08話 実践
僕はネストさんに近づいて状況を聞いた。
しかし、あまり状況がよくないらしい。
話によればジップラインの管理をする人が人魚を目撃していて、普通ではない人魚の情報を知っていると言う。
一応情報を持っている人を見つけることは出来た。
しかし条件があると言われたそうだ。
その条件とは情報を話す代わりに、ジップラインの下に縄張りを張る人魚の群れとその親玉を退治してほしいという話だ。
話によると、人魚はジップラインを使う人が海の上を通過する度に、人が落ちてくるのを狙って下で待ち構えているらしい。
しかも次に向かう予定の島「イッスル」にいくためのジップラインの下に住み着いているということも伝えられた。
ジップラインで落ちることは命綱を付けているため基本ないが、摩擦で命綱が切れることが稀にある。
さらにジップラインは高い所から低い所に滑っていくものだ。
ジップラインの終わりは水面に近づいていくから、人魚が想定外に高く跳ねてきたら爪がとどく可能性もある。
退治するしかない。
そう判断すると同時に僕はその話を聞いて、先ほどの立ち回りを試すチャンスだと思っていた。
恐らくこの先、母さんを探すために何度も海に潜ることになるだろう。
人魚に慣れておくことに越したことはないと考えた。
父さんに一言合意を取り、ネストさんに退治を引き受けることを話した。
ネストさんは驚く
「あなた方はとても肝がすわっていますね。わかりました。その旨を依頼主に伝えてきますので、お二人は準備を。旅を手助けするつもりがまた助けられてしまった。お恥ずかしい限りです」
そう言うとネストさんは依頼主の元に向かった。
僕たちも近くの船着き場で漁船を借り、退治するため乗り込む。
僕は新しく加工したプロテクターを身に着け、父さんはメルグに手綱をつける。
それぞれ準備をした。
準備が整い船を出す。
目的のポイントが見えてきた。
黒い影がうようよいるのが見える。
当然人魚だろう。
近づくと予想通り人魚たちは船に向かって一直線に向かってくる。
ぱっと見15匹程だった。
戦いが始まる。
人魚は早速船に登ろうと側面に爪を引っ掛けながらよじ登ってきた。
僕と父さんはそいつらの額に銛を突き刺していく。
暫くの間奮闘し10匹程を倒して残り5匹程になったときに船底からガリガリとした音と同時に水が浸入してきた。
穴を開けられた。
そろそろ頃合いとみて覚悟を決める。
ディルアは上空を飛行していたメルグを口笛で呼び寄せ飛び乗る。
ソルカは勢いよく船を飛び出し、メルグに引っぱられながら銛を片手に水面を滑る。
人魚は後ろを追ってくるので旋回しながら二匹を銛で突き刺した。
そんなワンパターンな戦い方をしていると一匹の人魚が前から現れた。
先回りをして前から飛びかかってきたのだ。
咄嗟に腕でガードすると人魚の腕が真っ二つに切れた。
プロテクターにつけた刃が人魚の腕を切断したのだ。
水面を高速移動しているから刃が当たった時に勢いよくスパッと切れる。
刃は相性がいいと思いながら腕を振り始めた。
残りも少ないしこっちの方が楽だ。
余裕感と刃の有用性に気を取られ始めた。
しかしここで準備不足なことが起こる。
足の裏を掴まれた。
足の裏には刃をつけていなかった。
僕は水中に引きずり込まれる。
ここからは水中戦になると脳をすぐに切り替え、体中の空気を少し吐き、水の空気を取り入れる。
こうすることで体が水面に浮かんでしまい、顔だけ水面に出て水中が見えなくなることを防ぐ。
水の中で向かってくる人魚に銛を突いて応戦する。
残りは親玉含めて3匹だ。
どうにか4本の刃と一本の銛で2匹を仕留めた。
後は親玉だけだが見当たらない。後ろを振り向いても見つからない。
次の瞬間真下にいることに気付く。
失念していた。陸では真下は地面だが、水中では上下も捜索範囲内だ。
反応が遅れ脇腹を爪で刺された。
僕に一撃をいれた後に親玉はすぐに様子見で距離をとった。
その間に大量の血が流れる。
とても痛い。
僕は水中で声にならない声をあげていた。
「グガボボボボボ」
水が口の中に入っているため思うように叫べない。
体の動きが鈍くなり、親玉の動きに対応できないだろうと直感した。
親玉は僕を仕留めれると判断したようで、猛スピードで突進してくる。
やられると思った次の瞬間デカい何かが近づいてきた。
18メートルはあるだろうか。海の中でこの大きさの生き物に近づかれるのははっきり言って恐怖だ。
僕はどちらにしてもやられると思い目を瞑り体を震わせた。
するとその生き物は僕の下を通過する。
数秒目を瞑った後に目を開けると親玉はその生き物に食べられていた。
親玉の脅威はなくなったが、自分も食われる可能性が出てきた。
早く水面に戻ろうと必死に泳ぎだす。
水面に顔を出し水を吐き出した。
空を見ると父さんは的外れなところを旋回していた。
どうやらこちらの位置を見失っていたようだ。
すぐに救助を求めるために傷口を抑えながら声をだした。
「どうさー-ん、ごっぢ!こっちだー」
あまりうまく発音は出来なかったがこちらには気づいてくれた。
すぐに棒を下ろしてもらいそれに掴まって離脱する。
デカい生き物は追ってこなかった。
血を流している僕を見て父さんは心配して呼びかけてきた。
「ソルカ大丈夫か。すぐに屋敷に戻って手当するぞ」
屋敷に着いて手当を受け、ベッドに横になる。
一段落したところで父さんは感心した顔で話しかけてくる。
「しっかし、よく生きてたなソルカ。でかい影が近づいてこなかったか?上空からでも確認出来たぞ」
父さんにデカい生き物の正体について聞く。
「父さん…あのデカいのなんだったの…」
喋るのも辛い。
そんな僕の姿を見て父さんは眉をひそめながらそいつの正体について答えた。
「あいつは……青龍だ」