第二話 二人だけの秘密。
転成の「成」はわざとこの漢字にしています。
成り代わりって意味を込めて...です。
「ごめん。」
私はそう彼女に言った。彼女は軽く頷き話を続ける。
「空音ちゃん。事故の事ってきちんと覚えてる...?」
彼女はそう言い、ちょこんと首を傾げながら問う。
事故...?事故の詳しい...事...?
「空音ちゃんは...病院の先生にね、この子は助からないと思います...って言われてたんだよ。」
え...?私が助からないと...死ぬって事?死ぬはずだったのに生きてるって事...?
「先生が言うには”奇跡的回復”です...って。私は今まで何十年も医者として働いてきましたけど、このような事例は極めて稀...といいますか、見たことがなかったので、私も驚きましたって。」
私は絶句した。この能力がある間は何があっても死ぬことがあっても...死ぬような事があっても、1回はあそこに行ってしまうのだろうか...あの自然豊かで...居心地のよい、あそこに...?そして...住み心地の良いこの身体に来てしまうのだろうか...?...と。私は面白いほどに憂鬱な気持ちになった。吐き気がする...。あくまでも私の憶測にしか過ぎない筈なのだが...。本当では無い事を願うばかりだ。私が固まっているのに気付いた彼女が気を遣ってくれたのか、
「どうしたの...?」
と聞いてくる。彼女の優しさには本当に感謝しきれない。その彼女の声に私は、
「大丈夫、ちょっと気分が悪いだけ。」
と答える。そして私は軽い筈なのにずっしりと重さを感じる鞄を手に取り、家へと帰る事にした。廊下で会った先生に「___大丈夫か?」と訊かれる。私は軽く頭を下げて「調子が悪くなったので帰らせていただきます。」と答えた。すると先生は「分かった。ちゃんと体調を治すんだぞ?」と言い、職員室へと向かっていった。そして重い足取りで校門を過ぎ、家へと向かう。家に着くと、目の前に黒い穴が生まれ、驚いた私は成すすべもなく、穴へと吸い込まれた。
「いたたたたたた......」
なんでここにいるのだろう...?
「空音...!?」
「あーごめんごめん。あっちの綾音の困りごとを解決したら強制的に連れて来られちゃった。」
お互いの困りごとを解決したら半強制的にここに連れて来られるみたいだ。
「どうする...?」
と空音が私に話しかける。私は空音が解決してくれた後の私の身体に戻ってみみたいと少なからず思った。今はどのような感じになっているかを知りたい。見たい、この目で、そした感じたい。
「私は...自分の身体に戻ってみたい...いや、戻りたい。」
そう空音に向かってはっきりと告げた。そうすると、空音は私が思っていたのと違う反応を返した。
「私も同じ―...人の身体ってさ、維持するの大変だもんねー...じゃっ!」
「じゃっ!って空音ちょっと!」
そういう私の声は空しく、白い光に包まれ、現実世界に戻ってからだった。少し不満はあるけど、やっぱり自分の身体がしっくりくるなぁ...。もう疲れたし、明日に備えて寝る...か。自分の身体に戻って私自身が安心したのか、すぐに眠りに付けた。1分も経ってないのではないだろうか。
朝気付いたら起きていた。そりゃそうだと思う。ゆっくりとのびをする。そして私はふと時計を見る。
「・・・」
「遅刻するぅ!!!!!!!!!!!?????????????????」
何故なら私は朝に弱いのに夜にそのまま寝てアラームをかけ忘れたからだ。堂々と言えることではないのだが...私は急いで家を飛び出した。生徒会長が遅刻なんて有り得ない!!こんなの全校生徒に示しが付かない...生徒会長が遅刻!?そんなの学校中で噂になったら恥ずかしくて学校行けないし、学校の評判が下がっちゃうよ!私は息を切らしながら走る。物凄く遅い筈の私の足で精一杯走る。学校まで走る。...?あれ...?私は足を止めた。何故ならいつも開いているはずの店が開いていなかったからだ。なんで...?いつも開いてたはずじゃ...?私は時計を見る。「はぁ!?」7時20分。いつもより20分早い。私が遅刻と言っていたが、学校自体の遅刻認定は8時30分以降だ。私は人より30分以上前について校門付近で挨拶をするのが生徒会長の仕事の一つだと思っていた。ちなみに今も誤解している。それは言うまでもないようなあるような...?なんで...?と思いつつ、学校へと向かう。
「おはようございます!!社さん!!」
この子は...誰だ?
