099 二人の決意
「さあ、二人ともいい子は寝る時間になりましたよぉ」
フェリシアの膝の上で、うつらうつらとし始めたミアを抱き上げ、寝床に連れていくフェリシア。
寝床に寝かされたミアが、ハッ、と目を開けてフェリシアの手を握ると、泣きそうな顔をして、「フェリシアお姉ちゃんとルキウスお兄ちゃんは、帰っちゃうの?」と訊いてきた。
フェリシアの後ろに立っていたルキウスが、ミアのほうに体をかがめ「今日はもう遅いからね。僕たちミアのお家にお泊りさせてもらってもいいかい?」と尋ねた。
するとミアは、バッ、体を起こして二人の顔を交互に見たあと、「うん!」と嬉しそうに大きく頷き「ずっといてもいいよ」と、ルキウスの目を真っ直ぐに見て続けた。
「ミア、ルキウス兄ちゃんたちにも、お家があるんだから、わがまま言ったらダメじゃないか」とルカがミアをたしなめる。だが、ミアはすがるような目で、ずっとルキウスを見つめ続けていた。
「うん。実は僕たち住むところを探してたんだよ。だから、ミアとルカがここに置いてくれると嬉しいな」ルキウスはそう言うとフェリシアのほうを見た。フェリシアも「わたしもミアちゃんとルカくんと一緒にいたいな。どう?」と二人に尋ねた。
ミアは、もう離さない、とばかりにフェリシアに強く抱きつき、「さんせい、さんせい、だいさんせいー。ねぇ、お兄ちゃんいいよね?」と、ルカにせがむ。ミアの勢いに押されたルカが、ルキウスとフェリシアを見て「いいの?」と遠慮がちに訊いてきた。
「ああ、お願いするよ」とルキウスが言うと、ルカは、パァッ、と今日一番の明るい笑顔をして「うん!」と大きく返事をした。
二人が眠ったあと、ルキウスは今朝ステラたちと話したことから、さっきルカから訊いたことまでの全てをフェリシアに話した。
「……酷い…」目を真っ赤にして涙をこらえながらフェリシアが呟いた。
「うん……僕はこの子たちを放ってはおけない。その……ばあちゃんたちの言いつけに背くことになるけど……僕はこの子たちを護る」
ルキウスの目は真剣だった。葛藤はあった。ステラたちのことも気になるし、今でも護りたいとは思っている。だが、この子たちをこのままにしておいたら、ステラたち以外の竜眼主にも早晩見つかるであろう。そうなれば、この子たちは抵抗する間もなく、その連中の餌食になることは間違いない。そうわかっていてこの子らを放っておくことなど、ルキウスには到底できることではなかった。裏切り者と誹られようと、二度と家に帰れなくなろうと、ルキウスは二人を護り通す、そう自分に誓ったのだ。
「あの、フェリス……」
「ルキウス様、わたしもお供させてください」そう言うとフェリシアは、ルキウスの手を取って「あなたがそうお決めになったのなら、きっとそれは正しいことなのです。あなたの信じる道を進んでください。わたしはいつでも、いつまでも、あなたに従います」と告げ、優しく微笑む。
「……ありがとう、フェリス」これからのことを思うと、フェリシアを巻き込むのが良いわけがない。だが、ルキウスは一緒にいて欲しいと思っていた。小さな頃からいつも側にいてくれたフェリシア。ルキウスにとっては他人ではない。本当の家族、本当の姉であった。
「ですが……本当にあのステラさんが、その……あの子たちから力を奪うと言ったのですか? ……ルキウス様を疑うわけではないのですが……やはり、信じ難いです……」暗い顔でそう告げるフェリシア。
「うん……」それは、ルキウスも同じ気持ちであった。二人がステラと知り合ってからまだ半月ほどしか経っていない。それでも、ステラがどれほど心優しく慈しみ溢れた女性であるか、それは嫌というほどよくわかっている。
竜眼主という過酷な運命を背負わされてなお笑顔を絶やすことなく、前向きに生きる強さ。富める者にも貧しき者にも、身分が高かろうが低かろうが、貴賤に関係なく誰とでも分け隔てなく接する態度。ケガをしている者を見れば自ら進んで治癒をし、決して見返りを求めることもない。
だが、ステラも竜眼主だ。しかも、一緒に暮らすグレタ、アリア、アンナ、ジョルジョは衛士。自らの命を狙われれば、皆を守るためにも戦わねばならぬことはわかる。しかも、竜眼主同士の戦いは殺し合いだ。相手を殺して力を奪うことが強制されている。でも、しかし……だからこそ、ステラに年端も行かぬ子供から力を奪うなどと、言って欲しくなかった……
暗い顔で俯いたままのルキウスに、フェリシアが声をかける。「ルキウス様、ステラさんとの戦いは避けましょう。逃げる……しかないのかもしれません。ここを離れてしまえば、ステラさんも追ってこないのではないですか?」
「……うん。僕もそう思っていた。あの人は、ジーノたちとは違う。上手く言えないけど、自分の力を進化させるために、ミアから力を奪おうとしているのではないと思う。だから、ステラさんたちから離れれば……王都から離れることになるけど……いいかい?」
フェリシアは、目を細めて柔らかく微笑むと「どこまでも、あなたについていきます」と、告げた。




