044 給仕係のルキウス(その2)
「よお、ルキウス」
ルキウスが声のほうを振り向くと冒険者のダリオが軽く手を上げた。
「いらっしゃいませ、ダリオさん。お戻りになったんですね。クエストいかがでした?」
常連客のダリオは数日前から大がかりなクエストに出ていたのだが、出発前に店に来たときルキウスに「一緒にこないか」と誘ってくれていた。
「おー、大量、大量。結構儲けたからよ、今日は竜米酒をボトルでもらうぜ」とダリオが気前よく注文した。
「お待たせしました」とルキウスが竜米酒のボトルとグラスを運んでくると「お前こいつら知らねえだろ」とダリオが同じテーブルに座っている仲間を紹介してくれた。
「ベッロは知ってるよな。俺の向かいがトイヴォで、その隣がヴェイッコだ。トイヴォとヴェイッコは今回のクエスト、ウェイディングラビット狩りを仕切ったワタリの冒険者だ」
魔獣の中には、渡りの習性を持っているものがいる。
それらの中には渡りを開始する時期や滞在先が常に変わり、滞在先では害を及ぼすだけではなく同時に益ももたらす、という特殊な習性を持つものがおり、それらは要保護討伐害魔獣と呼ばれている。
ワタリの冒険者とは、祭祀所から直接依頼を受け、要保護討伐害魔獣を国を越えて追跡し、現地の冒険者と協力をしながら適正数に抑えるための狩りをする冒険者だ。
「よろしくだぜぇ、ルキウス。プグナ凄かったんだぜぇ。グールヒポダイルを倒したってのも納得だぜぇ」とトイヴォ。
「ほんとなんだなぁ。あんなに速く動けるなんてビックリなんだなぁ。ウェイディングラビット狩りに来て欲しかったんだなぁ」とヴェイッコ。
「あれ? もしかしてお二人は、プグナのときにグールヒポダイルのことや、僕らがそいつを退治したことを証言してくれた方ですか?」
ジーノたちとのプグナのとき、野次馬たちに全く信用されていないルキウスの言葉を、正しいと証言してくれた者がいた。あのときルキウスは、どれほどありがたいと思ったか。だから、二人の独特な喋り方をよく覚えていたのだ。
「そんなたいそうなもんじゃねぇだぜぇ。俺らは知ってることを話しただけだぜぇ」
「そうなんだなぁ。俺たちワタリだからジーノなんてよく知らないんだなぁ。まぁルキウスのことも知らなかったんだがなぁ」
「いえ、あのときお二人の証言がなかったら、誰も僕が言ったことを信じてくれなかったでしょう。助けていただき本当にありがとうございます」とルキウスはお礼を述べた。
「おいおい、おめぇ真面目すぎんだぜぇ。ダァーハッハッハ」
「面白いんだなぁ。アーハッハッハ」
トイヴォとヴェイッコは、気にすんな、と軽く手を振って笑い飛ばす。
ルキウスがジーノにプグナで勝って以来、セイバーズの面々に対する冒険者たちの態度は大きく変わった。
ジーノたちの奸計に嵌って他の冒険者から嫌われていたセイバーズだが、今では色々な冒険者たちから親しく声をかけられるようになっていた。
調子がいい、変わり身が早い、そう言ってしまえばそれまでだが、『勝った者が正義』というプグナ唯一のルールがちゃんと守られているのだ。ルキウスは、わだかまりなしに接してくれる冒険者たちの素直さがなんとも気持ちがいいといつも思っていた。
また、ルキウスとフェリシアがこの店で働くようになったことも良い方向に働いていた。
ルキウスとフェリシアは、仕事を始めるときにグレタから、ステラを守るために情報収集をしたいから客とは積極的に会話をしろ、と指示されていた。
なので、できる限り客と会話をするようにしていたら、陽気な者が多いこの店の客に気に入られたようで、すかした貴族のぼんぼん、というイメージから、話してみるといいやつじゃん、に変わっていったのだ。
「ところでよぉ、ルキウス。おめえたちセイバーズってのは、全員お前と同じぐらい強えのか?」とダリオが訊いてきた。
「えっ、あーっ、いやぁ。実はぁ、僕よりフェリシアとヒヨリ=ツキノのほうが強い……です」
「マジかぁ」と四人が驚く。
「はいぃ……。二人とも本当に強くて。フェリシアとヒヨリ=ツキノ対僕とマルクスで、たまに対戦をするんですけどぉ……まだ勝ったことがありません……」
ルキウス的には格好が悪いのであまり言いたくはないのだが、嘘もつけないので正直に答えた。
「凄えな。それなら尚のこと頼もしいじゃねえか、セイバーズは。秋になってデケえクエストが出てきたら声かけっからよ、一緒にやろうぜ」と言ってグラスを掲げるダリオ。
そんなダリオにルキウスは「はい。お願いします」と笑顔を返した。




