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049 ニアミス



 ジーノは、今日も朝早くから、冒険者ギルドの周辺で竜眼主の探索をしていた。ここは、一日中人が絶えないので探索にはうってつけだ。



 だが、知り合いも多く、プグナの件に触れられたくなかったジーノは、ここに来るのをずっと避けていた。



 しかし、徒労の続く毎日に焦りと苦悩を感じていたジーノは、とにかく人が多いところを回らねば、という脅迫的な観念に()され、恥などかなぐり捨ててここに来た。だが、全く成果がない。



 さらに、叩きつけるが如き強烈な夏のビタロスの陽射しが、朝から食事もとらずに歩き回っているジーノから気力と体力を急速に奪っていた。



 不毛ともいえるこの状態に、精神的にも肉体的にも疲れ果てたジーノは、まだ午前中だというのに、もう止めてしまおうか、とさえ考えるようになっていた。



 「駄目だ。全く見つからねぇ……。疲れたし、腹も減った……」



 食事でもして仕切り直そうと考えてはいるのだが、なぜかジーノは先程から同じところをぐるぐると回っていた。ヒリュウの鱗亭から少しだけ離れた場所で。



 ヒリュウの鱗亭はジーノのお気に入りだ。酒も料理も旨いが、なんと言ってもステラだ。あれほどいい女は見たことがなかった。



 見た目の美しさだけではない。上級貴族にも等しい気品を持ちながら、農奴の息子であるジーノにも気さくに話しかけてくれるのだ。



 そんなステラに、ジーノの心は囚われ、我を忘れた。



 だが、ステラとどうにかなりたいなどと思ったことは一度もない。



 なぜなら、ジーノにとってステラは、見ているだけで憩いと癒やしを与えてくれる崇敬(すうけい)に値する存在で、決して触れてはならない人だからだ。



 だからあの日、ルキウスとプグナをした日。本当は、給仕の娘にあんなことをするつもりはなかった。



 ヒリュウの鱗亭は開店からあっという間に人気店になり、当初は給仕に出ていたステラも次第に調理場にこもるようになっていた。



 そのため、ステラと会話ができない日が増え、最近では何日も姿を見ないことも珍しくなかった。



 ただ、会いたかった。話せなくとも、顔だけでも見たかったのだ。



 だが、仲間の前でそんなことを素直に話せるわけもなく、苛ついて酒を飲みすぎたのが失敗であった。



 あんなことをしてしまってはやはり行きづらい。しかも、ルキウスに完膚なきまでにやられてしまった。ステラも見ていたはずだ。



 「くそっ、ルキウスの野郎! あいつさえいなければ――」



 ルキウスさえいなければあの場はなんとか収まったはず、とジーノは考えていた。



 なのでジーノは、ルキウスのせいだ、あいつがしゃしゃり出てきたから大事(おおごと)になったんだ、自分はそれに巻き込まれただけ、本当は被害者なんだ、だから俺は悪くない、全てルキウスが悪いんだ、と思うようにしていた。



 全くもって意味不明な論理だが、どんなこじつけであろうとも、自分を正当化しなければ、ステラともう一度顔を合わせる勇気が出そうになかったのである。

 


 「すぅーはぁー。……よし」



 ジーノは大きく深呼吸をすると覚悟を決め、ヒリュウの鱗亭に向かった。



 店の数歩手前で立ち止まり一時逡巡(いっときしゅんじゅん)をする……だが思い直し、扉に手をかけようと、一歩踏み出した――



 「うっ、あぁ……な、なんだこれは……」突然目の奥が酷く痛みだす。



 ガッシャーン!



 何かが割れる大きな音が店の中から聞こえてきた。



 (――何だ今のは?)



 ジーノは、痛みを我慢しながら扉の横の窓から店の中を覗いた。



 すると、ステラが床に膝をつき、右手で両目を押さえていた。その姿を見たときにわかった。



(……竜眼主……だ。ステラ……は)



 自らの目も金色になっている。もちろん自分では見えない。だがわかる。これが竜眼主同士が接近したときの、反応だと……




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