072 本音
何やら周囲が騒がしい。誰かが叫んでいるような声がする。耳障りだ。(……うるせえな)そう思いながらジーノはゆっくりと瞼を開けた。
「目が覚めましたかジーノさん」
開いた眼に最初に入ってきたのは、密かに慕い憧れていたステラの顔だった。
(……どうして……ステラが? はっ!)
「お、おま、くそ! どうなってる!」
頭がはっきりしてきた。そうだ俺は、グレタに伸されたんだ。
体が動かない。首を起こして周囲を見回す。両手両足は縄で四本の杭につながれ、地面に大の字に寝かされていた。そして、その地面には文字だか模様だかを組み合わせた図のようなものが描かれている。
体の左脇にはステラが膝をついて座っており、右側に見えるオレアの大木にはチロ、リザイア、フランコの三人が縛られている。
そして、大木につないでいたアリアや自分を殴り倒したグレタたちは、自分の右足とオレアの大木の間付近に固まり、黙ってこちらに目を向けていた。
目が覚めるときに聞こえていた騒ぎ声は、どうやらリザイアのようで、今も大声で泣き叫んでいる。
「いやだー! 俺は死にたくねえ! お願い、あっ、ジーノ、ジーノ! 目が覚めたのかジーノ、謝れ、謝れよ! お前のせいでこうなったんだ、ステラたちに謝れ! 許してくれって言えよぉ! 全部お前のせいだろぉー! あやまれよー!」
(チッ、うるせえやつだ)
ジーノは一瞥すると、リザイアは無視して、チロとフランコの様子を伺う。
チロは、黙って下を向いていた。怒っているのか目を合わせようともしない。
(……)
フランコは、「兄貴、目さめた、よかった……」と言ってポロポロと涙を零しながら泣いている。
(……何がよかっただ、完敗じゃねえか)
「ジーノ、じーのぉ! 聞けよ! 俺のはなしきけよ! あやまれ、なっ、ステラにあやまれ。そして、ステラの下につこうぜ。ステラたちの部下になろうぜ。俺たちとそこの連中とで竜眼狩りをしてステラに渡そうぜ。そうすりゃステラが最終戦に出るときに、お前は力を失って普通の人間に戻るだろ。そしたら俺らも助かる。なっ、じーのぉ、謝って配下にしてもらおぅよぉ」
「うるせえリザイア! おまえ、いい加減しろ! 俺らは負けたんだよ。ステラたちに継嗣戦を挑んで負けたんだ! ジーノは殺されて力を奪われ、俺らはジーノと一緒に死ぬんだ! わかってたことじゃねえか、あきらめろ!」我慢の限界がきたのか、チロがリザイアを怒鳴りつける。
「い、いやだー! おれはしにたくねえー!」リザイアはさらに大きな声で叫ぶ。「グチグチ言ってんじゃねえ! そんなことできるわけねえだろ!」それをジーノがはねつけた。「そんなバカな話には乗りません」ステラもきっぱりと切り捨てる。
「いやだー! 俺はいやだー! おめのせいだろうが、じーのぉ! おめえが俺を衛士にしたからだぁ! おめえのせいなんだよ、全部! ガキの頃もそうだ。おめえとチロが地主のガキのカッシオと使用人のチオッラを半殺しにしなきゃ、俺らは逃げなくてすんだんだ。おめえなんかと一緒に逃げるんじゃなかったあぁ! あーっ、あーっ、おれはどれいでよかったあー、あっあっあっあー、おれはしにたくねー、あーっ」
(……みっともねぇ)大声で死にたくないと泣き叫ぶリザイアに辟易したジーノが、ステラに告げる。
「もういい、早く殺れ」
「何か言い残すことはないのですか?」と尋ねるステラ。
「言い残すことぉ……あるよ、言ってやるよ! おめえらはみんなクソッタレだ! 竜眼主もヒリュウ霊もこの半世界も全てクソッタレだ! 俺は好きで奴隷に生まれたわけじゃねぇ、クソガキをぶん殴ったわけでもねえ、盗みも暴力も冒険者も、好きでやってたわけじゃねえ! みんなみんな生きるためにやったんだ、それしか生き方がなかったからやったんだ、生きるために自分ができることをやって何が悪い! 何がわるいってんだぁ!」
ジーノは、首をめぐらして全員を睨みつける。
「竜眼の力を得たら自分の思い通りの世界を作ってやろうと思って何が悪い。リザイア! てめえを衛士にしたのは俺に必要だったからだ! 文句あんのか! ガキをさらったのも、ステラの命を奪おうとしたのも、リュウ継嗣になるために必要だからだ! それのいったい何が悪いってんだ! 何が悪いんだ!」
ジーノは目を剥いてステラを睨む。
「何にでもなれて自由に生きれるやつばっかじゃねえんだ! 底辺のやつは底辺でしか生きられねえ。それを変えるためには、なんだってやんなきゃダメなんだよ! 俺は俺のために俺が決めて俺の人生を必死で生きた。おめえらにとやかく言われる筋合いはねえ! 竜眼が覚醒してから死ぬ覚悟はできてんだ、殺すなら殺せ、さあ殺せ! 今すぐ俺を殺せぇ!」
はあはあ、と肩で息をするジーノ……頭を地面につけ、ゆっくりと瞼を閉じる……静寂……
静かに瞼を開くジーノ。ゆっくりと視線をステラに合わせる、炯々とギラつく金色の瞳で…………
そして、告げた――
「殺せ」




