006 駆け出し冒険者、喧嘩をする(その1)
パルコイデスの森を抜けておよそ一カイ(一時間)。王都に入った五人は、激臭で人々を威嚇しながら駈歩で王都を疾走し、ようやく冒険者ギルドに到着した。
裏路地に荷馬車を停めて、ルキウスがギルド長のカリオを呼びに冒険者ギルドに入る。
出てきたカリオは荷台に山と積まれたグールヒポダイルを見て、驚きで目を白黒させるやら、臭いで嘔吐きが止まらないやら、忙しいことこの上ない。
討伐必須害魔獣の検証は、王立国土安全院の立ち会いが必要になる。
「ニッテツ(午後二時)の頃にもう一度来てくれ」
カリオにそう言われ、荷馬車と馬を預けて五人は食事に行こうとしたのだが「そんな臭いをさせたまま街を歩くな!」とカリオにしかめっ面で言われ、大量の臭い消しの粉を押しつけられた。
無料でくれるなんて気前がいいよな、などと五人は喜んでいたが、カリオはドアを閉めながら「報酬から引いておく」、と小さな声でしっかりと告げていた。だが、浮かれた五人の耳には全く届いていなかった。
五人はそのあと、ギルドの洗い場を借りてごしごしと体の臭いを落とし、冒険者ギルドから歩いて十二シィ(十五分)ほどのところにあるフィリッポお勧めの料理店に向かった。
「ここだよ」とニコニコしながらフィリッポが看板を指差す。
その看板には、
『タヴェルナ・ピッツェリア・バール ヒリュウの鱗亭』
と書かれていた。
店の周囲を見回しながら「ここかぁ、知らなかったなぁ」とマルクスが言うと、ルキウスとフェリシアも頷く。
冒険者ギルドからそう離れていないこの辺りは、武器や防具を扱う工房や、日用品ならなんでも揃う小間物屋など多種多様な店があり、三人もよく来ているのだが、この店は全く知らなかったようである。
「この春に開店したんだけど、ここほんとお薦めだから」と、フィリッポが率先して店の扉を開ける――と、
「きゃあっ!」
「おらぁ、てめぇふざけんじゃねえ!」
五人の耳に飛び込んできたのは、女の子の悲鳴としゃがれた男の怒鳴り声、そして皿や料理が床に飛び散る激しい音だった。