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079 つわものども……鱗亭の娘たち



 「グぅーちゃん」



 アリアとアンナがグレタの部屋のドアを開けて顔を出した。



 「あら、二人ともどうしたの?」



 寝巻姿でベッドを整えていたグレタが振り返る。



 「えへへっ、一緒に寝よ」と枕を抱え少し照れた顔の二人。



 「えーっ? あなたたちもう大きいから、ベッドに入りきらないと思うわよ」



 グレタは、やれやれ、という顔で二人を見た。すると――



 「じゃーん、わたしもいます」と双子の後ろに現れたのは、寝巻を着て枕を抱えたステラだ。



 「まぁ、お嬢さままで。(わたくし)のベッドに四人は無理ですよ」と困った顔をするグレタ。



 「うふふ、きっと大丈夫ですよ」と言ってステラが双子に目配せをした。そして、「さあぁ、いっけー」というステラのかけ声とともに、三人は「キャーキャー」と声を上げながらグレタに突進をする。



 「えっ? わっ!」



 ドーン、と四人がベッドに倒れ込む。



 「それぇー」と、ステラとアリアとアンナが、シーツをめくりあげてグレタの上に被せ、自分たちもそこに潜り込む。



 「こ、これ! あなたたち!」



 シーツの中で抱きついてくる三人に、グイグイと端に追いやられるグレタ。



 グレタをベッドの端の壁際に追いやると、グレタの横にアリア、その横にアンナ、そしてステラ、の順にベッドに横になる。



 「寝れたもん」とアリアとアンナがニコニコしながらグレタに言う。だが、グレタの反対の端にいるステラは、ベッドの際ギリギリで、寝返りはちょっと無理そうだ。



 「もう……三人とも……。今日だけですよ」



 困った()たちね、という言い方だが、グレタの顔は、とても嬉しそうであった。






 アリアとアンナが幼い頃は、よく四人でこうして寝ていた。



 三つのときに母親を亡くしたアリアとアンナ。夜になると母親を恋しがってよく泣いていた。



 グレタとステラは、そんな双子を挟んでベッドに入り、おとぎ話などを聞かせて寝かしつけていた。



 今四人が話しているのは、ビタロスへの旅路であった楽しい思い出。



 ここに着くまでには、辛いことがたくさんあった。だけどそれだけではない、楽しいこともあったのだ。



 美しい風景、美味しい食べ物、優しくしてくれた人たち、それはみんないい思い出。



 やがてグレタ以外の三人が静かに寝息をたて始めた。



 (疲れてたのね……)



 グレタは、三人の髪を順にそっと撫でていく。ティアマト家にいたときもこうだった。いつも三人が先に寝て、それを確認してからグレタも寝るのだ。



 (懐かしいわ……)郷愁に浸るグレタ。



 だが、グレタの顔がだんだんと曇る。



 今日はアリアを無事取り戻すことができた。ステラも守れた。アンナもジョルジョもけがはなかった。うまくいったと言えるだろう。



 だが、この先もそうとは限らない。これまで出会った誰よりも凶暴で凶悪な連中が現れないとは言えないのだ。



 いや、継嗣戦が佳境になれば必ずそういう連中が出てくる。そう確信できる。



 だが、それよりもさらにグレタの心を暗澹(あんたん)とさせるのは、ジーノが言った言葉だ。



 『あんたのその力、竜眼狩りをやってる連中は絶対に欲しがるぜ』



 そうだ、わかっている。わかっていたのだ、グレタには。



 グレタのウラ・リュウオンシは〈隠密〉だ。この力を得たグレタは、ビタロスへの旅路の途中も、着いてからも、各所に潜入をして情報を集めていた。



 竜眼狩りに対する警戒は、旅路の途中から十分に行ってきた。



 ビタロスに到着してすぐに、この国では竜眼狩りが禁止されてる、と聞いて少しは安心した。だが、それが間違いだと気づくのには、大した時間はかからなかった。



 そしてつい最近グレタは、急激に活動が活発になった竜眼狩りのグループがある、という噂を聞いた。



 しかし、いくら調べても、なぜか実態が全くつかめない。



 かなり強引なやり方で竜眼主を探している。それらしい人物は容赦なくさらわれる。王国軍の士官クラスが絡んでいる。などという噂だけが広まっているのだ。



 それに、そのグループは竜眼主だけではなく、特異的な能力を持った者をさらって無理やり従わせている。山の中に砦を築いて私兵を募っている。という噂まである。



 探れば探るほど嫌な気がしてならない。なぜならば、そのグループが実在するならば、継嗣戦にしてはやってることの規模が大きすぎるのだ。



 (用心せねば。今まで以上に……。そして、命にかえても守らねば……この三人だけは、絶対に……)



 手をつないで気持ちよさ気に眠る三人。



 その寝顔を見ながらグレタは、自らの命を捧げる覚悟を、改めて固めた。




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