067 ヒリュウ継嗣線(その3)
ジーノたちの罠にひっかかり、網で捕えられ、木に吊るされたルキウスとフェリシア。
ジーノは、吊り下げられた二人をさんざんいびったあとに「んじゃ、お二人には静かになってもらおうか」と、二人に向かって吹き矢を放った。
「なにをす」
「ルキウスさまー! お」
二人は一瞬で……昏倒した。
「何をしたんです!」ジーノの行動に驚いたステラが叫ぶように怒り声を上げる。
「ギャーギャーうるせえんで、静かにしてもらおうと思ってな。生きてるぜ、多分。心配なら、俺らに勝って確かめな。クックック」ジーノが手に持った吹き矢を振りながら告げる。
「覚えておきなさい! 二人にもしものことがあったら、あなたにも同じ報いを受けさせます!」怒りに燃える目でジーノを睨みつけるステラ。
「お嬢、落ち着いて。二人は死んでません。何がしたいのかわかりませんが、殺すつもりならこんな手のこんだやり方で捕えたりはしない。我々に揺さぶりをかけているだけです」冷静になれ、とステラを諫めるジョルジョ。
「そぉうだよ。苦労してとらえたからな。ただ殺すのはもったいねぇ。ケケッ。本当はな、すぐ殺すつもりだったんだが、色々調べてたらこいつら、オイシイ、って思えてきてな……だから俺の、衛士にする。ハーハッハァー。目が覚めたらクソほど嫌いな俺の衛士だぜ、タッハー、笑えんだろ。ダアーハッハッハァー」
「な、何をバカなことを言っているのですか! 二人を衛士にするなど、そんなことは許しません! 今すぐ二人を放しなさい!」ジーノの言葉にますます熱くなるステラ。
「お嬢! 止めなさい!」厳しく制すジョルジョ。
「そうかい、そうかい、許さんかい。イヤイヤイヤ。まあいいさ、おめえの許可はいらねぇ。なんせここで、死ぬんだから。カカッ、しっかし、もったいねぇなぁ、すってらちゃんが竜眼主とは。あー、もったいねぇ。なあ?」と仲間に同意を求めるジーノ。
リザイアはニヤニヤ笑って「おうよ」と答えたが、チロとフランコは軽く頷いただけであった。
「おめえらのことも調べたぜ。……だが、わかんねえことだらけだ。一体お前ら何もんだ? ヒスペリアから来たって聞いてはいたが、戸籍は移してねえようだな。役所にはなかった。んでよ、長期滞在許可証ならあるだろうって調べたら、そこには名前と出身地だけ、リュウオンシすら載ってねえ。普通ならそんなんで長期の滞在許可が下りるわけねえんだよ」
ジーノは、ステラたちの様子をチラリと窺い見て、続ける。
「ただよ、エンリコがお前らの保証人になってるよな。ビタロスの大商人エンリコが。なんであのジイさんが、一人当たり大金貨一枚なんて保証金を払ってんだ。しかもだ、エンリコのじじぃ、裏にも相当ばら撒いたって聞いたぜ……なんでだ? ……ステラ、おまえ、エンリコの隠し子か? それとも……オンナ? ククッ」
「ふざけるな! お嬢さまを侮辱するなど、許せません! あなたのような賤しき賊に蔑みを受ける謂れはありません。お黙りなさい!」
「そうよ! スぅ姉さまは聖女なのよ! あんたみたいな悪党とは違う! アリアを返せ! この悪党!」
グレタとアンナが、ジーノに向かって怒りを叩きつける。
「グレタ、アンナ! お前たちもだ。やつの挑発に乗るな! やつの狙いは冷静さを奪うことだ。落ち着け!」
ジョルジョが二人を叱責する。
「ヘッへ。乗らねえか、あんたは。まあいい。んじゃ、やるとすっか。リュウオンシぐらいは知りたかったんだがな。しゃあねえ、ガチンコでいく。フランコ、お前はあのデカいのをやれ。チロ、お前はグレタだ。リザイア、あーお前はガキでいいや。ステラは、俺だ」
ジーノたちはそれぞれの対戦相手に向かい合うように、フランコ、リザイア、ジーノ、チロの順に並んだ。
各々の手には武器が握られている。
フランコは一トゥカ半(1.8メートル)のウォーハンマー。リザイアは剣鉈を大きくしたようなファルシオン。ジーノは戦斧クレセントアックス。チロは手の中に鉄球を。
そして、ジーノたちと向かい合う鱗亭の面々は、ジョルジョがハルバード。アンナとステラは刃が湾曲した両刃の短剣ジャンビーヤ。グレタは持ち手の棒の先に鎖で棒状の穀物をつないだホースマンズ・フレイル。
――睨み合う八人――
「殺せ!」
ジーノの声とともに八人の死闘が、始まった。




