宣教師の受難
特定の宗教を貶めるものではありません。
あくまでもフィクションです。
スペルローナ国の宣教師フランシテル・パンナコッタはクリスト教イエスタデイ会の若き神父である。
彼は帆船に乗っては、本国から遠く離れた未開の地へと赴き、我らが救世主の教えを伝え、文明を開き、ゆくゆくの本国の支配の地均しをすることを使命としていた。
さて、そんな彼の次の赴任先は東の果て、何かやたら黄金がいっぱいあるとか無いとか聞く、黄色いおサルさんたちがウホウホ言ってるらしいヤマタイとかいう国らしい。
ヤマタイは今は下克上、誰がボスザルかを競って国中でク◯の投げあいをする野蛮極まる状態らしい。
「ユウウツでーす。そんな野蛮な国へといって、ワターシの剃りあげたシャイニングヘッドにう◯こを投げつけられたりするんでしょうか」
クリスト様はう◯こを投げつけられる時、貴方は幸いです。クリーニング代を請求出来るからです。と教えていますが、ヤマタイにはクリーニング店なんて無いか、そもそも洗濯という文化がないと決め付けて嘆くフランシテル。
それでも、そんな未開のおサルさんたちを自分が文明開化に導いてみせると、フランシテルは絶賛船酔いでリバースしながら決意した。
ヤマタイへとついたフランシテルは先ずは頭に棒を乗せて、スカートのようなものを履いている男を見て驚く、聞いていたよりは綺麗な身なりだけれど、頭に棒を乗せているのはなんでだと。
しかして、フランシテルを見ているヤマタイのサムライたちも『アタマに皿を乗せているとは河童か何かか』と思っていた。
フランシテルはそうして港から近くの集落へと向かっていく。
集落へと着くと、遠巻きに見ているのは職人やら農夫やらと、庶民たちだ。皆がやや薄汚れ、背丈も低ければ、着ているものもぼろい。
「おおー、ここはまさしく未開といった感じがしまーす。ではでは、皆サーン、ワターシはフランシテル・パンナコッタ、皆サーンにとってもありがたい教えを教えちゃいマースっ! 」
胡散臭いものを見る目を向けられても怯むことのないフランシテルはそのまま教えを語り始めた。
しばらくフランシテルの話を熱心に聞いていた村人たち。フランシテルは今までの経験から、これで村人たちはこの教えの虜になって、改宗のためのグッズを買い込むはずと思い、だーいせーいこうっ!ヾ(´∀`*)ノと内心ウキウキしてます。
すると、一人の農夫らしきボロを纏い、皺にまみれた老人が声をかけようと近付いて来ました。
フランシテルはきたきたきたー.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+. と、奴隷ゲットщ(゜д゜щ)とウッキウキに内心で手をワキワキさせます。
そんなフランシテルの内心をよそに老農夫はおずおずと訊いて来ます。
「そのありがたい教えは、わしらのご先祖様にはなんで、あんた様方の神さんは教えてくださらんかったんじゃ。信じとらんなら地獄行きちゅーなら、わしらのご先祖様は皆、見殺しちゅーことだべ」
フランシテルは想定外過ぎる質問に時を止めました。そのまま考えるのを止めそうになりますが、暫しして我に帰ります。
とはいえ、帰ったところで着地点は五里霧中。
なんせ、「信じる者は救われる」と言って「慈悲深い神は救ってくださる」と語ったばかりというのに、そりゃ確かに「端から知らんもんは信じる信じない以前」と言われてはその通り。慈悲深い神と言っておきながら、目の前の村人たちのご先祖とやらには教えが届いていなかったのは事実とくれば、「誰であれ救いの手を差し伸べてくださる」という文言に偽りありと言われても文句もいえない。
フランシテルは蛇に睨まれるカエルのような面持ちで冷や汗をかきつつ、ポツリポツリと窺うように応えます。
「……神はだからこそ、ワターシを遣いとしていまーす」
そういう建前だ。だが、それでは質問の答えになっていないのはフランシテルにもわかる。その上で何とか誤魔化そうと必死に脳をフル回転させていて、のぼせているが、先ほどの老人に慈悲はない。
「それでは答えになっておらんのぅ。そもそも神さんは一人だけゆうが、そんならわしらの信じとる仏様はどうなるんじゃ」
その言葉に周りの者もんだんだと剣呑な雰囲気を醸し出す。
「ワターシたちの神を除けば、全ては邪教のディアブロ、悪しき魔の遣いでーす」
「なんじゃとっ! わしらのご先祖様を悪鬼羅刹と言うんかっ! 」
フランシテルはここヤマタイでは死んだ者は仏になるという考えを知らないため、異教徒の神はすべて悪魔だと、今まで通りに答えたものの、村人たちは自分たちのご先祖様や、それこそ亡くなった家族友人たちが地獄に落ちたと言われた上に「鬼」になったと言われては我慢ならない。
今にもフランシテルを殺してしまいそうな空気が漂う中、職人風の若者が事も無げに飄々と宣った。
「あれだっ、神さんつーのは大日如来様だろ。んで、聖母様は弁天さんだ。クリスト様っつーのが神さんの息子だってーなら、さしずめ弥勒菩薩様ってところか」
この一言に、険悪極まる雰囲気が霧散した。
「おー、そうかそうか、それなら納得じゃ、ご先祖様も如来様を信じなすってたんだ、無事に天国にいって仏様になっとる」
老人が満足気にうんうんと頷くと、んだんだと周りの者も満足そうだ。
とはいえ、フランシテルにはたまったものではない。まさか自分たちの神を別の神と勝手に習合されてはたまらない。ましては自分たちは異教の神を「悪」としているのだから尚更だ。
「チガイマース。仏なんてそんな邪教とは違うのでーす」
咄嗟に否定してしまったが、まさしくディアブロが顕現したが如きオーラを放った集団が無言の圧力で迫ってくる。
「チ……チガイマセーン(;´д`) ソノトオーリでーす(T-T)」
「そったろ、そったろ」
いきなり肩を抱いてきた職人風の若者が明るい声と満面の笑顔で、なっ! と同意を求めて来るが、その目が全く笑ってないのでフランシテルはもう死にそうだ。
「……ハ……ハイ、ソウデースネ(((白目)))」
そうして、満足した村人たちは同時に告げるのだった。
『その教えなら、もう知っとったわ』
その後、本国への報告書にフランシテルは
もう無理、即帰して、こいつら全然、未開のサルじゃない。狡猾な悪魔たちだった(T-T)
こんな修羅の国、征服なんて諦めて(T-T)
と書いたそうな。
その報告書はずいぶんとしわくちゃで、文字は濡れていたのか霞んでいたとかいないとか。
この話はフィクションですが、作中の農夫たちの言葉は、実際の宣教師たちが日本で布教するさいに困ったと報告書や日誌に綴った内容を元にしています。
昔から、日本人は魔改造と屁理屈が得意なお国柄だということですね。
感想お待ちしていますm(_ _)m