「あなた失礼すぎるわ...本当に...もう...生徒会長様。私の妹が失礼いたしました。」
いや...彼女達ダレデスカ...?名前覚えてないから私の方が失礼だと思うんだけどなぁ...。
「あの...大丈夫ですか?」
私が無意識のうちに固まっていたのか、何故か心配された。固まっていたら心配されるっていうシチュエーションが結構最近多い気がするなぁ...
「あぁ、大丈夫ですよ。」
私がそう言った瞬間心配してくれた子が後ろに倒れた。それも盛大に鼻血を吹き出しながらだ。
「大丈夫!?」
私が咄嗟に駆け寄った。そうすると、もう一人の子が説明してくれた。
「この子が生徒会長様の大大大大ファンなんです!!!!!!とても嬉しくて失神&鼻血を出したんだと思います。」
そういって説明してくれる彼女もさっきからボタボタと鼻血を垂らしている。私がポケットからティッシュを出そうとすると、手で制された。
「あの、お気持ちは嬉しいのですが、悪化しますので、お気持ちは嬉しいのですが、その、大丈夫な時に...その心の準備が出来ている時にお願いします!」
一つ突っ込ませてほしい。大丈夫な時ならいらないでしょ...
「多分だけど、大丈夫な時だったら拭かないと思うけど...?」
「いや、その、拭いてもらいたい気持ちは山々なんですが、今日は倒れたり、失神したりしたら困るんです...本当は拭いてもらいた...いや、何でもないですっ」
そういうことか...最後の言葉の方は聞かなかった事にしてあげようか。
「さっきの子はもう運んだし、私にはやることがなさそうだから、そろそろ私教室行くね。」
彼女は残念そうな顔をした。
「また逢えたらいいですね...っていうか社さんは生徒会長なので私はすぐに会えますね...また話したいです!とても楽しかったので...」
と少し恥ずかしそうに言った。
「あ、そういえば、名前は?」
「私はですね、神崎 爽香で、妹が神崎 紫雨です。」
ほうほう...神崎さんね。
「ありがとう!紫雨ちゃんの様子後で見に行ってもいいかな?」
「いえ、とんでもないっ!社さんの時間を使うのは申し訳ないですが、妹が喜びそうなのでお願いします。」
妹思いの優しい姉だ。
「じゃあね、爽香さん。」
「はうっ!お待ちしてますね!」
手を振りながら思う。紫雨ちゃんを保健室に放置してきていいのか?爽香さんがいるとしても私が去っていいのか?そう思っていると、
「社さんは教室帰っていいですのでー!」
あ、やっぱり優しい...。そう思いながら私は廊下を歩く。この時間になると結構遅いのだが、まだあまり人は来ていない。しかし人からの視線を感じる。まぁ、気のせいだろう!
私は教室のドアに手を掛ける。
自分の身体で...学校に来たのが...久しぶりで緊張...する...。
勇気を振り絞り私はドアを開けた。いつもよりか少し多いぐらいクラスメイトが来ていた。
少しどころではなかった。訂正。結構多かった。
「あの...」
佐久良 智晶君がこっちを向いている。どうしたのだろうか...?
佐久良君はクラス内でも活発な男子で女子に人気があるらしい...あくまでも"噂"だが。
「社さんって、生徒会長もやってて、頭も良くて、運動神経も良くて、そ、その、後、行動とか仕草がとても可愛くて、それに顔も可愛くて(小声)...僕なんかじゃ全然釣り合わないんだけど、そ、その、ぼ、僕と付き合ってくれませんか?」
え...?何で急に...?空音...昨日何かやったのか?
