068 ヒリュウ継嗣線(その4)
「殺せ!」ジーノのかけ声とともに、八人の死闘が始まった。
八人の間にはおよそ三十四トゥカ(40.8メートル)ほどの距離がある。互いに相手を見据えながら駆け、間を詰める。
半分を切った、あと十六トゥカ(19.2メートル)ほどでぶつかる。なのに突然――ステラが立ち止まった。
それと同時に、ジョルジョがアンナたちの前を斜めに疾走してチロの正面に、アンナはジョルジョの位置にずれてフランコの正面、グレタはリザイアとジーノの間に、全員が移動をした。
しかも、アンナとステラとグレタは、移動しながら瞬時に、互いが持っている武器を交換している――
この入れ替えは、あらかじめ決めておいた対戦パターンの一つである。
ルキウスとフェリシアからジーノたち四人の情報を訊き、それを元にジョルジョが戦術を組み上げたのだ。
「おまえら!」ジーノが歯噛みをするが、もう遅い。
フランコの前に立つのはホースマンズ・フレイルを持ったアンナ。
「……」言葉をなくすフランコ。どうしたらいいかわからずにジーノを見る。
「殺れ! 殺らなきゃ俺がお前を殺す! 殺れ!」視線に気づいたのかジーノが怒鳴る。
(……そんな…………いたく、ないように……しないと……)
フランコはウォーハンマーを手放した。
「ちょっとあんた! 武器を手放してもアンナは手加減しないわよ!」
(……か、かるくたたく、だけ……かるく……)自分に言い聞かせるよう心の中で唱えるフランコ。
「すぅー」フランコはゆっくりと息を吸い込み、覚悟を決めた。
(ごめんね、ごめんね……)心の中で何度も謝りながら前に出る。
アンナの頬を叩いて気絶させよう。それがフランコの出した答えだ。
確かに、ジョルジョにも匹敵する大男のフランコが、アンナのような華奢で小柄な少女を張り倒せば、気絶するかもしれない。
アンナが、見た目通りなら――
「なめんじゃない!」
アンナは、ゆっくりと距離を詰めるフランコの懐に素早く自ら飛び込み、武器を手放しながらクルリと背中を向けた。
(……えっ?)状況を飲み込めないフランコ。
フランコに背中を向けながらもアンナは、右手でフランコの肘に近い右前腕を、左手でフランコの右手首を掴んでいた。
前進を停めていなかったフランコがアンナの背中に、トンっ、と軽く触れる――
「アリアをいじめたお返しよ!」
怒鳴りながらアンナは、体をスゥーっと前に折り曲げて背中にフランコを背負い――投げた!
「がぶぅっ――」顔面から地面に叩きつけられたフランコ。口から意味不明な声が漏れる……
――アンナがフランコの体から離れる。
どさっ!
顔で逆立ちをしていたフランコがゆっくりと、地面に倒れた……
フランコは、ピクリとも動かない。
「……あれ? やりすぎた?」
ちょっと心配になったアンナが、うつ伏せで倒れているフランコに近づき、「よいしょっ」と仰向けに返す。
「うわっ⁉ 顔ひど。いったそ」と言って眉をひそめる。
これ誰がやったの? って顔でアンナは言ってるが、アンナだよ! と、アリアがいたらツッコんでただろう。
うわぁー、とか言いながらアンナはフランコの胸にこわごわと耳を当てる。
『ドックン、ドックン――』
「よし、生きてる! セーフ」
そう言うとアンナは、立ち上がってフランコを指差し――
「あんたたちが悪いのよ! お返し!」
と、決めゼリフ? を残してフランコに背を向け、「アリアー!」と叫びながら駆けていった。




