007 駆け出し冒険者、喧嘩をする(その2)
店の扉を開けた五人の耳に飛び込んできたのは、女の子の悲鳴としゃがれた男の怒鳴り声、そして皿や料理が床に飛び散る激しい音だった。
何事か、とルキウスたちが覗き込むと、店の中央奥で冒険者らしき風体の男が、エプロンをした十歳ぐらいの少女の腕を捻り上げていた。
「おいガキぃ、なめてんのか! 店主呼べっつってんだろ! こっちゃあ毎日、昼も夜も来てやってんだ。常連様には酌のサービスぐらいすんのが筋ってもんだろうが!」
男は酔っているらしく、捻り上げた腕を緩めようともせず「痛い、やめて」と涙を浮かべる少女に、無精髭の赤ら顔を寄せて怒鳴りまくっていた。
「おい、あれジーノ、えっ?」
マルクスが隣りにいるルキウスに声をかけようとしたとき――
「いでっ、いででででぇっ」
と店に響く、情けないジーノの声。
皆がそちらを見ると、さっきまで腕を捻られていた少女はルキウスの後ろに庇われており、ジーノがルキウスに腕を捻り上げられ、床に膝をついていた。
「やあ、ジーノさん。お久しぶりですね」
ルキウスはジーノの顔を上から見下ろし、冷めた目で告げた。
「ルキウス! てめぇ、何しやがる!」
「ジーノを放しやがれ!」
近くのテーブルに座っていたジーノの仲間とおぼしき男たちが、椅子を蹴って立ち上がり、怒声を上げる。
「おい、無視すんじゃねえ!」
ルキウスは連中になど目もくれず射抜くような視線をジーノにだけ向けている。
「アンナ、大丈夫?」
ルキウスが振り向くと、フィリッポが少女のもとに駆け寄っていた。
「フィルぅ。こわかったぁ」
アンナと呼ばれた少女は少し安心したのか、涙が浮かぶ目をフィリッポに向け、小さく微笑む。
「フィル。この娘を店の奥に頼む」
ルキウスがフィリッポに言うと、力強く「うん」と頷き、「さあ、アンナあっちに行こう」と少女の手を取る。
「うん。あっ、でも、わたしアリアだよ」
フィリッポは、……えっ? という感じで目を瞬くと「ご、ごめん」と謝り、しまったぁ、という顔をして俯く。
「フフッ。いいよ、ありがと」
アリアは、ニコリと笑ってフィリッポの手をぎゅっと握り返し、「ありがとうございます」とルキウスに礼を言うと、店の奥に向かった。
ルキウスは、フィリッポとアリアが集まり始めた野次馬をかき分けて奥の調理場に入ったのを見届けると、脂汗を流しながら悪態をついているジーノに目を戻した。
「お、おい、てめぇ、い、いつまで、いっ、いでっ、いででででっ、やめ、やめえー」
ルキウスは、ジーノが声を出せなくなるまで腕を強く捻り上げると、ジーノの体を一度手前に引いてから、強く押し飛ばした。
「あっ、ぐぅわあ」
激しく床に倒れるジーノ。
ジーノのもとに駆け寄る三人の仲間たち。
「アグリコラの皆さん。お久しぶりです」
冷笑を浮かべたルキウスが、ジーノと三人の男たちに向かって告げた。




