076 竜血の簒儀
「わかりました。では……『竜血の簒儀』を、始めます」
仲間たちとの最後の別れを済ませたジーノに、ステラが宣告をした。
「すぅー……はぁー……――」
ステラは、自分の胸に手を当てて静かに呼吸を整える。そして、それが終わると右手をジーノの胸に当て、心臓の位置を確かめた。
『ドクドクドクドク――』
早鐘を打つような拍動がステラの手に伝わる。ステラは薄く目を閉じると、右手をゆっくりと真上に持ち上げた。
「マカリオスアキナケス!」
ステラが叫ぶと、金の刀身に銀の刃文が入った両刃の短剣が、手の中に現れた。
ステラは一呼吸を置いたあと、静かに瞼を上げ、金色の瞳でジーノを見る。
そして、短剣をゆっくりと下ろし、剣先をジーノの心臓に当てた。
「シイィエト・リュウケツ・アウソオル・アステリア・シオディエ・ディエファウレト」
ステラの詠唱とともに、地面に描かれた魔法陣が光を放ち、ゆっくりと上に浮き上がり始める。
そして、その上に寝ているジーノの体を通り越し、短剣の鍔までくると停止をした。
「イニイティアレイゼ・アキナケス・イニセエリト・マカリオスアキナケス・イニ・ジーノズボオデ・シアトチィ・ヒエアリト・フィクザ・マカリオスアキナケス」
短剣がゆっくりとジーノの胸に沈んでいく。
「ぐぅっ……」ジーノが短い呻きを漏らす。
見ているチロたちが叫ぶ。
「じぃーのー!」
「あにきぃー!」
「お達者でぇ」
刀身が半分ほど沈んだところで短剣は停止した。
「デオ・ヒリュウケツ・イイフ・フィンデ・ジーノヒリュウシェオレウティオン・フリオモ・ボオデ・シエレレ・ヴェイィノ・ウシイィエダ・アステリアマナ・フィイレテエリ・プウリエ・ヒリュウボリオォデ・フリオモ・ヒリュウシェオレウティオン・モオヴェ・プウリエ・ヒリュウボリオォデ・トオ・アキナケス・レオォプ・ウニティレ・ヒリュウボリオォデ・オフィ・ジーノ・エモプテェ」
ジーノの体が光に包まれる――
「うぅ、おう、あっ、うあっ、あああー――」
体が振動し始め、ジーノが叫びを上げる。
「あっ、ぐぁ、がぁあああー――」
振動はますます激しくなり、ジーノの体を包んだ光が激しく明滅を繰り返す。
「あああああー、ぐぁあああああー――」
光の明滅が極限に達する。
すると、光が胸に刺さった短剣に向けてゆっくりと収束し始める。
徐々に徐々に、短剣へと収束する光。
そしてそれとともに、ジーノの体の振動が、少しずつ弱まっていく。
「うぅああ……あっ……」
光の収束とともに今度は短剣が輝きだす。
その輝きは、収束の輪が小さくなるにつれ強く、煌々と光輝を増す。
カッ!
一瞬、短剣が大きく眩耀いた――
……ジーノの体の振動が止まる。
魔法陣の上にぐったりと横たわるジーノ。
「シオモプレエェテレイ・シイィヴェリ・ジーノテイエシェ・ウィイテト・イェオモォエン・オフィ・ソエ・グゥアリデ」
またジーノの体が光を放ちだす。だが、今度はジーノだけではない。オレアの木に縛られている三人の体も光だした。そして、光が増すごとに四人の体が激しく震えだす。
「がぁああー」
「ぐぅうわぁー」
「あががががー」
ブヮバッ! ブヮバッ! ブヮバッ! ブヮバッ! 四つの光が爆発! あたり一面が強い発光で真っ白に。
激しすぎる光に、儀式を見ていたグレタたちが目を覆う。
束の間を置き、グレタがそおっと目を開けて周囲を見回すと、ジーノだけではなく、チロ、フランコ、リザイアの三人も首をうなだれ、ぐったりと動かなくなっていた。
「イイフ・シヘェシケ・ジーノボオデ・シエレレ・ヴェイィノ・アニデ・アキナケス・エク・ファレシイ・イイフ・エリィシィニト・エク・オニエ・シアレレ・アステリア・リエェテリィ・オリ・エザイト・エレゼェ・リエェテウリニ・アボニオリモアレ・イイデェニティフ・エリィオリ・プオイニテ・リエモォヴェ・エリィオリ・プオイニテ・イニイティアレイゼ・アキナケス・エリィシニト・オニエ・ウプ・ボアシケ・ヒリュウケツ・エレゼェ・モオヴェ・アキナケス・トオ・アステリアヴェイィノ」
ステラが詠唱をすると、輝きを放ったままの短剣がゆっくりと明滅をし始める。そして、それがだんだんと速くなる。明滅が判別できないほどに速くなると、今度は減速をし始めた。徐々に徐々に緩やかに……やがて輝いた状態で明滅は止まった。
すると、今度は短剣を握るステラの手が光だした。
その光は、手から手首へ、腕へ、肩へ、胸へ、首へ、顔へ、腹へ、全身に広がりだした。
光の広がりとともにステラが苦しみだす。
「ううっ、あっ、ぐぅ……あぁ――」
額に汗が滲み、粒となり、雫となって顔をつたう。最初は、一滴、二滴であった。だが、光の広がりとともに大量の汗が全身から吹き出す。
苦しみながらも詠唱を続けるステラ。
「……ボレェニド・プウリエ・ヒリュウボリオォデ・オフィ……アキナケス・アニデ・アステリアボリオォデ・シオモプレエェテ・シイィニデ・シィグニアレ・トオ・エニドシィグニアレ・イイフ……エニドシィグニアレ・エク・トリウエ・リエェテウリニ・ニオリモアレ・エニデ・エレゼェ・リエェテウリニ・アボエニデ・エザイト……リュウケツ」
詠唱が終わり、光がステラの体を完全に包む。すると、今度は体が大きく揺れだした。
その揺れはジーノたちをはるかに超える激しさで、まるで誰かに強く揺すぶられているかのようである。
「ああぁ、ううぅ、あっ、ああー――」
激しい揺れに必死に耐えるステラ。
揺れはますます激しくなり、ステラの髪は乱れ、顔が苦痛で歪む。体が大きく左右に振られ、地面につけている膝が激しい揺れで土を削る。
「ううううー、あああぁー……」
体を起こしているのもままならないほどの揺れが突如――弱まる。揺れに合わせて光も――薄くなる。ゆっくりと、ゆっくりと…………遂に光が消え、揺れも止まった。
そしてステラの手からは短剣が……消えていた。