野次馬が「おい智晶ー!生徒会長が困ってんぞー?」と叫んでいる。
困っているというか、視線が怖いのだ。後、彼は私の事を分かってくれていない。だから、私は断るしかないのだ。
「ごめんなさい、佐久良君。私は佐久良君とは付き合えません。ごめんなさい。」
私がそう言うと、周りがざわつき始めた。佐久良君は
「クールに断るのもかっこいい...(小声)いや、僕と釣り合わないのは知っていたので、いいんです...あの、ごめんなさい、僕こそ。困らせてしまって...ごめんなさい(汗)」
と言いながらガックリと肩を落としながら去っていった。ごめんなさい、本当に申し訳ない。佐久良君が去った後に女子が走り寄ってきた。
「社さん勿体ないよ~...智晶君は"イケメン"って評判なんだからさ、社さんと付き合ったら"美男美女カップル"だったのにさー...『はい』って言えばよ...っ...」
意味が分からない。なんで私にそう押し付けるの...?美男美女カップル?何それ。私がなっても意味があるの?周りから見られる目がさらに激しくなるだけで、私に良い事なんて一つもないじゃないか。何で何で何で?何で私がこんな目に合わなくちゃいけないの!?何で"公開処刑"のような目に合うことになるの?
「社さん?大丈夫?」
「うん、大丈夫、ちょっと眩暈がしただけ。生徒会の仕事があるから当分は付き合う気ないよ。」
すると彼女たちは私が先程考えていた事も知らず、
「そっかー...生徒会長も大変だね。」
とだけ言う。私の気持ちなんて分からない筈なのに何故そんな事が言えるのかが不思議で滑稽で笑えて来る時がある。私はずっと前から好きな人がいて...
その時、頭の中でプツンという何かが切れる音がした。
...ん?私、何してたんだ...?
本当に何を...?
ま、いっか。
忘れるなら大事な事じゃないでしょ...
その時、崎原先生が入って来た。通称「サッキー」と呼ばれている。
「朝学活を始めるぞー!起立ー!礼。」
お願いします...
今日もいつもの毎日とはいかない。何を空音はやったのかは知らないが、今日一日は告白をされていた。今日初めての告白だったが、全て断った...勝手に断っていたのだ。身体が拒否反応を...おっとこれ以上は失礼か...誰に告白されたかはもちろん忘れた。忘れない訳がないだろう(笑)神崎姉妹は元気そうだった。
「はぁー...」
私は生徒会室で大きな溜息を吐いた。生徒会室だと先生と生徒会関係の人しか入ってこないから溜息を吐くには持って来いの場所だ。
「生徒会長も大変ねぇ...はい、お茶。」
そう言ってお茶を出してくださったのは、副会長の山城 凛先輩だ。
「あ、はい、有難うございます、ありがたくいただきます。」
そう言って私はお茶を一口飲んだ。
「落ち着いたかしら?」
「凄く落ち着きました。仕事に集中できそうです。」
そう言って指の関節をポキポキと鳴らし、仕事に取り掛かる。山城先輩は「あらあら」とか言いながら仕事をしている中で私は黙々と仕事を終わらす。
1時間程経った後だろうか、仕事が一段落して私の口から「うー...」という声が漏れた。山城先輩が
「今日はこの辺にしときましょうか。」
と皆に声をかける。皆は首を縦に振り、今回はお開きとなった。
生徒会室を出ると後ろから、
「社さん流石ですね...」
という声が聞こえた。彼は藤井 優。私の幼少期からの知り合いだ。
「そうかな...」
私は照れくさくなりながら言った。
「そういえば、社さん昨日凄かったですね、本当にぶっちぎりでしたね。」
え...?ナニガ?
「昨日私何かしたっけ?」
「まさか忘れたとは言わせませんよ。」
何をしたのかい、空音さん。
「まったく記憶にございません...」
「本当に言ってる?」
優君の声がマジだった。少しキレているのかもしれない。
ごめん、本当に記憶にない。
私の身体で空音は昨日...何をしていたのだろうか...?




