010 駆け出し冒険者、喧嘩をする(その5)
「ルキウスぅ。わかってるだろうな。もう逃げられねえぞ」ニタリとした嫌らしい笑みを浮かべながらルキウスに告げるジーノ。
「ええ、別に逃げる気はありませんけど、ここって狭いですよね? 外でやりませんか?」
「はっ? てめぇ、なめてんのか! 何ふざけたこと言ってやがる!」
「別にふざけてもいなければ、なめてもいませんよ。ただ、ここって五人で戦うには狭すぎませんか? ここでやればお店に迷惑がかかるでしょ? だから外でやりましょうよ」
「ざっけるな! てめぇそんなこと言って逃げるつもりじゃねえのか!」
ジーノが顔を真っ赤にしてルキウスに噛みつく。
「ルキウス、てめぇ卑怯だぞ! リングはできてんだ、勝負しろや!」
「この腰抜けが! ジーノ、ぶっ殺せ!」
野次馬たちもルキウスを責め、ジーノを煽る。
「逃げませんよ。あなたとは違います。卑怯な真似なんかしません」
「なっ、なんだとぉー」
目を血走らせてジーノがルキウスを睨む。
「そうよ、ルキウス様は逃げません。あなた方と一緒にしないで下さい!」フェリシアがリングの外から怒鳴り声を上げる。
「一緒にするなだと! このくそ女がなめてんのか!」ジーノの右側に立っているチロが言い返す。
「誰がくそ女ですってぇ。こっちに来なさい! あなたはわたしが相手をします」
「うるせえ! てめぇら黙ってろ!」
リングの中と外で言い合う二人にジーノが怒鳴る。
「ルキウスぅ、おめぇのリュウオンシは知ってるぜぇ。おめえを外に出したら誰も追いつけねえ。いくら挑発しても無駄だ」
落ち着きを取り戻したのか、ジーノはルキウスの提案をかわす。
「逃げません、て。ほんと疑り深い人だなあ。じゃ、こうしましょう。実は僕たち昨日グールヒポダイルっていう魔獣を倒しましてね、さっきギルドに引き渡してきたんです。グールヒポダイル、聞いたことありませんか?」
ルキウスは周囲の野次馬たちを見回す。
「知ってるんだぜぇ。伝説の魔獣っつうやつだぜぇ。確かビタロスじゃぁ、百年以上は討伐された記録がないはずだぜぇ」と入り口近くにいる野次馬の一人が答えた。
「ありがとうございます。で、グールヒポダイルって皮の値打ちが凄くて、超高額で引き取って貰えるらしいんです。概算ですが、僕の取り分だけでも大金貨二枚はかたいって言われました」
大金貨二枚、と聞いて野次馬たちだけでなく、ジーノたちまで前のめりになり、興味をもち始めた。
「それでですね。外に出て、もし僕が逃げたら、その大金貨二枚をここにいる皆さんに提供します」
おおっー、マジかよぉー、などと店内にどよめきが上がる。ジーノたちも互いの顔を見合わせている。
「はい、はい、はーい。わたしも自分の分を提供しまぁす」フェリシアが挙げた手をブンブンと振りながら申し出る。
(えっー、マジかよおー)フェリシアの横に立っているマルクスが、心の声が漏れそうな顔でルキウスとフェリシアを交互に見る。
するとフェリシアが「マルクス様は出さないんですか?」と、じとっとした目を向けた。
「おっ、俺も……出す」
フェリシアのじと目に負けたのか、マルクスもぷるぷると震えながら手を挙げる。
入り口の脇に座っていたヒヨリ=ツキノも「出す」と小さく手を挙げている。
「皆さぁん。セイバーズはグールヒポダイルの皮代全額を提供しまぁす。最低でも大金貨十枚ですよぉー」
フェリシアが店中に響く大きな声で宣言する。
「おっ、おい。フィリッポの了解はとってねえだろ」
マルクスがフェリシアの腕をひっぱりながら小さな声で言う。
「はあ? フィルが反対するわけないじゃないですか。しぶしぶのマルクス様とは違います」とフェリシアはそっぽを向いた。




