの事を言うのは許しませんよ」


「サントくん……」


 ――トゥクン。

 ラルの目がハートマークになっている。


「だいたい随分と軽装じゃねぇか。非力な道具屋のお前がどうやって怪物を倒して経験値を稼いだってんだよ?」


「それは……」


「サントくんはランク上げだけじゃなくて、私と一緒にオリジナルのアイテムボックスを作ったんだからね!」


 サントの機先を制して魔術士がしゃしゃり出る。


 正確に言えば、カレンに影魔法・影ぬい(パッチワーク)を習いながら3人でポシェット型のアイテムボックスを作り上げたのだが、ラルの記憶は既に都合よく改変されていた。


「アイテムボックスだぁ? Aランクにならなきゃ貸与されない物をお前が作っただと?」


「サントくんは天才だからね」

 ラルが鼻高々に答える。


 ラルとポーター達の低レベルないがみ合いが続くかと思われた瞬間、扉が開き冒険者達が雪崩をうって飛び出してきた。その姿は埃にまみれボロボロになっていたが、《《あの》》カインパーティーで間違いなかった。


「くっそー、どうしても3体目が越えられない……。ギルドの連中がケチって過去の攻略報告を共有させてくれないからこんなことになるんだ!」

「ホント、あの腐ったゴーレムどうにかならないの? コッチにまで臭いが移ってきそうだわ」

「前衛で攻撃を抑えている俺の身にもなってみろ!  得体のしれない液体が飛び散るんだぞ」

「アレはアンデッドであってアンデッドではない、魔法生命体(ホムンクルス)よ! 死肉の繋ぎ合わせであっても不死者ではないから、御神の裁きも効果がないわ。あのような存在、最上の存在である御神が赦すはずがありません……」

「……ボソッ(あら、あなた達)……」


 ――相変わらず文句が多い人達だなぁ……。

 サントから思わずため息が漏れる。


「さぁさぁ! 感想戦は後回しにして、私達のためにボス部屋を空けてくれるかしら?」


 ラルが仰け反るほどの上から目線でカインパーティを追い散らしてまわる。


「お前は五つ星の魔術士……。本当にサントと組んだのか?」

「もう、よその女に移ったの? 浮気性の男って最低よね」

「サント、お前死ぬ気か? いや、ほら、一応元仲間だろ。心配してだな……」

「汚らわしい淫魔よ。御神の裁きを受けるがいい……」

「……ボソッ(貧乳)……」


 ――いや、色々言われるのは慣れっこだけど、最後に言ったの誰? ほらほら、ラルさんが犯人探し始めちゃったじゃない!


 サントはラルのベルトを引っ張って止めようとするが、非力な彼では敵わない。全体重を乗せて引っ張り、やっと魔術士の突進は止まった。


「ラルさん、早くボス部屋に入りましょう。」


 ラルのベルトにぶら下がったような状態のままでサントは必死に声を掛ける。


「あっ!!」

「キャッ!!」


 サントが足を滑らすと二人はもつれ合うように床に倒れ込んだ。


 ――ん~~。いっ、息が……出来ない!!


 柔らかい何がサントの顔に押し付けられている。

 ――っ!


 サントが《《押さえつけていた》》ラルの腕から逃げ出すと、目の前に顔を赤らめ恥ずかしげに膝をつくラルの姿があった。


「サント、お前……」

「アンタ! 何やっているの!!」

「な、なんと破廉恥な」

「やはり淫魔……異端審問を呼び掛けないと」

「……ボソッ(羨ましい)……」


 カインのパーティーと荷物持ち(ポーター)達の視線が二人に集まる。


 ラルがうつむき加減にポソっと呟く。


「こんな所で大胆ね。責任取ってよね……」

「なっ、何もやっていませんから!!!!」


 サントの絶叫が虚しく木霊した。



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