013 駆け出し冒険者、喧嘩をする(その8)
「きゃあー! ルキウス様のリュウオンシですぅ。速いぃ、ステキー!」
フェリシアが激しく手を叩きながら、全くもって場にそぐわない素っ頓狂な声を上げる。
さっき、ルキウスの左腿に走った激痛は、チロが指で弾いた小指の爪半分程度の鉄球が当たったからである。
チロのリュウオンシは〈弾く〉。そのものズバリで、指で物を弾くととてつもない勢いで標的を貫く。二トゥカ(二メートル四十センチ)程度の距離ならば、厚さ一シーン(三センチ)ぐらいの木の板を貫ける。
そんな鉄球を不意打ちされてはたまったものではない。思わず体が傾いてしまったが、瞬間的にリュウオンシ〈速さ〉を発動させて体勢を立て直した。そして、周囲を見回すと、フランコがウォーハンマーを振り下ろそうとしていたのだ。
ルキウスは瞬時にフランコの正面に移動し、みぞおちに拳を打ち込んで昏倒させた。そしてすぐにチロの前に移動して、鉄球を持っている両手を封じたのだ。
(こ、こんなにも、速いのか?)
チロはジーノが手を伸ばせば触れられるぐらいの距離にいる。それなのに、チロが声を上げるまで全く気づかなかった。
「はっ、はなせ! はなせ! ひきょうだぞ、てめぇ!」
ルキウスから逃れようとチロが激しく暴れる。
「何が卑怯なのかわかりませんが、あなたに卑怯と言われるのは心外なので放します」
そう言ってルキウスは、チロの手を放した。
だが、暴れていたチロは突然解放されてバランスを崩し、ルキウスのほうに倒れこんできた。
「あなた邪魔です」
そう言うとルキウスは、倒れこんできたチロの髪の毛を掴んで顔を上に向け、顔の真ん中に頭突きをくらわした。
「ぐわっぷっ」わけの分からぬ声を上げ、チロはルキウスの足元に崩れ落ちた。
「残るはあなたがた二人ですね」
不敵な笑みを浮かべるルキウス。
ジーノは焦っていた。四対一なら絶対に勝てると思っていた。
ルキウスのリュウオンシは本人から聞いて知っていた。だが、見たことはなかった。
だからジーノは、他の奴らより足が速い程度、としか想像していなかった。
だが、ルキウスの速さは想像など及びもしない、常人の域をはるかに超えたものであった。
(まずい……)
ジーノの額を冷たい汗が伝い目の中に入る。だが拭う余裕などない。戦斧クレセントアックスを握る手にも汗が溢れ、さっきから何度も握りなおしているがどうにも気持ちが悪い。
左隣にいるリザイアを横目で見ると、剣鉈を大きくしたようなファルシオンを持ってはいるが、完全にルキウスに飲まれて腰が引けている。
(ま、負けてたまるか。あのときの恨みを晴らしてやる――)




