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087 幼い兄妹(その2)



 二度目にミアの目が突然痛みだし金色になってから、ルカは心配でミアを置いて家から出ることができなくなった。



 本当は盗みにミアを連れてなど行きたくない。だが、自分のいない間にまたミアに異変が起こったら、と考えるとやはり一人にしてはおけなかった。



 その日ルカは、いつものようにミアを連れてフルーミニス市場にやってきた。そして、ミアを市場の近くの路地で待たせ、ルカは食べ物を盗んで戻ってきた。



 「ミア、桃だよ。好きだろ」ルカがミアに桃を差し出すが、「……」ミアは受け取ろうとしない。盗んでいるところをミアには見せないように気をつけてはいる。だが、毎日同じ場所で待たされ、戻ってきたルカから食べ物を渡されていたら、四歳のミアでもなんとなく怪しいと思いはする。



 「どうした? 食べなよ。美味しいよ」



 「お兄ちゃん、買ったの?」



 「えっ? ……あ、あぁ、買ったよ」できるだけ平静を装って答えた。



 「うそ! 買ってない! ミア見てた!」



 (……見てた?)



 「い、いや……なに言ってるんだ……兄ちゃんはちゃんと」



 「うそ! うそうそうそ! お兄ちゃんのうそつき!」ミアはそう言うと、ルカが持っている桃をはたいて地面に落とした。



 「ミア! な」

 「おう、ガキ。食いもんを粗末にするなって親に言われなかったのか?」



 驚いてルカが振り向くと、四人の男が路地の入り口を塞ぐように立っていた。



 「ガキども、市場にあるもんはな、金出して買わねえとダメなんだよ。親から教わってねえのか?」そう言って、四人のなかで一番年嵩(としかさ)で紫色のシャツを着た男が一歩前に出た。



 「……」



 「俺らはな、市場のやつらに頼まれてお前らみたいな盗人から代金を回収してんだよ」そう言って年嵩の男はまた一歩前に出た。



 ルカが、盗みを始めてひと月近くが経っていた。王都の二大市場の一つであるフルーミニス市場は広い。ルカはできる限り同じ店から盗まないように気をつけてはいたが、ひと月近くもやっていると同じ店から二度、三度盗むこともあった。もしかしたら、それで顔を覚えられたのかもしれない。



 「お、おれは盗って……ねぇ」ルカはミアを後ろに庇いながら男に向き合う。



 「盗ってねえとよ。ガーハッハッハー」四人の男たちが大袈裟に笑う。



 「盗人ってのはみんなそう言うんだよ。だからお前は盗人だ。おい」年嵩の男の合図で三人の男たちが素早く動き、ルカとミアを取り囲んだ。



 「俺らはガキでもようしゃしねえ」そう言って年嵩の男が顎をしゃくった。



 「きゃっ!」ズッザー!

 「ミア! あっ!」



 ミアの後ろに回り込んでいた一番若い男が、ミアを地面に引きずり倒した。そのミアを助けようとルカが後ろを向いたとき、今度は年嵩の男がルカを蹴り飛ばした。



 地面に倒されたまま恐怖で「いやー!」と泣き叫ぶミア。蹴り倒されたルカが、這うようにしてミアの元に。「ミア、大丈夫か?」ミアの足から血が出ている。「いやー! いやー!」と体をよじって暴れるミア。ルカがミアを引き寄せた。蹴り倒された拍子にルカも両手にケガをしていた、だがそんなことは気にしてられない。「ミア、絶対に守ってやる! 兄ちゃんが守ってやる!」ルカは、ミアの傷口に手を当てた――


 

 すると、突然ルカの体が光に包まれた。頭を抱えてのたうちまわるルカ。



 四人の男たちも驚き、二人を見つめたまましばし固まる。



 しばらくすると、ルカの体を包んでいた光が消え、のたうち回るのもおさまった。ルカは、「ハァッハァッ」と荒い息を吐きながらも立ち上がり、男たちを牽制するように睨みつけると、



 「ミア、れいけんを開放しろ」と告げた。



 ミアが、どうしたらいいのかわからず戸惑っていると「早くしろ! 」とルカが怒鳴った。その声に驚いたミアが、ただ頭の中に浮かんだ言葉をそのまま発した。



 「りゅうがんのあるじがめいじる。りゅうのきし、れいけんをかいほうせよ」



 ドン!



 音というよりも空気の圧力がルカを中心として一気に炸裂した。



 二人を取り囲んでいた男たちが、その圧力に押され、ニ三歩後ろに下がる。



 ミアを庇ったままルカは、ゆっくりと男たちを()めつける。その全身は、薄っすらと黒い(ほむら)に包まれ、異様な威圧感を発していた。



 先程までとは別人のようなルカの雰囲気に呑まれ、男たちが呆然としていると、突然ルカが、弾かれたようにミアを引きずり倒した右側の男に飛びかかった。いきなりのことに驚く男、その腹にルカが頭から突っ込む!



 「グエッ」



 ルカに押し倒されるようにして男は仰向けに倒れ、頭をうち昏倒した。ルカはその男が持っていた棒を左手で奪いながら素早く立ち上がると、倒した男の左にいる男に背中から突っ込む。だが、男にぶち当たる寸前に体を半回転、左手に握った棒で男の腹を突く!



 「ガハッ」



 腹を突かれた男は前のめりにルカの方へと倒れてきた。その男をルカは、前蹴りで蹴り飛ばし、体を左に向け年嵩の男に突っ込んだ。年嵩の男は慌てながらも持っていた棒を構え、迎え討とうとルカに正対する。



 だがルカは止まらない。「うぉー!」年嵩の男が雄叫びをあげながらルカに棒を打ち下ろした! 「えっ?」だがルカは、棒が打ち下ろされた(すんで)のところで止まっていた。



 焦って棒を振り上げる男。それを待ってたとばかりにルカが踏み込む。そして、男の右膝を棒で横殴りにした。



 「ウワッ」



 堪らず男の体が右斜め前に崩れる。ルカは、膝を打って右に流した棒を真上に引き上げ、そのまま男の頭に打ち下ろした!



 「……」声もなく地面に倒れ込む年嵩の男。ルカは、そんな男など見向きもせず、最後に残った男に向き合う。



 棒を正眼に構えて最後の男に一歩二歩と近づくルカ。男は慌てて後ろに下がろうとするが、後ろの壁に当たってそれ以上下がれない。



 「す……すまねぇ……」



 持っていた棒を手放し、情けなく詫びる男。「ダメだ」ルカは真っ直ぐに男に突っ込み、そのままみぞおちを突き刺す! 「がぁっ」腹を押さえながら壁に沿って(くずお)れる男。



 「ミア、逃げるぞ! 」



 何が起こっているのかわけが分からず、呆然としているミアの手を引き、ルカはその場から走り去った。




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