030 ありがたくもある
ステラたちが王都に来たことをエンリコから聞いたというアウラに、ティアマト家の話は誰から聞いたのかと、グレタが訊く。
「そうじゃの。そこを話さんといかんの」
そう言うとアウラは居住まいを正し、真っ直ぐにステラを見つめた。
「ティアマト家の話は大巫女様からお聞きした」
アウラの言葉にオスカー以外の全員が驚く。
「去年のカナの月のことじゃ。突然祭祀殿から使いが来てのぉ、わしとうちのじいさん、そしてオスカーの三人が呼び出された。ティアマト家のあらましは大巫女様から直々にいただいたのじゃが、あまりのことにとても信じられんでなぁ。家に帰ってもなお呆然としとったのをよう覚えとる」
当時を思い出すようにゆっくりと噛みしめながらアウラは語る。
「じゃから、行方不明になっとる娘さんたちのことがずっと気になっとった。そしたらこの春、突然エンリコが血相を変えてうちに飛び込んで来てな『コーリネル様の生まれ変わりが店に来た』なんて言い出しよるんじゃ。そらもぉ、びっくりしてのぉ。エンリコから詳しく話を訊き、大巫女様からお聞きした話も合わせて考えた。そうして至った結論が、恐らくあんたがたは行方不明になっとるティアマト家の娘さんたちじゃろう、だ」
アウラは一度言葉を切ってステラたちを伺うと、すぐに続きを始めた。
「最初はな、わしらを頼って来てくれたんか、とも思ったんじゃが。エンリコの話からはそうも思えん。なら、わしらから行くか、とも思ったんじゃがのぉ。さっきも言うた通りわしらが動くと目立つ。ハギオスドラコーンからビタロスじゃ。よほどの事情があって来られたはず。下手に騒ぎになっては逆に迷惑じゃからのぉ」
すまないねぇ、という顔でステラを見るアウラ。
「まぁ、そんな感じで思案しとるところに、うちの孫がアホなことをしよった」
バシっ!
「いったぁ! なんで!」
扇子の親骨でルキウスの頭を叩くアウラに不満気な顔を向けるルキウス。
「なんとなくじゃ」と、しれっと言いながらアウラは、ステラに顔を向け直し、
「まぁでも、それがきっかけでこうやって顔を合わせることができたというのはありがたくもある」と、微笑んだ。
その横で、なら叩かなくてもいいじゃん、と小声でブチブチ言うルキウス。
そんなやり取りを見ていたステラたちの顔が少しほころぶ。
少し間をおいてから、アウラはルキウスを伴ってゆっくりと立ち上がった。
そして、「この度のご不幸に際し、心からお悔やみを申し上げます」と深く頭を下げた。




