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088 人気者



 ムクゲリュウアルマジロのコロがヒリュウの鱗亭で飼われるようになってから数日、しか経っていないのだが……



 「おい、コロ助、肉やるからこっちこいよ」 

 「コロちゃん、お姉ちゃんが抱っこしてあげるわ。おいで」

 「コロっち、酒飲め、ほら飲め」



 と、お客たちの間で大人気になっていた。



 オスカーにコロをみてもらいレオーネ家を出てからずっとグレタは「絶対に、お店に出してはダメですからね!」とステラに何度も何度も厳しく言っていた。



 だが、昼営業が始まって一カイ(一時間)も経たないうちに……



 「きゃー、ねずみぃー!」

 「うわっ! なんだ! 気持ちわりぃー」

 「あっ、テメェこら! こっちくんな!」



 と、大騒ぎ。



 給仕をしていたルキウスたちが、何事か? と声の方に振り向くと、コロが床に落ちた食べ物をバクバクと食べていた。



 「なにやってるんだ、コロ!」ルキウスが慌ててコロを捕まえようと近づいた。すると、食べていた骨付き肉を器用に前足二本で持って後ろ足で立ち上がると、スタタタター、と走り出したのだ。それを見たお客たちが、「おい、見ろ! 二本足で走ってるぞ!」と、これまた大騒ぎになった。



 この店の客には冒険者が多い。その殆どは魔獣討伐の経験者で、中にはその道ウン十年のベテランもいる。その連中がコロのその姿を見て、呆気にとられた。



 魔獣の中には、普段四足歩行でも戦うときに後ろ足二本で立ち上がるものはたくさんいる。だが、後ろ足二本で走り回るものはまず見たことがない。しかも、コロは前足で食べ物を持ち、それを食べながら走るのだ。その姿の滑稽なことといったらない。



 「だっはっはっは、見ろよ。食いながら走ってるぜ! あっはっはっは」

 「すごーい、二本足であんなに器用に走るねずみ見たことない。かわいいー」



 と、コロの逃げ回る姿が変にウケ、いつの間にやら



 「ちっこいの、がんばれ! 捕まんなよ!」とか、「ルキウス、そんなんじゃ魔獣なんぞ狩れねえぞ」とか、「チビちゃん、逃げ切れたらご褒美あげるわよ」とかと、なぜかコロびいきが増えていったのだ。



 椅子やテーブルの下をチョロチョロと走り回るコロ。それに振り回されて右往左往をするルキウス。まるで旅芸人のお笑いショーのような追いかけっこにお客たちは大笑い、ついには投げ銭をする者まで出てきた。



 最終的には調理場から出てきたステラが捕まえ、コロを叱ってお客たちに詫びたのだが、お客たちは怒るどころか「いやぁ、面白かったぁ」と拍手喝采。



 「ステラ、そいつ名前なんて言うんだ?」

 「そのチビ助、なんでも食うのか? なら、もう一皿チビ助ように頼むわ」

 「ステラ、その仔抱っこさせてよ」



 と、なってしまったのだ。



 その日グレタが別要件で店を休んでいたことも幸いした。お客に請われるとステラも嫌とは言えず、『この仔はねずみじゃなくてムクゲリュウアルマジロです』とか、『でも、アルマジロじゃなくて、アルマジロもどきなんです』とか、『名前はコロちゃんです』とかと皆に紹介し、結局お店にリリースした。



 こうして昼営業の間にあっちこっちのお客に可愛がられ、お店の売上にも貢献したのだが、それは夜営業でも続いた。



 夜営業の時間になると、コロはまた勝手に店にチョロチョロと出てきて、昼営業のときにも来ていたお客のところに顔を出した。そこで、「よお、コロ助来たか。おまえ酒飲むか?」と言われ「ピッピ」と頷くと、ジョッキに頭を突っ込んでガブガブと酒を飲み始めた。



 「いけるじゃねえか、おめえ」と、お客は大喜び。それを見ていた他のテーブルのお客たちも「それなんだ?」と興味津々。



 酒を勧めれば勧めるだけ飲むコロを面白がり、飲め飲め、とドンドン飲ませていると、そのうちコロが後ろ足二本でヨチヨチフラフラと踊りだし、これまたお客におおウケ。一緒に踊りだすお客も出てきて店のなかはちょっとしたお祭り騒ぎになった。



 翌朝その話を聞いたグレタがめちゃくちゃ怒って、鍵付きの部屋に閉じ込めたのだが、どうやって鍵を開けたのか、またいつの間にか店に顔を出していた。



 当然グレタの烈火の怒りが炸裂したが、お客たちが「コロを追い出すなら二度と店にこねえぞ!」とか「今日はこの仔に会いに来たのよ!」と逆に叱られ、結局グレタはコロが店に出てくることを泣く泣く許さざるを得なくなった。



 こうしてコロは、店の看板アルマジロもどきになり、堂々と店に居座るようになったのだが、グレタ以外にも相性がよろしくない者がいた。それは、ルキウスである。




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