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001 はじまり……

★ 23/1/31『後書き』を追加いたしました。





◆千年暦九九六年

 カナの月八日

 ヨイの十二(午後七時十五分)


 ハギオスドラコーン王国 王都アタナポトニア

 祭祀殿主席祭官長ソフォクレス・クラトス・ティアマトの屋敷




 ティアマト家の居間に当主一家とその親しい者たちが集っている。



 いつもなら、お酒やお茶を飲みながら、笑顔でその日の出来事を語らう和やかな時間である。



 だが、今日の雰囲気はまったく違う。



 十人の男女は額を寄せ合い、声をひそめ、何かを話し合っていた。



 話題の中心にいるのは一人の少女。



 豊かなプラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。美しい鼻梁に整った唇。華奢な体を覆うライトブルーのドレスからは瑞々しい乳白色の肌が覗いている。



 ハギオスドラコーンの聖女、ティアマト家の娘アステリア。



 彼女は今日――竜眼主(りゅうがんぬし)になった。



 「アステリアに竜眼が覚醒したというのは本当なのか?」



 父であるソフォクレスの顔は苦渋に満ちていた。



 「はい。あの、私は御者台におりましたので……ですが、お嬢さまに付き添っていたアリアドネとアンナが……その……見た、そうです」とアステリアの左隣にいるマルガリテが答えた。



 皆の顔が二人の少女に向けられる。



 その視線におされて小さくなりながら、双子の姉のアリアドネがおずおずと話しを始めた。



 「あっ、あの、お昼をいただきに馬車でお屋敷に向かっている途中でした。急に……お姉さまが苦しみだされて」



 そう言ったところで、はっ、としてアステリアのほうを向く。



 アステリアの震えがさっきよりも大きくなった。それが、アステリアの腕に触れているアリアドネの左手にはっきりと伝わってきたのだ。



 アリアドネがアステリアの顔を覗き込む。いつも優しい笑みを向けてくれる顔は青ざめ、美しく長い睫毛が涙をこらえて震えていた。



 自分の言葉であのときの恐怖を思い出させてしまった。そう思ったアリアドネは、どうしたらいいのかわからなくなり、妹のアンナの顔を見た。



 すると、姉の気持ちに気づいたアンナが、わたしに任せて、と視線で答えた。そして、小さく息を吸って気持ちを整えると、アリアドネの右手をぎゅっと握り、大人たちに顔を向けた。



 「えっと、あの、お姉さまが苦しみだされて。わたしたちどうしたらいいかわからなくて……そ、それで、お姉さまがすごく苦しそうで……でも、すぐ……すぐだったと思うんだけど、お姉さまが『大丈夫よ』って顔をあげられて……」



 アンナは、アステリアの顔をそっと伺うと、(ごめんなさい)と心で詫びて覚悟を決めた。



 「……お姉さまの目が、目の真ん中が……金色……でした」



 「ううっ……」



 これまで必死にこらえていたアステリアが嗚咽を漏らす。肩は大きく震え、固く握りしめられた両の手が白くなっている。



 マルガリテがアステリアの肩を抱き「大丈夫です。私が必ず守ります」と耳元で優しく囁く。



 アリアドネとアンナがアステリアにすがりより「アスティ姉さま、ごめんなさい」と謝りながら泣き出す。

 


 「はあーっ」



 体の中から全ての苦悩を追い出すように深く大きなため息をつくソフォクレス。母のアグネテと、マルガリテの母ドーラは泣いている。



 「霊代の巫女様から継嗣戦の開始が告げられてから二か月。まさか、アステリアに竜眼が覚醒しようとは……」ソフォクレスの眉間には彫りつけたような深い皺が刻まれていた。



 「継嗣戦は殺し合いだ。これまで何千、いや何万人という人々を助けてこられたアステリア様に殺し合いなどさせられぬ」アステリアに泣きすがる娘たちを見ながら吐き捨てるように言うセルジオス。



