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050 二人の竜眼主



 ステラがホールで空いた皿を回収していると、突然目の奥に鋭い痛みが走り、バランスを崩して床に膝をついた。



 駆け寄ったルキウスにステラは――



 「り、竜眼主が近くにいます……」



 と、右手で両目を押さえながら、ルキウスだけに聞こえるように小声で告げた。



 (えっ?)



 慌ててルキウスが周囲を見回す。



 ステラから竜眼主同士が接近すると瞳が金色になると聞いていた。だが、ルキウスたちの方を向いている客にそういった者はいない。



 (外?)



 ルキウスが入口の方を見る。

 すると、扉の横の窓からルキウスたちを見ている者がいた。



 (ジーノ?)



 覗いていた相手はルキウスの視線に気づいたのか窓から離れて逃げ出した。



 「待て!」

 「待ちなさい!」



 逃げた相手を追おうとするルキウスの肩をグレタが掴む。



 「何をするんですか!」



 グレタはルキウスの耳に顔を寄せ「追ってはダメ。相手が竜眼主だったら危険すぎる」と小さいが厳しい声で告げた。



 ルキウスとしては大いに不満であった。だが、この仕事を始めるときにステラから、もし店に竜眼主が来ても無闇に手を出さないように、と注意をされていた。



 竜眼主に覚醒したウラ・リュウオンシ〈サクセイ〉は、無から有を作れる特別なリュウオンシであり、竜眼主たちはそれで作り出した独自の武器や魔法を隠している可能性がある。



 「今覗いてたのは、たぶんジーノです」とルキウスも小声でグレタに告げる。



 グレタは無言で頷くと「皆さん、お騒がせしてすみませんでした」と客に詫び、ルキウスに仕事を続けるようにと指示をした。






 (やばい!)



 ルキウスと目が合ったジーノは、反射的に窓から離れて走り出した。そして、後ろを振り返る余裕もないほど必死に走り、家に逃げ帰った。



 転がるように家の中に逃げ込むと、テーブルの上から酒瓶を掴み、一気に(あお)る。



 全力疾走で熱した体にアルコールが隅々まで染み渡っていく。



 「……はぁーっ」



 ようやく一息ついた。



 ジーノがそう感じたとき、なぜか笑いがこみ上げてきた。



 「ハッハ。ハッハッハ。アーハッハ。アーハッハッハ。そうか、そうかぁ俺はついてる。俺はついてるぞ。ステラは竜眼主か。そうかぁ。アーハッハッハッハ。やってやる。俺はやってやる。あいつの心臓の血を飲んでやる。飲んで俺のものにしてやる。永遠に俺のものにしてやる。ステラを、ステラは、俺の、もの。あいつは、俺の、おんなだぁー。ワァーハッハッハ。ワーハッハッハ。ヒィーヒッヒッヒッヒ――」



 金色の瞳に異様な光を灯し、正気のタガが外れたように笑うジーノ。



 その声に含まれた兇気(きょうき)は、薄暗く汚い部屋の中で反響し、徐々に、徐々にその密度を濃くしていった。




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