039 覚醒(その1)
「チクショー! ルキウス、あのガキぃ! ぶっ殺してやる!」
ヒリュウの鱗亭から走って十二シィ(十五分)ほど離れた下町の路地裏。
ルキウスに叩きのめされてプグナに負けたジーノは、治安官の乱入に乗じてここまで逃げてきた。
「くっそぉー! ぶっ殺してやる! ぶっ殺してやる! あのクソヤローをぶっ殺してやる!」
地面にころがっている桶やゴミなどを蹴飛ばし、壁や木箱を棒で殴り倒し、狂ったように叫びながら暴れるジーノ。
「ジ、ジーノ。もう、あいつらに関わるのやめようぜ」と、リザイアがルキウスに鞘の鐺で突かれた脇腹を、いまだに押さえながらボヤく。
「あ? テメェ、もっぺん言ってみろ」
ジーノがリザイアの顎を右手で挟み上げる。リザイアは涙目になって小さく震え、幼子がイヤイヤをするように顔を横に振る。
「ビビってんじゃねぇ! だからテメェは臆病モンの腰巾着って言われんだよ」ジーノがリザイアの額に自分の額を押しつけて怒鳴りつける。
「ジーノ。どうすんだ。プグナで負けちまったから、俺たちがばら撒いた話が嘘ってことになっちまうぜ。まぁもともと嘘だけどさ。面倒にならねえか?」とチロ。
「うんな小せえこと気にすんじゃねえよ。あんなもん、なあなあにしときゃあいいんだよ。貴族のぼんぼんを嫌ってる奴らはまだまだうっ……ああっ……」
突然ジーノが苦しみだした。
「お、おい。ジーノ、どうした? さっきやられたところが痛むのか?」
顔を押さえて苦しみだしたジーノを、チロたちアグリコラのメンバーが囲む。
「うっ、め……目が……頭も……」
地面に膝をついて突っ伏しながら苦しむジーノ。ルキウスに剣の柄頭で後頭部を殴られた後遺症かも、とオロオロとするアグリコラの面々。
――苦しんでいたのは、そう長い時間ではなかった。
ジーノは、顔を押さえながらもゆっくりと体を起こし、地べたに座ったまま壁に寄りかかった。
相当に苦しかったのであろう、少し落ち着いたように見える今でも、息は荒く、顔は真っ青で、大粒の汗が顎から滴り落ちている。
「あ、兄貴。だ、だいじょぶか? 水飲むか?」フランコがジーノを気遣い、腰に着けていた水筒を差し出す。
「……おお、すまねぇ」ジーノは水筒を受け取ってひと口飲む。
「ジーノぉ。もしかして頭を殴られたからか? やばくないか? 祭祀殿の救護所で診てもらったほうがいいんじゃねぇか?」リザイアがおどおどしながら告げる。
「いや、いい。フランコ、すまねえが俺をおぶって家まで運んでくれ」