 「戦いを避けましょう」



 マルガリテの兄であるオレステスがソフォクレスの顔を見ながら静かに告げた。



 「どういうことだ?」理解しかねる、とソフォクレスがオレステスを見返す。



 「そのままの意味です。他の竜眼主と戦うことを避け続けるのです」



 「そんなことができるのか?」自信あり気に言い切るオレステスにセルジオスも疑問をぶつける。



 ニヤリと笑うオレステス。



 「ああ、可能だ。竜眼主は一定の範囲内にいる他の竜眼主を感知できる。記録によるとその範囲は概ね街一つ分らしい。なので、アステリア様の感知範囲に他の竜眼主が入ってきたらすぐに後退すればいい。それを最終戦の参加者が決まるまで続ける」



 「継嗣戦を放棄するのか?」驚いたようにソフォクレスが問い返す。



 「いいえ。後退行動です」



 さらりと答えるオレステスに、セルジオスが胡乱な目を向ける。



 「戦わないなら同じだろうが」



 「いや、全く違う。後退は戦術だ。戦い方の一つだ。考えてもみろ。アステリア様のような全く戦闘と無縁の者が、いきなり剣を取って戦うことなどできるか?」



 オレステスは真剣な目で皆を見回す。



 「だから機を見るのです。いいですか、この継嗣戦のやり方は何かがおかしい。竜眼主同士を戦わせて強い者を選ぶなら、半世界中の竜眼主を一か所に集めて勝ち抜き戦をやらせればいい。なぜ、半世界全土を使って遭遇戦をさせるのです。あまりにも非効率でしょ」



 「確かに」オレステスの言葉にセルジオスも同意する。



 「わたしは、継嗣戦は知恵の勝負だと思っています。力勝負の戦いならば、アステリア様のような非戦闘系のリュウオンシを持つ者が竜眼主に選ばれているのがおかしい。それに最終戦に参加した者たちは、過去のいずれにおいても半分ほどは非戦闘系のリュウオンシを持つ者です。この戦いは力のみにあらず。生き残る知恵が試されているのです」



 オレステスの言うことも一理ある、とは思う。だが、ソフォクレスはどうしても逡巡(しゅんじゅん)を隠せない。



 「しかし、次の千年紀を創る継嗣様を決める大切な儀式だぞ。大巫女様にお仕えする我が一族がヒリュウ霊様のご霊言に反し、継嗣戦から逃げるようなことをしてもよいのか……」



 「ですからこれは逃げではありません。霊代の巫女様はご霊言の大宣布のなかで『戦え』とはおっしゃいましたが、『殺し合え』とはおっしゃっていません。正面からぶつかることだけが戦いではありませんよ」



 違いますか? とオレステスがソフォクレスに迫る。



 「最終戦の参加者が揃うまでの三年から四年を上手くやり過ごせばいいのです。最終戦の参加者が決まれば、それ以外の竜眼主は力を失い元の生活に戻れます。どうかこのオレステスにお任せ下さい」



 ソフォクレス以外の者たちは既にオレステスの言葉に動かされている。



 額に汗を浮かべ苦悩するソフォクレス。



 ……流れる時間を沈黙が埋めていく……



 「うっ……ああっ……」突然苦しみだすアステリア。



 「アステリア様!」マルガリテが驚いてアステリアを抱き寄せる。



 マルガリテを振り払うように立ち上がるアステリア――



 「来ます! すぐそこにいます!」



 そう叫ぶアステリアの瞳が――金色に(きら)めいていた。



◆ ◆ ◆ 【 読者の皆様へ 】◆ ◆ ◆


最後までお読み頂き誠にありがとうございます。


いかがでしたか? 楽しんで頂けましたでしょうか?


まだまだ新米な執筆者ですので、精進せねばならぬところが多々あるかとは思います。ですが、


もし、少しでも気に入って頂けましたら、


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頂ければ大変嬉しく思います。


そういったことも全て執筆の励みにし、今後も頑張りますので、何卒よろしくお願いいたします!


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