056 路地裏
待ち合わせ場所は、来た道を戻るのではなく、パン屋からヒリュウの鱗亭に直接帰る道と、シルウェストリス市場からヒリュウの鱗亭に帰る道がぶつかる場所にある、大きなピナスピネアの木の下だ。
いつもなら、東大通りと並行しているパン屋の少し北にある側道に出て帰るのだが、それでは遠回りになる。
少々狭くてくねくねしているが路地裏を南東方面に進むと、最短距離で待ち合わせ場所に着ける。
グレタに、路地裏は極力使わないように、といつも言われているので、普段ならば使わなかったであろう。
だが、想像を超えたラモディノーチェの魅力にテンションが上がり、早くアンナと一緒に食べたい! という気持ちでいっぱいになったアリアは、戸惑うことなく路地裏に向かった。
パン屋の向かいの物陰にはアリアを追ってきた三人が隠れていた。
三人は、パン屋を出てアリアが路地裏に入ったのを見届けると、二人がアリアの後を追い、一人は別の方向へと走っていった。
「ふっふふ、ふっふふ、ふっふっふーん――」
アリアは、鼻歌を歌いながら軽快な足取りで路地裏を進んでいるが、周囲は薄汚れた暗い雰囲気に包まれている。
普段のアリアなら、こんな怪しい空気の場所に踏み込もうとはしないし、したとしても十分周囲に気を払っていたであろう。
だが、今日は違った。だから後をつけている二人に全く気づいていない。
しかし、路地裏だからといって人が全くいないわけではない。少しでも早く家に帰ろうと路地裏を使う者は割といる。そして、後をつけている二人もそんな通行人のふりをしていた。
楽しげに歩を進めるアリア、待ち合わせ場所まであと四シィ(五分)ほど。だが、そこで完全に人気が途絶えた。
「きゃぁっ⁉」
悲鳴をあげるアリア。顔に何かを被せられ、口のあたりを押さえつけられた。ちゃんと声が出せない。
「はふへへえー」
必死にもがいて抵抗をするが、万力のような力できつく押さえつけられ、思うように身動きが取れない。
「ひぃやぁぁあめれぇー」大声で叫び、力いっぱい暴れるアリア。
だが、「うっせえガキ!」という声とともに腹部に強い衝撃を受け、アリアはそのまま……意識を失った……




