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086 幼い兄妹(その1)



 「お兄ちゃん、お母さん今日も帰ってこないの?」



 「ミア、お腹空いてないか?」



 「……大丈夫……」そんなわけはない。一昨日の夜から何も食べていないのだ。



 母親が帰ってこなくなってから、一週間は経っていた……



 あの日、夜の仕事に行こうとした母親に、ミアは「いかないで」と泣いてせがんだ。いつまでも泣きやまないミアに、『いい子にしてたら早く帰ってくるからね』そう言って母親は出ていった。



 その日は、そのあともずっとミアは泣きやまなかった。ルカは困り果て「いつまでも泣いてたら、母ちゃん帰ってこなくなるぞ!」と思わず叱ってしまった。だが、ルカにそう言われて余計と意地になったのか、そのあともずっとミアは泣いていた。



 翌朝ルカが目覚めると母親はまだ帰っていなかった。そのあと目覚めたミアと母親を待っていたが、昼を過ぎても夜になっても母親は戻ってこなかった。



 そしてミアは、泣くのを我慢するようになった。自分がわがままを言ったから、泣きやまなかったから、母親が帰ってこないんだ、そう思ったから……


 

 (もう母ちゃんは帰ってこない)ルカは、そう言ってやりたかった。



 近所のおばさんたちが話しているのをルカは偶然聞いてしまった。



 母親は、夜の仕事で出会った男と王都を出た、と。



 捨てられた。六歳のルカでもわかった。



 母親が出ていく前に買い置きしていた食料は食べ尽くした。もう、麦の一粒もない。



 なんとかしないと、ルカは焦っていた。そんなとき――



 「いっ、いた、おにい、いたい」とミアが目を押さえて苦しみだした……





 ルカとミアの母親が出ていってから、もうひと月近くになる。ルカは、母親が出ていく前に朝だけ働いていた農家で手伝いをさせてもらい、食べ物を少し分けてもらっていた。



 だが、六歳のルカができる仕事などたかがしれている。なので、週に一回分けて貰える食べ物もほんの僅かしかない。六歳と四歳の子供でも、どれだけ節約しようと二日もすればなくなってしまう。他に仕事を探したが、六歳のルカを雇ってくれるところはなかった。



 だからルカは、盗むしかなかった。



 ルカは、王都の南西側にあるフルーミニス市場で盗みを始めた。ルカとミアの家からだとシルウェストリス市場のほうが近いのだが、遠いほうがバレにくいのでは、とルカなりに考え、シルウェストリス市場の反対にあるフルーミニス市場に決めたのだ。



 ある日ルカが出かけようとすると、珍しくミアがぐずってルカを離してくれなかった。いつもはミアを家に置いて行くのだが、しょうがないのでフルーミニス市場に連れて行こうと一緒に家を出た。



 ルカたちの家からフルーミニス市場に行くには、中央大通りを渡らなければならない。ちょうど、そこに差しかかったときだった。一目で貴族のものとわかる豪奢な馬車が、二人の前を通り過ぎようとした。そのとき――



 「うーん、いた、い……め、いたい……」ミアが目を押えてしゃがみこんだ……




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