017 ルキウスとステラ(その2)
「あっ、ルキウス兄ちゃんが目を覚ました」ルキウスの様子を見に来たのであろうフィリッポがドアのところで大きな声を上げた。
「ルキウスさまー」
「ほんとかー」
「おいこら、おいてくなぁー」
その声を、待ってましたぁ、とばかりにドヤドヤドヤっと駆けつけた数人が、部屋の中に一気に流れ込んできた。
「ルキウスさまあー。ああーん。よかったですぅ、よかったですぅ。ご無事で何よりですぅ。このまま目をお覚ましにならなかったらわたし、一生ルキウス様のお側でお世話をさせていただこうと心に決めておりましたぁー。ああーん。でも、でも、それはそれでちょっといいかなっ、なんて思ってましたけどぉ、ああーん、やっぱりお元気なルキウス様が一番ですぅ。ああーーん」
フェリシアが涙と鼻水で綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしながらルキウスの足にしがみついて泣きじゃくる。
「おい、ルキ! お前何やってんだよ。あのあと大変だったんだぞ。治安官には怒られるは、おかげでカリオんとこに行くのが遅れてまた怒られるわ。どんだけ俺が頭下げたと思ってんだ!」
マルクスはあまり心配していなかったようだ。
「ルキウスぅ、お腹空いてるぅ。ここのお肉美味しいよぉ」と金髪のヒヨリ=ツキノがフォークに刺した分厚い肉をルキウスの口元にぐいぐいと押しつけてくる。
だが、すぐに銀髪のヒヨリ=ツキノに代わり「おいこらルキウスぅ。ここの酒、俺がみんな飲むからな。お前金払っとけ」とたかってきた。
「あーえっと、みんなごめん。ところで、どうなってるの?」
「お前、覚えてねえのか?」
マジかよっ、て呆れ顔のマルクス。
「えーと、店主さんが顔を上げて向き合ったとこまでは……お、覚えてる……」
「ルキウス兄ちゃん、それは酷いよ」
フィリッポが、がっかり、という顔をしながら説明を始める。
「ルキウス兄ちゃんは、頭を下げていたステラさんと顔を合わせてすぐに気絶したんだよ。最初はさ、脚にけがをしてたから、それが酷くて倒れたと思ったんだよ。ステラさんって治癒の力があるから、すぐにルキウス兄ちゃんの脚を治してくれたんだ。で、他にもけがないかを調べていたら……」
フィリッポが大きなため息をつく。
(あれ? 僕は何かやらかしたのか?)
「ルキウス兄ちゃん、突然目を覚ましてステラさんと顔を合わせたんだ。……で、また気絶した」
「え? なんで?」
まるで訳が分からない、という感じのルキウス。
「こっちが訊きたいわ!」
マルクスがえらい勢いでつっこんできた。
「ルキウス兄ちゃん、まだ続きがある」
(……マジか?)
「ステラさん、自分が悪いんじゃないかって責任感じてさ、ずっとルキウス兄ちゃんの側についててくれてたんだよ。そしたらまたルキウス兄ちゃん、目を覚ましてさ……」
「……で?」
「……また気絶したんだよ」
(マジかぁー!)
「お前さ、ステラちゃんのこの顔見てみろよ。こんなかわいい顔を見て気絶するってあり得ねえだろ」
マルクスが、呆れるやら腹が立つやら、といった感じで告げると、お面を被った娘が、嬉しそうな恥しそうな、という感じでもじもじとする。
「そうです。これに関してはわたしもルキウス様に一言申し上げたいです。かわいいかどうかは別として、人様の顔を見て気絶するなど、人として間違ってます! わたしはルキウス様をそんなふうに育てた覚えはありません!」
フェリシアが涙と鼻水を拭いながら、ルキウスを睨む。だが、フェリシアがルキウスを育てたのか?
「おめぇよぉ、わあってんのか? おめぇがステラの顔見てぶっ倒れっから、見ろ、ステラの顔がお面みたいになったじゃねえか」
銀髪のヒヨリ=ツキノがお面の娘の顔を指してそう言うが、それはお面ではないのだろうか?
「ルキウス。ステラは優しいから顔がお面になっても何も言わないけど、わたしならルキウスの顔もお面にするわ」
金髪のヒヨリ=ツキノは魔法を発動させようとしているのか、ブツブツと呪文らしきものを唱え始めた。
「あのさ、なんでお面を被ってるかわかる? ルキウス兄ちゃんを気絶させないためには顔を隠すしかないって、ステラさんが鍋に穴を開けて被ろうとしたんだよ。いくらなんでもそれは、ってみんなで止めたんだけど、どうしても被るってきかないからさ、おいらが代わりに貸したんだよ」
さすがフィリッポ、気遣い上手だ。だが、そのチョイスはいかがなものか。
(ああーっ、やってしまったぁ……)
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。あの、なんて……なんてお詫びしたらいいのか……ほんとごめんなさい」
ルキウスはベッドから飛び起きると、たぶんステラと思われるお面の娘に向かって、思いっきり頭を下げた。




