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054 秘密の楽しみ



 「行ってきまぁーす」



 ヒリュウの鱗亭を元気に飛び出していったのはアリアとアンナ。



 「寄り道しないで早く帰ってくるのよ」



 手をつないで駆けていく二人を見送りながらグレタが声をかけた。



 二人は振り返りもせず、つないでいない手を振って答えるが、本当にわかっているのやら。



 (やれやれ)と思いながらも、口元に笑みを浮かべると、我が子を見守るような眼差しをし、楽し気に駆けていく二人の背中が見えなくなるまで、グレタは戸口に立っていた。



 「グレタさん。買い物なら僕に言ってくれればすぐですよ」



 店の中に戻ってきたグレタに、床を掃いていたルキウスが声をかけた。



 「ふふっ。いいのよ。買い出しのついでにお菓子を買って食べるのが、あの二人の楽しみなの」



 そう答えるとグレタは唇に人差し指をあて、知ってることは内緒にしておいて、と仕草で語った。



 ルキウスには、優しく微笑むグレタの顔が、娘たちの可愛らしい秘密に気づかぬふりをしている母親のように見えた。






 アリアとアンナが向かっているシルウェストリス市場は、十歳の二人でも走れば十二シィ(十五分)もかからない。



 「うわぁ、ちょっと多いよねぇ」と思わずアリアが漏らした。



 市場の入り口が見える十字路で立ち止まった二人は、困ったね、という顔で互いを見る。



 シルウェストリス市場は、下町の平民が使う二大市場の一つで、夕刻前のこの時間はいつも買い物客でごった返している。



 なので、混んでいることはわかっていた。だが、二人の様子からすると、混雑ぶりが想像を超えていたようである。



 この状況では、買い物を終えるのに少々時間がかかりそうだ。いつものように、買い物帰りにお菓子を買いに行ったのでは夜営業に間に合わないかもしれない。



 市場の入り口を見つめて、うーん、と悩む二人。



 だが、さすがは双子、同時に何かをひらめいた。二人は笑顔で顔を見合わせると、ふたことみこと言葉を交わし、そこで二手に分かれた。



 笑顔で互いに手を振ると、アンナは正面の市場に向かい、アリアは右手側の道に走り出した。



 そんな二人を、少し離れた場所からじっと見つめる者たちが、三人いた。



 その三人は、二人が別れたのを確認すると、隠れていた建物の影から出た。そして、アンナには目もくれず、走り去るアリアのあとを小走りで追い始めた。




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