055 ラモディノーチェ
アリアが向かっているのは、ラモディノーチェという王都の子供たちに大人気のお菓子を売っているパン屋だ。
ラモディノーチェは、バターをたっぷり混ぜた生地を、縦五シーン(十五センチ)横一シーン(三センチ)程度の大きさに切って石窯で焼き、焼き上がったサックサクの生地にたっぷりの蜂蜜をつけ、その上から粗く砕いた数種類の木の実をどばっとふりかけたお菓子である。
ビタロスよりもさらに南の国で作られている料理を参考に、アリアが向かっているパン屋の店主が考えた新しいお菓子だ。
発売以来大人気ではあるのだが、子供の懐具合にはちょっと厳し目の値段がついている。
値段が高めなのは、このパン屋でしか作っていないのと、このパン屋がシルウェストリス市場よりも北側のやや生活に余裕がある平民たちの居住区にあることが、理由なのかもしれない。
なので、アリアとアンナは買い物ついでの買い食いを、このお菓子のために二回も我慢をしてお金を貯めたのだ。
「おじさん、ラモディノーチェ二つ下さい」
アリアは、勢いよく店に入るとカウンターに飛びつくようにして注文をした。
「おっ、嬢ちゃん。いいところに来たな。ちょうどさっき新しいのが焼き上がったところだぞ」
焼き立ての香ばしい匂いが漂う店内。カウンターの上に置かれた大きな皿には、ふんわりと焼き上がったラモディノーチェが綺麗に山型にもられている。
店主は、皿からラモディノーチェを二つ取ると、指で挟んでいる側の端ギリギリまで蜂蜜入りの壺に、だぼっ、とつけた。
(うわぁー蜂蜜すきぃー)
アリアは目を大きく見開いたまま壺から目が離せない。
店主が壺からラモディノーチェを引き抜く。すると、ラモディノーチェにたっぷりと絡んだ金色の蜂蜜が、たらたらたらー、と壺に流れ落ちる。
(ああーもったいないぃー)
壺に落ちる蜂蜜が、ぽとりぽとり、になると、店主は蜂蜜を絡めたラモディノーチェを、さっ、と素早く調理用の浅い器の上に載せた。
その器には、粗く砕いた木の実の粒がびっしりと敷き詰められている。店主はその木の実の粒を、バッサバッサ、と惜しげもなくラモディノーチェの上にかけて埋める。
そして、山盛りにした木の実の粒を上から柔らかぁく数回押すと、厳かに埋もれていたラモディノーチェを掘り起こした。
(はわぁー)何も食べていないのに頬がキューッと痛くなり、思わず唾をゴクリと飲み込む。
(わっ、恥ずかしい……)と、頬を押さえて顔を真っ赤にするが、それでも目が離せない。
ラモディノーチェとは、木の実の枝、という意味らしいが、枝に木の実がついているなんてものではない。
木の実で固めたオブジェ、と言ったほうが正しいぐらいのボリュームだ。
(なんかもういっぱい幸せー。フィルぅありがとー)
アリアたちに、このお菓子のことを教えてくれたのはフィリッポなのだが、聞いていたよりもボリューム感が凄い。見ているだけで幸せになれるレベルだ。
アリアはお金を払うと、両手の指で木の実がついていない生地の部分を、そっとつまんで店を出た。
生地から指に伝わるほの温かさ、蜂蜜の甘い香りに交じる木の実と生地の芳ばしい香り。
(うー今すぐ食べたいぃ)
アリアは、そんな衝動を一生懸命に我慢してアンナとの待ち合わせ場所に早足で向かった。




