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089 かわいくない



 店の看板アルマジロもどきになったコロ。だが、そのコロと相性が悪い者もいる。一人は元からコロを嫌っていたグレタ。そして、もう一人は、ルキウスだ。



 ルキウスは、グレタのように最初からコロを嫌っていたわけではない。店で追いかけっこをして恥をかかされたから、というのもなくはないだろうが、それもちょっと違う。



 そもそもルキウスは動物嫌いではない。むしろ、動物は好きだ。ルキウスが乗っている馬は、祖父のウィルフォルティスが国王から贈られた馬の孫にあたる。とても綺麗で足が速くて従順で、ルキウスはとても可愛がっていた。屋敷には他にも狩猟用の猟犬や、庭にはいつの間にか勝手に住みついているネコ、リス、ウサギ、タヌキなどもおり、見つけたら餌をやったりしていた。



 だが、コロに関しては「かわいくない」と思っていた。なぜか?



 「ピッ、ピピ、ピピピピッピ、ピー」と前足二本を横に広げて頭を横に振り、全然なってねえよ、と言わんばかりのコロ。



 「うるさいなぁ、なに言ってるのかわからないよ。だいたい、勝手について来るなって言ってるだろ」とルキウスがめんどうそうにコロに言う。



 すると「ピー、ピピ! ピッピー、ピ! ピーピピピーピ、ピピーピ、ピー!」とコロが、お前のために言ってやってるんだろ、的な感じで言い返す。



 ルキウスは、ジーノたちとの継嗣戦以来、朝の特訓をずっと続けていた。毎朝アカツキ(午前四時)より前に家を出るのだが、そのときはいつも一人だ。なのに、訓練を始めてしばらく経つと、いつの間にかコロがいる。しかも、偉そうに木の上にふんぞり返って(ルキウスにそう見えてるだけです)。そして、ルキウスの動きが止まると、何やらピーピー、と言ってくる(鳴いてくる?)のだ。



 しかも、「あっ、お前またお弁当を勝手に!」と、ステラが毎朝持たせてくれるお弁当を勝手に食べてしまうのだ。それでも、ごめんなさい、という態度でいればルキウスも寛容になれるが、「ピーピーピピ、ピピピーピピッ」とまるで、小せえこと気にすんなよ、とばかりに胸を張ってふんぞり返る。



 「くっそー、お前ほんとかわいくないよな」と、コロがポテっと座っている横倒しの木にルキウスも座り、カゴに残っているコロの食べ残し? のパンを食べ始めた。



 「お前さ、毎朝どうやってここまで来てるんだ?」とルキウスがコロに訊いた。「ピピピッピ」とコロ。「いや、わかんないし」なら聞くなよ、と思うがどうやってここに来てるのか、ルキウスは本当に不思議に思っていた。



 ルキウスは、ここまでリュウオンシ〈速さ〉を全開にして来ている。なので、ここに着くまでに十シィ(十二分半)もかからない。最近は毎朝ルキウスが家を出るときに、ステラがお弁当を手渡してくれる。そのときにコロのことを訊くと、「お部屋でぐっすり寝てますよ」と言うのだ。なのに、ルキウスがこの演習場について二十シィ(二十五分)も経たないうちにコロは現れる。大人がここまで歩いてくると四十シィ(五十分)から四十八シィ(六十分)はかかる。なのに、短足チビ助のコロが、それよりも早くここまでくる方法が全く見当もつかない。



 「まぁいい、帰るぞ」ルキウスが立ち上がった。するとコロは、お弁当が入っていたカゴの中に入り、ルキウスをじぃーっと見つめてきた。「わかったよ」とルキウスは不承不承(ふしょうぶしょう)カゴを持ち上げた。こうして帰りはいつも、ルキウスがコロを運ぶのだ。これも、気に入らない要因だ。





 「ただいま戻りました」ルキウスが鱗亭の中に入ると、グレタが朝食の用意をしていた。



 「む、ルキウスくん! そのねずみもどきを朝食の場に近づけないで!」と、グレタが目を三角にしてルキウスを睨む。



 「えー、一緒に食べたいよねぇ」とアリアが、ルキウスが持っているカゴからコロを取り出してテーブルに連れてこようとする。



 「だめー! だめー! ばっちいからだめー! アリア、外に捨ててらっしゃい!」と、本気で怒り出すグレタ。



 ここ最近は、だいたい毎朝このやり取りが繰り返されている。だが、いつもはステラが間に入って収めていた。しかし、今日はいない。



 「ステラさんとジョルジョさんは、まだお帰りになってないのですか?」とルキウス。



 近寄らせるな、しっしっ、とコロを牽制しながらグレタが「そうなの、少し遅いわね」と心配そうな顔をする。



 買い出しには毎朝行っているが、いつもはジョルジョ一人だ。ステラが同行するのは二日か三日に一度である。二人で行くときは買うものが多くなるので、ジョルジョ一人で行くときよりは時間がかかる。だがそれでも、もうとっくに戻ってきていい時間だ。



 「僕ちょっと見てきますよ」と、ルキウスが振り返ったとき、



 「皆さん、大事なお話があります」と、店の扉が開ききらないうちから大きな声で告げ、ステラが駆け込んできた。




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