064 アリア(その3)
「遊びは終わりだ。ガキ、お前を俺の衛士にする」
金色に炯る眼で、まじまじとアリアを見下ろすジーノ。
(させるか!)アリアが口を大きく開けて舌を噛み切ろうとする。
「ぐあ⁉」アリアが口を閉じるよりも一瞬早く、ジーノが手に持っていた猿ぐつわの布を口に詰め込んだ。
「手間かけさせやがって。最初からこうしとけばよかったぜ」
ジーノは腰に差していたナイフを抜き、左手の親指の先を少し切って血をにじませた。
そして、アリアの右の耳たぶにもナイフの先を当て、軽く突いた。
「ジーノ、本当にやるのか?」チロが顔をしかめながら訊く。
「たりめえよ。よく見ろ、このガキを。結構かわいい顔してんじゃねえか。あと何年かすりゃ、なかなかいい女になるぜ。そしたら俺の女にする。たまにはお前らにも貸してやっからよ。楽しみにしてろ」
金色の下卑た目をしたジーノが、ねっとりとアリアを見ながらチロたちに言う。
リザイアは「ほんとか?」といって喜んでいるが、チロは嫌な気持ちになった。だが、殺されるよりはましなのか、とも思い、目を逸らす。
「ひえ、おのえろう! えたいいあえをううおとあんあいああい!」目を剥いて叫ぶアリア。
ジーノはニタニタと笑いながら、アリアの髪を掴んで顔を上に向けた。そして、左の親指につけた傷をアリアの右耳たぶの傷におしつける。
「ひはー! はめおー! ひはー!」顔を振って避けようとするアリアの頭を、ジーノは木に押しつけて押さえ込む。
(いや! いやいやいや! たすけて! たすけてぐぅちゃん! あんな! すぅねえさま! じょっちゃん! たすけてー!)身をよじって叫び続けるアリア。
だが、アリアの体が麻痺したようにブルブルッと震えだす。そして、混ざりあった血が全身に回る感触。
覚えてる。よく覚えている。ティアマト家の居間で、意識を失ったアステリアと交わした『竜血の契り』と同じ感覚。
「ひはー! ひはー! あえてー!」泣き叫ぶアリア。
その顔をニヤニヤと愉しげに眺めるジーノ。
――アリアの体の震えが止まった。
ジーノは、アリアの口から布を取り出すと金色の目で命じた。
「店の連中のことを全て話せ」
「……」アリアは何も喋らない。
「あん? おい、聞こえてんだろうが、店のやつらのことを話せ! 竜眼主の命令だ!」
金色の目を剥いてジーノが怒鳴る。
「アッ、アハッ。アハハ、アーハッハッハ、アーハッハッハ――」
狂ったように笑いだすアリア。
「何も話さない。アリアは何も話さない。あんたみたいなやつに、アリアはなんにも話さない!」
まだ涙は流れている。だが、これは悲しい涙や悔しい涙じゃない、怖いからでもない。嬉しいのだ、嬉しくて流れている涙だ。
わかるのだ、自分はジーノの衛士になどなっていない。ステラの衛士のままだと。嬉しかった。守られてる。ステラの血に守られている。
「あんたなんかがスぅ姉さまに勝てるわけない! アリアはあんたの衛士にならなかった。あんたは負けた! スぅ姉さまの血に負けたのよ!」
「こ、この、このくそガキがー!」
怒り狂ったジーノがナイフを引き抜き振りかぶる――
「きた! 来たぞ、ジーノ。ステラだ!」
リザイアが叫んでオレア広場の端を指差す。
王都につながる南側の道から現れたのは、ステラを先頭にしたヒリュウの鱗亭の面々と、ルキウスたちであった。




