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063 アリア(その2)



 ジーノの責めに耐え、なおも反意を向けるアリアの目に、恐怖を感じたのかジーノが、突然拳を振り上げた。



 (こわい! だれかたすけて!)それでも目を逸らさないアリア。



 「あぁ⁉」ジーノの動きが止まった。



 誰かが後ろから自分を止めている。



 ジーノが振り向くと、チロがジーノの体を抱えて踏ん張っている。



 「――やめろ、ジーノ。殺す気か?」



 すかさずフランコがジーノの前に出て、覆いかぶさるようにアリアを隠す。



 「離せ! おら!」



 ジーノはチロの腕を掴んで引き離し、振り返ってチロを押しのける。



 「てめぇ、何しやがる!」



 「落ち着けジーノ。お前が本気で殴ったら、このガキ死ぬぞ。死んだらステラにわかんじゃねえのか? そしたらあいつは来ないかもしんねえぞ。衛士が死んだら竜眼主にはわかるって言ってたよな。こいつ衛士じゃねえのか?」



 チロがジーノをなだめる。最近のジーノは、あまり手加減をしない。自分たちにだけかもしれないが、以前と違って本気で殴ってくる。



 腕っぷしが強くないジーノとはいえ、こんな子供を本気で何発も殴ったら本当に死ぬかもしれない。



 アリアが可哀想だから、かどうかはわからない。だが、見てていい気はしない。



 「うっせえ! 俺に指図すんな!」



 目を剥いてチロを怒鳴りつけるジーノ。



 「悪かった。悪かったよ。だけど、殺したら意味ねえだろ。ステラから竜眼主の力を奪うのが目的だろ。なら生かしとかねえと、なっ?」



 優しい口調でジーノを(さと)すチロ。



 射抜くような眼でチロを睨みつけていたジーノが、静かに目を閉じた。



 「はぁーっ」



 腹にたまった悪い気を追い出すかのように強く息を吐き出し、瞑目を続けるジーノ。



 そして、ゆっくりと目を開けると「てめぇ、今度邪魔したら殺すぞ」とチロに告げたが、顔つきから察するに、かなり落ち着きを取り戻したように見える。



 「おう、すまなかった。すまなかったな、邪魔して」ジーノの様子を見て少し安心したチロが応える。



 「ふん、まあいい。殴るのは止めてやる。おいフランコどけ」と命令するジーノ。



 「……」フランコは、ジーノに背中を向け、木に手をついてアリアに覆いかぶさったまま動かない。



 「あっ? どけっつったろうが!」



 ジーノが怒鳴りつけてもフランコは黙ってアリアを庇っている。



 「どけ! こら!」



 キレたジーノが、フランコの背中に何度も蹴りをいれる。



 「フランコ、何やってんだ。そんなガキ庇ってどうす――うわっ⁉」



 いつまでもどこうとしないフランコの背中に手をかけたリザイアを、フランコは右の後ろ手で掴まえて投げ飛ばした。



 「なっ、何すんだ!」起き上がったリザイアがフランコに怒りを向ける。



 「おまえ、なぐった。この()、なぐった」フランコは目だけをリザイアに向けて告げた。



 「はあ? あんときかよ。ガキを捕まえた? チッ。そのガキが暴れっからだろが、しょうがねえだろ」とリザイアはそっぽを向く。



 「もういい、止めろ」ジーノがうんざりした顔で告げる。



 「どけ、フランコ。命令だ」金色の(まなこ)で命じるジーノ。



 「……うっ……あぁ……がぁっ……」



 突然フランコが苦しみだした。尋常ではない苦しみようで、顔中から汗が大量に流れ出す。苦悶の表情を浮かべながらも、指先を食い込ませるほどの力で木の幹をしっかりと握り、決してその場を動こうとしない。



 「耐えるじゃねえか」



 苦しむフランコの姿を楽しむかのように、笑みを浮かべるジーノ。



 「……おいジーノ、何してんだ?」チロが心配そうにジーノに訊く。



 「竜眼主の命令に背くとこうなる。おめえらもよく見とけ」



 チロとリザイアを順に見てジーノが告げる。



 「……くっ……うぅ……ああぁ……」



 声を殺して耐えているが、今フランコの全身はとんでもない激痛に襲われている。



 『竜血の契り』で混ざりあった竜眼主と衛士の血は、互いの全身の細胞の一つ一つにまで行き渡り、決して切ることのできない(えにし)で互いをつなぐ。



 しかし、あくまでも主は竜眼主であり、衛士は決して主に逆らうことは許されない。



 契約には懲罰の機構が組み込まれており、衛士が竜眼主に逆らうと全身に行き渡った竜眼主の血によって制裁が発動する。



 フランコの全身を襲っている激痛がまさにそれなのだ。



 「やめて! フランコさんを苦しめないで!」見かねたアリアがジーノに乞う。



 「なんだ、ガキ。話す気になったか?」とジーノ。



 「話さない。あんたなんかには何も言わない! でも、あんたたち仲間でしょ? なんでそんなことするの? かわいそうでしょ!」



 フランコが覆いかぶさっているのでアリアにジーノは見えていない。でも、ジーノが楽しんでいるのは見なくてもわかる。



 自分をさらったフランコたちのことは許せない。だが、フランコはさっきから、ずっとアリアに気を遣ってくれていた。



 それに、ヒリュウの鱗亭で話をしていたときのフランコは優しかった。



 だから、腹が立っていてもフランコが苦しめられるのは嫌なのだ。



 「可哀想、か? 確かにな。可哀想だわ。アーハッハッハ。確かに可哀想だわ。アーハッハッハ――」愉快(たのし)げに笑うジーノ。



 「あうっ……」ふいにフランコが脱力する。



 「お嬢ちゃんの言う通りに止めてやったぜ。クックック。チロ、リザイア、フランコをひっぺがせ」



 チロとリザイアが、木に抱きつくような姿勢で脱力しているフランコを抱え上げ、ジーノの後ろに下がる。



 「遊びは終わりだ。ガキ、お前を俺の衛士にする」




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