085 ネズミ、怖いの?
ステラが拾ってきたムクゲリュウアルマジロについて一通り熱弁を奮ったオスカーは、周りとの温度差など気にもせず、一人ご満悦な表情を浮かべ、ウンウンと頷いていた。
そんなオスカーに拍手喝采を送っているのはフェリシアのみ。それ以外の面々は呆気にとられてボーっとオスカーを見ていた。すると、ふと何かを思いついたのか突然オスカーが「面白いものをお見せしましょう」と頭のモコ毛を指で分け、皆に見せた。
「よぉくご覧ください。ここに小さな角があるのがわかりますか」確かに、ちょこりと尖った角らしき物が一本ついている。
「これを、ちょい、と押します」
ボッ!
白モコが口から小さい火を吐いた。だがそのあと、ケホケホ、とむせている。
「どうです。面白いでしょう」と言って、ちょいちょいちょい、と連打する。
ボッボッボッと火を吹いて、ケホケホケホとむせている。
「はっはっはっ」とオスカーは笑っているが、白モコ的にはいい迷惑だ。
「ところでこの ムクゲリュウアルマジロを発見されたのはどなたですか?」とオスカーが尋ねた。
「あっ、わたしです」とステラが手を上げ、スススっ、とオスカーに近づくと「すいませーん」と言いながら、白モコを取り返した。なんというか、さっきからオスカーに不穏な気配を感じていたのだ。
一応手放しはしたが、オスカーの眼は白モコにがっつりと食らいついている。
「そうですか。……ステラ様、いかがでしょう。その ムクゲリュウアルマジロ、私にお譲りいただけませんか?」と切り出すオスカー。
「えっ? そ、それはお断りします。この子は……お渡し、したくないです……」そっとグレタを伺いながら告げるステラ。
なのに、「いくらでお買取になられると?」と、無情にもオスカーとの商談を進めだすグレタ。それに、ガーン、とショックを受け、涙ぐむステラ。
「これだけの希少種ですからな、わたしも出し惜しみはいたしません。……大金貨、五十枚でいかがです?」と、オスカーがとんでもない金額をあっさりと提示した。
「えっ?」屋敷でも買うの? と全員が絶句。
ステラの隣に立っていたグレタが、無言で白モコをステラから奪うと「あげます」とオスカーに手渡した。
「いやー! 止めて下さいぃグレタさぁん」と半泣きになりながらオスカーの手から白モコを取り戻そうと突進するステラ。
それを、ひょいっ、と軽くかわすオスカー。だが横からフェリシアが「返してあげて下さい」と白モコを奪い取り、ステラに渡した。
「いいじゃないのグレタ。ネズミじゃないってわかったんだから。よく見なさいよ。かわいい顔してるわよ」とフェリシアがステラに抱きかかえられている白モコの頭を、ちょこちょこ、と撫でてやる。
「ピッピー」と気持ちよさ気な白モコ。
「よくなんか見ません! ネズミでなくともこういうのは飲食店の敵です! 不衛生です!」
「ちゃんとお風呂に入れますからぁ」とステラが懇願する。
「あんたさあ、もしかしてネズミ、怖いの?」とニヤニヤするフェリシア。
「こ、ここ、こんなの怖くなんか……ありません!」グレタは、白モコを見ようともしない。
ステラとアリアとアンナが、お願い、お願い、とグレタにまとわりついて頼みこむ。
あまりのしつこさに、「はぁーっ」と大きなため息をつくグレタ。この三人にしつこくせがまれるとグレタは弱い。
「私は面倒など見ませんからね。それと、お店には絶対に出してはダメです! あと、餌代は三人のお小遣いから引きますからね。いいですか!」結局グレタが根負けをした。
「やったー! 飼っていいんですね。グレタさん大好きです」と白モコを抱いたままグレタに抱きつくステラ。
「ちょ、お嬢さま、やめー!」と言いながら、ステラが抱いている右腕を遠ざけようとするグレタ。
「しかし大丈夫ですか? このムクゲリュウアルマジロ、大食漢らしいですよ。餌代がかかりますよ」未だ名残惜し気なオスカーが物欲しそうな目を白モコに向ける。
「大丈夫です。ウチは食堂ですから、ご飯はいっぱいあります」とニコニコしながら返すステラ。
そんなステラを「それはお客様用です。そんなネズミもどきのアルマジロの餌ではありません!」と叱るグレタであった。
「スぅ姉さま、名前どうするの?」と無事に焼却処分を逃れたムクゲリュウアルマジロの白モコを抱っこしながらアンナが訊いた。
「ウフフ、ちょっと貸して下さい」と言って、アンナから白モコを受け取るステラ。
そして、「えい!」と白モコの頭とお尻をくっつけるように体を折り曲げると、なんとまん丸になった。
「キャー、かわいい!」とアリアとアンナは大喜びだ。
「まだですよぉ」と言ってステラがまん丸白モコを床に置くと、コロコロコロッ、と自分で転がり始めた。
そして壁の手前までいくと、くるり、と方向転換をし、ステラのところに戻ってきた。
双子は、凄い凄い、とキャーキャー言って大騒ぎ。
「どうです? 凄いでしょ。わたしはこれを見て、はっ、と閃いたのです。この子の名前は――」
「名前は――?」
「コロちゃん、です」と、胸を張って超自慢気な顔をするステラ。
(まんまやんけ……)グレタは、白モコを飼うことにまだ納得はしていない。だが、ステラたちの嬉しそうな顔を見ていると、まっいいか、と折り合いをつけて諦めるしかないグレタであった。




