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045 三日後にお願いしますね



 昼営業のピークが過ぎたので、ステラは厨房をジョルジョとフェリシアに任せ、空いたお皿を回収しにホールに出ていた。



 「ピエトロさん。お久しぶりです」



 ステラが声をかけたのは、ルキウスとジーノのプグナのときに、賭けの胴元をしていたピエトロである。



 「おーぅスっテラちゃぁん。ひっさしぶりぃ」



 陽気な声でステラに返事をするピエトロは何やらえらくご機嫌であった。珍しいことに、普段はお金にシブいピエトロが一人でグラッパのボトルを一本空けていた。



 「ピエトロさん。何かいいことがあったんですか?」とステラが笑顔で訊ねる。



 「おーぅ、今朝遠征から帰ったんだがなあ。いやぁ今回のクエスト、大量でよぉ。たんめり、儲けましたぁ。へっへっへぇ」



 頬だけでなく鼻まで赤くしたピエトロが、ニヤニヤと笑いながらステラに答える。



 「わぁー、それはよかったですねぇ。クエストの成功おめでとうございます。ところでピエトロさん、何か忘れていませんか?」



 「うん? 何かって? なに?」



 全く覚えがありません、とピエトロの顔には書いてある。



 「わたし、賭けのお金をまだ貰ってませんよ。ルキウスさんとジーノさんのプグナの賭けです」



 「……あっ⁉」とたんにピエトロの顔から陽気な赤みが消えていく。



 「あっ、うん、えーと。そ、そうだった、かな?」ステラから目を逸らすピエトロ。



 「はい、ピエトロさんは、あの日皆さんと一緒にお店を出てから、今日まで来てませんでしたよね?」



 「そ、そうだな……うん」



 「いついただけますか?」笑顔でぐいっと迫るステラ。



 「ら、来週……来週でどう、かな?」



 「そんなにかかるんですか? わたし今困ってるんです。この間のプグナで壊れたお店の修繕費やら諸々がけっこうかかって大変なんです」



 とっても困ってます、という顔で上目遣いにピエトロを見ながらステラは言っているが、修繕費に関しては既にルキウスが支払っている。



 しかしこれは、あながち嘘とは言い切れない。なぜなら、修繕費以外にも損失はあるのだ。翌日の夜まで営業ができなかった分の売上や無駄になった食材の費用、その他にも細々としたものまで含めるとけっこうな金額になる。



 それに、店の大部分はピエトロたちが治安官から逃げるときに壊したのだから、多少責められても文句は言えないはずだ。



 だが、やり方としてはあまりきれいとは言えないだろう。ステラ自身も後ろめたさを感じてはいる。しかし、ステラにもそうせざるを得ない事情があった。



 それは、ステラが売上を全部賭けにつぎ込んだために店の運転資金が足りなくなり、修繕費と一緒に運転資金までルキウスが払ってくれたのだ。



 ルキウスは、治療費だから、と言ってくれているが、後先考えずに調子に乗った自分の浅はかさを反省するためにも、賭けの勝ち分を回収して修繕費以外は返したい、とステラは考えていた。



 「いやっ、で、あぁ……」



 ピエトロがまた何か言い訳をしようとしたが、途中で口ごもる。痛いところを突かれた、という感じだろう。



 「……ご、ごめん! あの、実は、使っちまったんだ……。で、でも、でも、全部じゃないから、ちょっと、ほんのちょっとだけだから。じ、実はよ、遠征の費用が足りなくって……。しょうがなく、しょうがなくなんだ。ほんと申し訳ない。クエスト報酬の分配が終わったらそれで穴埋めして渡す。絶対に。だからもうちょっと待って、お願い」



 観念したピエトロは、椅子から降りて床に膝をつき、詫びて、言い訳をして、頼み込む。



 (もう、やっぱりなんですね)ステラの罪悪感が少し和らいだ。



 この数日ステラは、ピエトロが店に顔を出さなくなったので、他の冒険者たちに居所を知らないかと尋ねていた。すると、以前ピエトロが、賭けで集めた金を使い込んだことがある、という話を何人かの冒険者から聞かされていたのだ。



 なので、これはもう容赦なし、と言わんばかりに「いつになりますか?」とピエトロの目に焦点を真っ直ぐに合わせて圧力をかける。ただし、笑顔は忘れずに。



 「い、五日、待って」とピエトロ。



 「クエスト報酬の分配って三日後だそうですね。なので、三日後にお願いしますね」とニコニコ顔で期限を通告するステラ。



 (知ってたのかぁ……)とピエトロは諦め、「わかった。三日後に……」と了承した。



 「ありがとうございます。三日後のご来店をお待ちしてます」



 ステラは光り輝く笑顔をピエトロに向けるが、ピエトロの顔は嵐直前の曇天のごとく暗い顔をしていた。






 ピエトロのテーブルから空いた皿を回収したステラが、次のテーブルに移動をしていると――



 (うっ⁉)



 突然目の奥に鋭い痛みが走り、ステラがバランスを崩す。



 ガッシャーン!



 皿が割れる激しい音。ふらついたステラが床に膝をつく。



 「ステラさん! 大丈夫ですか?」近くにいたルキウスがステラに駆け寄る。



 ステラは右手で両目を押さえながらルキウスの方に顔を向け、小声で告げる――



 「り、竜眼主が近くにいます……」




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