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035 ひどいですぅ



 「おおおくさまぁー、ひどいですぅー」



 ヒリュウの鱗亭から戻ったアウラとオスカーを待ち受けていたのは、駄々っ子のように大泣きするフェリシアであった。



 「どうしてルキウスさまをあげちゃったんですかー。ひどいー。ああーん」



 もう一カイ(一時間)以上もこうやって同じ言葉を繰り返しながら泣いている。



 家事に、武術に、学問、芸術、あらゆることに秀でた才色兼備のフェリシアだが、ルキウスのことが絡むと、とたんにポンコツになる。



 それがわかっているのでアウラは、夫のウィルフォルティスにフェリシアを訓練に連れ出してもらい、その隙にヒリュウの鱗亭を訪ねたのだ。



 「あー、もううるさい! ええ加減に泣きやめ! ルキにはわしらの代わりに大事な仕事を任せたんじゃ。説明したじゃろ。聞き分けようせんか」



 「わかってますぅー。でも、でも、ルキウスさまがいないー。あーんあーん」



 「はぁーっ」アウラは大きなため息をつくと、紙に何かを書き記して封筒に入れ、フェリシアに渡した。



 「明日の朝、ルキの荷物を届けてくれるか。そんで、ステラちゃんにこの手紙を渡してくれ」



 「なんですかーこれー。ああーん」



 「ステラちゃんへの紹介状じゃ。人手が足りんて言うとったんでな」



 「えーまたあのお店にですかー、誰をですかぁ、わたしじゃないんですかぁ、悔しいですぅ、ルキウスさまをかえしてぇー、あーん、あー、あれ? これ封してないですぅ、あーん」



 「ああ、忘れとった。封をしといてくれ。わしゃもう寝る。ルキの荷物頼んだぞ。お前もはよ寝ぇよ」



 「わがりまじだぁ、あーん。おやずみなざぃー、ああーん」



 ルキウスに渡す荷物をまとめたフェリシアは、自室に戻ってルキウスへの手紙を書いていた。



 「ぐす、ひっく、ルキウスさまぁ。うっ、うっ、お手紙毎日書きますね、ぐす、ぐす。フェリスを忘れないで下さい、ひっく、ひっく、どんなに離れていてもフェリスは、ぐす、ルキウスさまの、うっ、ひっく、フェリスです、うー、ルキウスさまあー」



 ぐすぐすと泣きながらも、本でも書いてるの? というぐらいの長文の手紙を四カイ(四時間)もかけてようやく書き終えた。



 「うっぐ、封筒に入らない……」



 そらそうでしょう。そんな分厚いのは無理です。



 キョロキョロと机の周囲を見渡すが、代わりになるような物が見当たらない。



 「ひっく、これでよし」



 結局フェリシアは、手紙? という名のちょっとした読み物の束をルキウスに渡す荷物の中に、ドサッ、と突っ込んだ。……結構雑な人っぽい。



 「うー、そういえばアウラ様から預かった封筒に封をしないと」とエプロンの胸ポケットに入れていた封筒を取り出す。



 (……気になる……)無言でじっと封筒を見つめるフェリシア。



 (アウラ様が誰を紹介するのか……見たい……いやいやいや、手紙を勝手に見るなんて使用人にあるまじき、いや、人としてなしでしょ! …………だけど……見たい……女の人、だったらどうしよう……泣く、泣くよ、わたし……)



 じーっと、じぃーっと、封筒をガン見しながら石膏像のように固まるフェリシア――そのまま半カイ(三十分)が過ぎた。



 「……よ、よし……」と小さく呟くと、すうーっ、はあーっ、と大きく深呼吸をする。



 「ふ、封をしてない……アウラ様が悪いんです!」と声に出して自分の心に言い訳をし、封筒の中の手紙に手をかける、目を瞑る――



 「えいや!」と抜き出した。



 そーっ、と目を開けて手紙を、読む。



 (………………)



 「やったぁー!」というフェリシアの叫び声が、屋敷中に響き渡った。




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