070 ヒリュウ継嗣線(その6)
「あなたたち二人は私が相手をしてあげます」
ジーノとリザイアに、蔑むような目を向けるグレタ。
「おめえら最初から決めてやがったな!」苛つきながら吠えるジーノ。
「幼い子供をさらうようなゲス野郎には、きついお説教が必要ですからね。死ぬほど痛い目に合わせてあげます」刺すような目で睨めつけるグレタ。
「へっへっ、予定とは違うが構わねえ。こっちゃあ二人だ。じゃじゃ馬を調教するのは俺らの方だ」とジーノ。
グレタは、両手に両刃の短剣ジャンビーヤを握っている。だが、ジャンビーヤの刃渡りは七シーン(二十一センチ)ほどである。
それに対してジーノは全長三ハーン(九十センチメートル)を超える戦斧クレセントアックス。剣鉈を大きくしたようなリザイアのファルシオンは刃渡りが二ハーン(六十センチ)程度。どちらも短剣とは比べるべくもない。
「リザイア行け!」
「おっ、おう!」
リザイアがグレタに突進をするが、グレタは身を翻し余裕でかわす。が、「バーカ」すぐ後ろから迫っていたジーノが、リザイアを避けたグレタの側面に、クレセントアックスを打ち下ろす――しかし、グレタはそれも、クルリ、と体を半回転させ、簡単にかわした。
「チッ。止まるな、攻め続けろ!」
ジーノとリザイアは、交互に入れ代わりながらグレタに斬りかかる。だが、かすりもしない。
グレタは、子供の遊びに付き合う大人のように、余裕の微笑を浮かべながら、二人の周りをクルクルと回る。
その姿はまるで円形の舞台で舞う踊り子。
「あなたたち二人、武器の扱いが全くなっていないわね。特にリザイアさん、あなたは剣ではなくて編み棒でも持ったほうがお似合いよ」
「うるせえ! このクソ女があ! リザイア、ぶっ殺せぇ!」
キレたジーノが金色の眼でリザイアに命じた。
「う、うわぁ、うわあー」
さっきまで、及び腰でへろへろとファルシオンを振っていたリザイアが、出たら目にブンブンと振り回しながらグレタに突進をする。
だがそれも、グレタは簡単によける。しかし、竜眼主の命令で強制的に動かされているリザイアは、いくら避けられようとも止まることなく、狂ったようにファルシオンを振り回し、突進を続ける。
(こういう相手はちょっとやっかいね)
グレタは距離をとるために一旦離れる――と、ジーノは踏んでいた。だがグレタは、リザイアをかわして交差する瞬間、右膝をリザイアの腹にめり込ませた!
「おぅっー」唸り声を上げて倒れるリザイア。
「さあ、もうあなたしかいませんよ。あなたは一発で終わらせません。覚悟なさい!」
ジーノが周囲を見回す。フランコもチロも地面に伸びている。「くそっ!」だが引き下がれない。
「やったるわこらぁー! 死ねやー!」クレセントアックスを振りかぶってグレタに挑むジーノ。グレタは、振り下ろされたクレセントアックスを右に回り込んで避け、ジャンビーヤを握ったままの右拳でジーノの顔面を殴る! 「おごっ」殴られた勢いでふらつくジーノ。だが、足を踏ん張って耐え、そのままグレタの方に体を向け、クレセントアックスを斜め下から振り上げた! グレタはそれを後ろに軽くステップをして避ける。足が着く、そのまま前に蹴り出し、一気にジーノに迫る! ジーノが、あっ、と思った瞬間、グレタの左ストレートが、顔面にヒット! 「ぶふっ」殴られた勢いでジーノの上半身が後ろに反れる。すかさずグレタはジーノの腹に前蹴りを入れ、蹴り飛ばす!
ドザッサー!
背中から地面に突っ込むジーノ。
「あなたはいったい何発アリアを殴ったのですか? 一発ですか、二発ですか、それとも五発か、いいや十発以上か! 何発だろうと許さない! 私のかわいいアリアを殴りやがって! 何十発でもお返しをしてやる!」
グレタは短剣を捨てると、ふらつく足で立ち上がろうとしているジーノに突進し、ジーノが持つクレセントアックスの柄を両手で掴む。そして、グリッ、と一気にねじった! 「あっ⁉」柄を握っていた右手がねじれ、驚いたジーノが思わず柄から手を離す。その隙にグレタがクレセントアックスを奪い取り、投げ捨てた。
「くそっ!」腰からナイフを引き抜こうとするジーノ。だが、グレタはそれを許さない。素早くジーノの手を払い、反対の手でジーノの腰に手を回し、ナイフを引き抜き放り投げた。
「てめえ、ふざけんじゃねぇ」掴みかかってくるジーノ。
だが、グレタの左フックのほうが速い。続けて右、そして左左右と連打するグレタ。堪らずジーノの顎が上がる。そこを狙って下から強烈な右を顎に叩き込む! 「うぅー」呻き声を上げて棒立ちになるジーノ。「私の娘にケガさせやがってえ! この、クソ野郎がぁー!」叫びながらグレタは、垂直に右足を振り上げ、ジーノの頭頂部をめがけて、踵から振り下ろす!
「……」ジーノは声すらあげられず、白目をむいて崩れ落ちた。




