011 駆け出し冒険者、喧嘩をする(その6)
「おーい、ジーノ。凄えじゃねえか。大金貨十枚だぜ。逃しちまえよ」
野次馬たちは、逃がせ、逃がせ、と口々にはやし立てる。
「そんな話が信じられるか! だいたい、そのグールなんとかってのを、お前らは本当に倒したのか? あっ? ハッタリで誤魔化してんじゃねえぞ」
大金貨十枚には心が動かされる。だが、猜疑心の強いジーノはそう簡単には信じない。
「いやなぁ、その話なぁ、たぶんほんとだなぁ」と入り口近くの隅にいる冒険者が声を上げた。
「おらぁさっきギルドに行ったんだけどなぁ、カリオが慌てて出てったんでなぁ、受付のカーラに聞いたらなぁ、グールヒポダイルつう魔獣をルキウスたちが倒したからなぁ、王宮に報告に行ったってなぁ、言ってたわなぁ」
おおおーっ、と一段と大きなどよめきが店内を揺らす。
「ジーノ、逃がせ、マジで逃がせ」
「大金貨十枚。一生遊んで暮らせるぜ」
「バカ野郎! てめぇだけのもんじゃねえよ」
野次馬たちは、大金貨十枚が手に入ったような騒ぎである。
ジーノはルキウスから視線を外そうとしない。ルキウスも静かにジーノを見続けている。周りの連中は外に出して逃がせとがなり立てる。
しばしの沈黙のあと「ふぅっー」とゆっくり息を吐き出したジーノがルキウスに問う。
「で、ルキウス。プグナは受けるんだろな?」
「ん? ええ、受けますよ」
「フッ。なら、好きにしろ」
よく言ったぁジーノ、ジーノさいこー、ルキウス逃げてー、などと野次馬たちが今日一番の盛り上がりを見せる。
「ありがとうございます」
そう礼を言うとルキウスは入り口に向かうべく背中を向けたが、すぐに振り返りジーノに目を合わせる。
「そう言えばプグナって、勝てば何でも思いのままなんですよね?」
「ああ、そうだぜ」と野次馬が答える。
「なら、僕が勝ったら、さっきから皆さんが話している横取りの件。ジーノさん、あれはあなたが作った嘘だと認めて下さい」
「ああ? 嘘?」ルキウスの言葉に野次馬たちが反応する。
「そうです。皆さんが聞いた噂話は、ジーノさんたちが作った嘘です」
「ホントか?」
「なわけねえだろ」
野次馬たちがざわつく。
「ああ、いいぜ。あれは作り話なんかじゃねえけどな。プグナに勝てばなんでもありだ。認めてやる。じゃ、お前が負けたらどうするよ?」
「どうして欲しいですか?」
ジーノはニタリと下品な笑いを浮かべる。
「グールなんとかの大金貨十枚を寄こせ」
「わかりました」
ジーノの要求をあっさりと受けたルキウスに「受けやがったぜ」と野次馬たちが感嘆とも取れるざわめきを向ける。
「成立ですね」
「ああ、成立だ」
互いの要求を確認し終えると、ルキウスはまた背中を向け、入り口へと歩き出した。




