034 乗り越えよ、ルキウス!
反対するグレタの意見は無視され、ヒリュウの鱗亭に住み込むことになったルキウスだが、乗り越えねばならない大きな関門が残っていた。
「よし。それじゃあ、最後の仕上げに入ろうかね」
アウラは立ち上がり、扉の前の少し広いスペースに移動した。そして、ルキウスもオスカーに手を引かれて同じ場所に移動をする。
「ステラちゃんの顔を見る度に気絶しとったんじゃぁ、護るのも店の手伝いもあったもんじゃない。いまから無理やりにでも矯正する。ルキ、そこに跪け。ステラちゃんはこっちに来てルキの前に立ってくれるか」
ルキウスとしては反論したくはあるのだが、やはりちょっと自信がない。
「ルキ、手を出してお詫びの言葉を述べよ」
ルキウスは言われるがままに、誓いの言葉を述べるような姿勢で昨日の非礼を詫びる。
「ステラちゃん。ルキウスを赦してくれるなら、手を取ってやってくれ」
アウラの言葉にどぎまぎしながらもステラはルキウスの手を取る。
(あれ、この感じ。以前どこかで……覚えが……)
ルキウスとステラの心に懐かしい何かが、ふっ、と浮かび、瞬く間に消えていった……
オスカーがルキウスの目隠しを外し、ルキウスがゆっくりと目を開ける。目に映るのはステラの膝の辺りだ。
「ルキよ。ゆっくりと顔を上げぇ」
アウラの言葉に従い、ルキウスはゆっくりと顔を上げる。
腿、腰、腹、胸、首まできて一旦止める。そして、ゆっくりと息を吸い、吐く。
それからまた、首、顎、鼻、そして目を見たとき、急にルキウスの意識が遠のき始めた。
(あれ?)
ガン!ゴン!
(はっ!)ルキウスが意識を取り戻す。
「ル、ルキウスさん。大丈夫ですか?」
ステラが心配してルキウスの顔を覗き込む。
(あー……)とまたルキウスの意識が消えかける。
ゴン!ガン!ガン!
(はっ!)またも覚醒するルキウス。
「オスカー様、お止め下さい。ルキウスさんの頭が大変なことになります」
先程からルキウスが気を失いかけると、オスカーが拳で頭を殴って覚醒させるので、見かねたステラが止めに入った。
「ええんじゃよ。ステラちゃん。ルキはな、なかなか頑丈にできとるでな。こんぐらいのことではびくともせん」とアウラ。
殴られているルキウスは、ちょっとボーっとしているが、確かに大丈夫そうではある。
「ルキ、このままいくから。お前は臍の下に、グッ、と力を入れて、気絶せんように気ぃ入れろよ」
うんうん、と首を縦に振って応えるルキウス。
こんな荒療治を十回ほど繰り返してようやくわかったのは、瞳を直接見なければ意識を保てる、であった。
「一体どういうことなんでしょう?」
心なしか変形したように見えるルキウスの頭に手を置いて、治療をしながらステラが訊く。
「うーん。ようわからんが、もしかしたら竜眼の力が関係あるのかもしれんのぉ」
「ステラさん。ご心配をおかけして申し訳ありません。な、なんかコツがわかってきたので、あと何回かやれば克服できそうな気がします」というルキウスの言葉によって再開。
さらに繰り返すこと十数回。ようやく、フラッ、とはするもののちょっとぐらいなら目を見ても気を失わないようになった……まぁ一応……
孫は置いてくから好きに使っとくれ、とアウラのお墨付きを貰ったので、ルキウスはこの日の夜にさっそく給仕係としてお店デビューをしました。
しかし、結果は……
料理を落とす、皿は割る、注文を間違え、精算も間違う、客に料理の値段をちょろまかされて大量のただ飯を提供、などなど惨憺たるデビューとなり、呆れ果てたグレタから……
「あなたはルキウスさんから、ルキウスくんに格下げです!」と、店内の序列最下位を言い渡されてしまった。




