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090 邂逅



 買い出しからなかなか帰ってこないステラとジョルジョを心配していると、「皆さん、大事なお話があります」と、ステラが肩で息をしながら扉から駆け込んできた。



 「お嬢さま、そんなに慌ててどうなさってのですか?」と、汗まみれのステラにハンカチーフを差し出しながらグレタが尋ねる。



 「ありがとうございます。大変なことになりました。皆さんいらっしゃいますか?」ステラは、グレタから渡されたハンカチーフを汗も拭かずに握りしめたまま、店内を見回す。



 「あの、フェリシアがまだ……」と申し訳なさそうに伝えるルキウス。



 「わかりました。フェリシアさんには後ほどでいいでしょう。では、皆さん集まってください」



 ステラの顔つきや言葉から余程のことがあったと伺える。一緒に帰ってきたジョルジョも、買ってきた食材を調理場に運ばず、難しい顔をしてステラの側に黙って立っている。



 ステラは一同の顔を見回すと早々に口を開いた「実は――」





 ――時間は、少し遡る。



 「あぁ、なんていい匂いなんでしょう」抱えているかごに入っている色とりどりの果物に顔を寄せ、嬉しそうに話すステラ。



 「こんなにたくさんの果物があるなんて、やっぱり南の国はいいですね」一緒に歩いているジョルジョに向かってステラは笑顔でそう告げた。



 ステラとジョルジョは、王都二大市場の一つであるシルウェストリス市場に朝の買い出しに来ていた。



 「ほんとうですね。この国は食材が豊富だし、どれもとても新鮮で美味しい。料理人の腕がなります」と、ジョルジョも笑顔で返す。



 「ウフフ、元聖騎士のジョルジョさんも、すっかり料理人になりましたね」



 ステラとジョルジョの故郷は、半世界北部最大の国家であるハギオスドラコーン王国だ。ステラはその王都アタナポトニアの祭祀殿に奉仕する治癒師で、ジョルジョは祭祀殿を守る聖竜軍の聖騎士であった。



 「いやぁお恥ずかしぃ。ですが、このビタロスに来て料理人として働くようになってから、自分にはこっちのほうがあってるんじゃないか、と最近では思うようになりました。やはり……壊すことで讃えられるより、作ることで喜ばれるほうが……自分は嬉しいです」少し淋しそうな顔で語るジョルジョ。



 「ええ、わたしもとてもお似合いだと思いますよ。ジョルジョさんの作る料理、わたしは大好きです。とっても愛情がこもっていて。それにしても……この国は素晴らしいです。人々は明るく活気があり、飢えや死に怯えることもない。戦争がないというのは、こんなにも幸せなことなんですね……」



 ビタロスは、周辺のどの国とも戦争をしていない。この半世界で戦争がない国はビタロスを入れて、恐らく片手ぐらいの数しかないであろう。ステラたちの故郷であるハギオスドラコーンは、大国ゆえに周辺国から常に戦争をしかけられていた。元々半世界北部は中部やここ南部に比べて戦争が多い。主な理由は食料だ。食べる物がなければ人は生きていけない。だが、北部の寒さは厳しく、土地も豊かではない。そのため、ハギオスドラコーンのような稀に豊かな国から奪おうとするのだ。



 聖竜軍は、王国軍ではない。なので、本来ならば国同士の戦争に加担することはない。だが、複数の国から同時に戦争をしかけられることが常態化していたハギオスドラコーンでは、国を守るためには聖竜軍も戦争に参加せねばならないほど切迫していた。なので、ジョルジョは何度も出兵をしている。そしてステラも、時には戦地に赴いて傷ついた兵士の治癒を行っていたのだ。



 「はい、自分もそう思います。できることなら、このまま……あっ、申し訳ありません」ジョルジョは、言い過ぎた、と思いステラに詫びた。



 「いいえ、お気持ちはわかり、うっ、うう」



 「お嬢、どうしました? お嬢!」持っていたかごを落として突然苦しみだしたステラに、ジョルジョが駆け寄る。



 「います……近く、に……竜眼主が、うぅ」



 「お嬢、こちらに」ジョルジョがステラを支えて道の端に移動をする。



 「探して……近くに、いる……」



 店の掘っ立て小屋の隙間にステラを押し込め、通りからステラを隠すようにしてジョルジョは立ちふさがり、周囲を見回す。だが、ステラと同じように目を押えて苦しんでいるような者は見当たらない、というか人が多すぎてわからない。



 「くそっ、どこだ」ジョルジョの身長は、一トゥカ三ハーン(二メートル十センチ)近くある。周囲を歩いている人よりも頭一つ大きいのだが、それでも通り過ぎる人の量が多すぎて、必死に目を凝らしても全然追いつかない。



 「……ジョルジョさん、どうです……」ステラがジョルジョの背中につかまりながら立ち上がり、目の痛みに耐えながら周囲を見渡そうとする。



 「お嬢、座っていてください。俺が探しますから」そう言いながらもジョルジョは、通り過ぎゆく人たちから目を離さない。



 「いえっ、あっ! あそこ、あそこです!」ステラが右斜め前の店を指で差した。



 「えっ? あっ、ちょっと待って!」



 ステラがジョルジョの後ろから飛び出し、人をかき分けて通りを横切った。それに続くジョルジョ。ステラは、指で差していた店の脇を通り過ぎるとそのまま市場を囲んでいる建物のほうに向かって走る。



 「お嬢、待って!」ジョルジョはその大きな体があだとなり、人混みを抜けるのに苦労し、その分ステラとの距離が開いた。



 ジョルジョが追いついたとき、ステラは路地の入り口に立っていた。



 「お嬢、一人で先にいか」

 「見失いました……。とんでもないことです」

 「えっ?」

 「子供です。まだ幼い……二人いました。……一人は恐らく、竜騎士です」

 「…………ええっ?」




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