005 セイバーズ(その3)
「こんなの燃やして埋めちまえばよかったんだよ。なあ、ルキよぉ。今からでも埋めねえか? ヒヨリもそのほうが楽だろ?」
「ダメだよ! マルクス兄ちゃん何言ってるの。グールヒポダイルの皮がいくらするかわかってんの?」赤茶色でくるっくるのくせ毛をしたフィリッポが目をむいて怒る。
「ああ? まあ、高く売れんだろうな」
「まあ高く? マルクス兄ちゃん子爵家の息子だろ? グールヒポダイルの革で作った商品が、王侯貴族や上級市民の間で嘘みたいな高値で取引されてるのを知らないの?」
「あー、聞いたことはあるなあ。でも、あんま興味ねぇ。ヘッヘッ」
「『ヘッヘッ』じゃないよぉ」と言ってフィリッポが大きなため息をつく。
「欠けているのは品性だけじゃなく、常識もなんですね……。フィル教えてあげなさい」
フェリシアが、お可哀想に、と憐れむような目をマルクスに向ける。
「なんだよ、その言い方は。じゃあ、いくらになるってんだ」
「ふふっ。ざっと――大金貨十枚」
「……だ、だいきんかじゅう!」
予想だにしていなかった金額に、フィリッポ以外の四人が絶句する。
それも無理のない話である。ビタロス王国における一般的な平民の年収は、およそ小金貨五枚と言われている。大金貨の価値は小金貨の十倍なので、大金貨十枚は平民の年収の二十倍になる。
「言っとくけどそれ、ギルドの査定額だから。でも、おいらが交渉すれば大金貨十一、いや十二枚はいける」フィリッポが自信満々に胸を張る。
「マジかよフィル! 俺ら大金持ちじゃねえか。馬、俺、馬買う」マルクスが目を輝かせる。
「そ、それだけあれば、装備一式買い替えられるよね。いや、それよりもグールヒポダイルの皮で全身分のレザーアーマーが作れるかも」うっとりとするルキウス。
「わたし、新しいピッツァ用の石窯が欲しかったんですぅ。ルキウス様に美味しいピッツァをたくさん作ってあげたくてぇ。ウフッ」フェリシアは妄想爆発。
「お、おおおお、おれ、おれは、さけ、さけー! ビタロス中の竜米酒を買い占めたるわぁー。わぁっはっはっはっはぁー」ヒヨリ=ツキノが叫ぶ。
ルキウスがフィリッポを振り返り「フィル、交渉は任せた」と言うと、フィリッポはウィンクをし「任せて」と返す。
「ルキウス様、お祝い、お祝いをしましょうよ」
「おお、いいな。豪勢にいこじゃねえか、な!」
ニコニコ顔で提案するフェリシアに、マルクスも同意する。
「美味しいお肉が食べたい」
えっ? 突然のリクエストに四人は驚き、ヒヨリ=ツキノを見る。
すると、さっきまで冴えた銀色をしていた髪が、眩いばかりの金色に変わっている。
「ヒヨリ出てきて大丈夫? 無理させてごめんな。もう少し頑張ってくれるかい」
ルキウスが優しく声をかけると、目の下に分厚い隈を作った金髪のヒヨリ=ツキノが返す。
「お肉。脂身たっぷりの美味しいお肉を食べさせて。なら、頑張れる」
「ああ、腹いっぱい食べさせてやる。なんせ、俺たち大金持ちだからな」マルクスが先ほどとは打って変わった満面の笑みで請け合う。
「なら、おいらいい店知ってるよ」
手を挙げながら言うフィリッポに、「どこ?」と金髪のヒヨリ=ツキノが訊く。
「ヒヨリとツキノがお気に入りのあの店」
「そこ好き」と嬉しそうに金髪のヒヨリ=ツキノが微笑んだ瞬間、「よっしゃあ! あの店の酒はうまい!」とまた銀髪になったヒヨリ=ツキノが叫ぶ。
「じゃ、決まりだ。王都まであともう少し。戻ったら僕がおごるから、みんな頑張ろう!」と言うルキウスに、四人は――
「おーっ!」と明るく答えた。