083 ねずみ?
「……ね、ねずみぃー!」
そう叫ぶとグレタは、袖に隠していた細身のナイフを抜き、白いモコモコのおおねずみ的なやつに向かって振り下ろした!
「ピー! ピピピピィー!」とステラの後ろに隠れる白いモコモコ。
その白いモコモコに気づいたステラが、「待って下さいグレタさん。この子は違うんです!」と白いモコモコを庇う。
「な、な、なにがですかぁー! うちは食堂なんですよ! ねずみなど、ねずなど、ええーい、てんちゅうー!」
天誅って何? って感じだが多分グレタはネズミが嫌いなのだろう。完全に成敗モードに入ってしまった。
ウキィー、とか言いながらナイフをぶんぶんと振り回し、白いモコモコを追い回すグレタ。その後ろをオロオロと追いかけるステラ。
店の中をグルグルとエンドレスで回る一匹と二人。このいつ終わるともわからない、不毛な追いかけっこにあきれたジョルジョが、「いい加減にしろ」とグレタを取り押さえた。
その瞬間、今だ、とばかりにステラが白いモコモコを救出し、胸に抱え込む。
だが、グレタがそれを、むんず、とステラから掴みとり、がっ、とステラの顔の前に突き出した。
「お嬢さま! なんですか、このばっちいのわぁ!」と鬼の形相で迫るグレタ。
グレタが右手で掴んでいるのは、間違いなくステラがパンをあげた白モコだ。
「あの、あの、実はですね。今日森の中で――」とステラは、かいつまんで白モコに餌をあげたところから、「――で、帰りにですねまた出会いまして。その、ちょこちょことわたしの後をついてくるのが可愛くて……連れてきてしまいました……ごめんなさい」と連れ帰った経緯までを説明した。
「あっ、でもでも、この子にはわたしの部屋から出たらいけませんよ、ってちゃんと言ったんですよ。もお、ダメじゃないですか」と白モコを、めっ、とかわいらしく叱るステラ。
「野良に餌付けしたらダメ! 畜生に言葉は通じません! すぐに捨ててらっしゃい!」と眉と目を垂直になるぐらいに吊り上げ、怒り狂うグレタ
さっきから白モコをキラキラした目でみていたアリアとアンナが「グぅちゃん、抱っこさせてぇ」と空気を読まずにせがむ。
「いけません! こんなばっちぃのを触ったら病気になります! こんなのは焼却です! 窯で焼いてやります!」と言うわりにはがっつりと白モコを握りしめている。
「ま、待て、待て。ねずみなんか食べ物を焼く窯に入れないでくれ!」ジョルジョが毛色ばむ。
「そ、それも確かにそうですね。なら、裏庭で焼いてやります。串にブッサーと刺して、焼き尽くしてやります!」
グレタの様子は、さっきまでステラを叱っていたときとは全く違う。血走った眼は尋常ではなく、理性が完全に飛んでいる。
「や、やめてくださいステラさん。その子はネズミかもしれませんけど、二本足で歩くちょっと変わったかわいい子なんです」と言ってステラがグレタにすがりつく。
「グぅちゃん、かわいそうだよぉ」とアリアとアンナもグレタに取りつく。
「成敗! せいばいよー!」と三人を引きずりながら裏庭に向かおうとするグレタ。
そこへ、「すいません遅くなりまして。ただいま戻りましたぁ……ん?」とレオーネ家から帰ってきたフェリシアが、店内の惨状を見て呆気にとられる。
「いやぁ実はぁ……」とルキウスが事情を説明する。
ルキウスに説明されても何だか良くわからなくて「はあ?」と中途半端な返事をするフェリシア。
しかし、「うん?」と何かに気づいたのか、グレタが手に持っている問題のネズミ的なやつを、ジィーっ、と見る。
そして、つかつか、とグレタに近寄ると「失礼」と言って、ネズミ的な白いモコモコを手から取り上げてまた、ジィーっ、とガン見をする。
「これ、ネズミじゃないわ。……もしかしたら……」と呟いたあと、「あの、これってもしかしたら大発見かもしれません。父に見てらいませんか?」とフェリシアが提案した。




