014 駆け出し冒険者、喧嘩をする(その9)
仲間二人を瞬く間に倒され、追い詰められたジーノは、ルキウスにわからないよう、仲間内だけに通じるサインをリザイアに送った。
リザイアからの、承知した、という返事を確認したジーノは、野次馬連中に聞こえないように潜めた声でルキウスに問いかける。
「ルキウスよぉ。お前これに勝ったとして無事でここを出られると思ってるのか?」
「どういう意味です?」
「へへっ。ここの連中はお前が負けることを期待している。賭けもそれで成り立っている。なのに、お前が勝ってみろ。連中が黙ってると思うか?」
「プグナって『正式な喧嘩』ですよね? なら問題ないでしょ」
「はぁー。おまえほんとぼんぼんだな。こいつらがそんな行儀のいい連中だと思ってるのか? 冒険者ってのは荒くれ者の集まりだ。思うようにいかなければ、思うようにするんだよ」
「思うようにする? 意味がわからない」
「わからない? くっくっくっ。教えてやるよ。お前が負けたようにするんだよ。連中は。例えば、あそこにいるガキを人質にしてよ」
そう言いながらジーノはルキウスの左側をチラリと見る。つられてルキウスもそちらに視線を移す。
(バカが!)その機をついてジーノたちが同時に斬りつけた。
だが、ルキウスは一瞬で二人の間をすり抜けて剣を抜き、振り向きざまに剣の柄頭でジーノの後頭部を打ち、鞘の鐺でリザイアの脇腹を突いた。
勝負はあっけなくついた。
ジーノは白目をむいて床に倒れているし、リザイアは脇腹を押さえてのたうち回っている。誰が見てもルキウスの勝ちである。
「…………」
店内を覆う静寂。
「……勝ちやがった……」
野次馬の一人がぽつりと呟く。
徐々に広がるざわめき。
(……まずいか?)
ルキウスは慌ててフィリッポを探す。いざというときはフィリッポを抱えて逃げるためだ。あとの仲間は自分でなんとかできるはず。
(フィルどこだ?)
フィリッポの姿が見えない。野次馬たちのざわめきが不穏な空気をまとい始めたそのとき――
「お前らぁ! 何をしている!」
勢いよくドアが開けられ、店内に怒鳴り声が響いた。
「貴様らぁ! 無許可の賭け試合は禁じられとるだろうが! 全員連行する。おとなしく、あっ、あっ、おい、おっ、こらぁー」
怒鳴り声を上げて入ってきたのは、どうやら治安官のようである。
野次馬たちは、治安官だ、やべぇ逃げろ、などと言いながら、治安官を押し倒し、ドアや窓、裏口などから逃げ出した。
野次馬たちに押し倒され、踏みつけられた治安官は、真っ赤な顔で勢いよく起き上がると「貴様ら許さんぞぉ」と野次馬たちを追って外に駆け出した。




