06話 イーミスト家
リアがお茶を持ってきてくれたところで父さんは今回の旅の目的を話す。
「私たちはちょうどネストさんを探していたんです。今回の旅の目的を説明しますね。ざっくり言ってしまうと、妻を探しているんです。妻は十年前の津波で命を落としました。そう思っていたんです。ですが二週間ほど前から妻に似た人魚が目撃されることになりました。そして妻のいた場所にはこの鱗が落ちていたんです」
父さんは母さんの鱗を見せた。続けて父さんが話す。
「私たち二人はこの鱗を頼りに妻を探す旅をしています。そしてネストさんが市場で購入された鱗は私たちが持っている妻らしき人魚の鱗に似ていると聞いたのですが…… 見せてもらえませんか?」
そう話すとネストさんは立ち上がって、机の引き出しに手をかけて鱗を持ち出してきた。
「最近市場で購入したとなると、この瑠璃色の鱗のことですかな。こちらはどうぞ差し上げます。私が持っているよりもあなた方が持っていた方が価値が出そうだ」
そう言ってあまりに快く鱗を渡してくれたことに戸惑っていると続けてネストさんは喋りだした。
「価値のあるものってのいうは、その価値を一番よくわかっている人が持つのが一番体裁がいいんです。娘も助けてもらいましたし、気にせず持って行ってください」
そんな言葉で気をかけてもらった。それどころかある提案を出してくる。
「それより私にも、その旅の手助けをさせてはくれませんか? 話を聞くととても明るい未来を見据えた旅のようだ。そんな人たちはきっと恐らく、いい未来を手にして帰ってくる。その時にまた旅の話を聞かせてもらえれば私はそれで充分です。」
なんて物わかりの良い人なんだ…… そう思っているとまたネストさんが立ち上がり、今度は金庫を開け始めた。
金庫を開けたネストさんはもう一つ鱗を取り出す。真紅の鱗だ。ネストさんは更に語りだした。
「それと、これは私の家で代々受け継がれている家宝の1つです。話によれば最初の人魚、『原初のシレーナ』と呼ばれる人魚の鱗だとか。良かったらこれも持っていきますか?何かの手がかりになればと思います。娘を助けてくれたあなた方なら、この鱗を渡す価値があると私は判断しています」
そう言って真紅の鱗を渡してきた。
人魚に最初があることを初めて知ったが、それにしてもこのネストさんってすごい器がでかい人なのか、ただの物好きなのか僕にはよくわからないな。
ただ、確実に母さんに一歩近づいたと心のどこかで確信した。
とても幸先のいい旅が始められたと思っているとネストさんが話の続きをしだした。
「明日一日私は情報屋を雇い、瑠璃色の鱗をした人魚について話を聞いて回ります。この島にもまだ何か知っている人が残っているかもしれないですからね。なので明日はもう一日カスタネッタに滞在してくれませんか?」
こっちにとっても都合のいい話だ。
是非とも話に乗らせてもらうことにした。
こうしてネストさんとの話は終わり風呂に入った後に客用の寝室に案内される。
ベッドに腰かけ落ち着いたところで僕は水中で息が出来ることについて改めて話をする。
「なあ父さん、なんで僕って水中で息できると思う? 泳ぐ機会も全くないから今まで気付くことなかったけど」
父さんはきっぱりと言う。
「わからん! 何がなんだかさっぱりだ。でもそんなこともあるんじゃないかって今は思う。だってシアナだって人魚になっているみたいだからな。お前もしばらくすればヒレ生えてくるんじゃね?」
そんな冗談を言って父さんは可能性の幅を広げる。
「お前が水中で息が出来るなら、頑張れば人魚と渡り合えるんじゃないか?群れになって来られたら難しいがタイマンくらいならどうにかなるだろう。人間の不利なところは水中で息の出来ないところにある。それがお前にはできるし、人魚にはない銛という武器も持てる」
そう言われると確かに可能性を感じる。
実際に今日、合計3匹の人魚の息の根を止めた。
その実績がある。
結局息の出来る原因はわからないままだけど、戦い方が分かれば海の中でも人魚と対等に渡り合える可能性を見出して明日のことに話を変える。
「父さんは明日どうすんだ?僕は早速浅瀬で水中での体の動きを確認してみようと思うんだけど」
そう話すと父さんはそれなら試したい事があると言った。
だが内容は明日の秘密らしい。
そんなもったいぶった話をして父さんは眠りについた。
僕もベッドに横になる。
今思えばリアが出してくれたのはハーブティーだったらしい。
ネストさんと話しているときになんだか体が温かかったと思う。
確かに海に潜って体が冷えていたからありがたかったな。
「リア… 気が利く子だ」そんなことを思いながら僕も眠りについた。
閲覧ありがとうございます!
初投稿作品で拙い所もありますが、よろしくお願いいたします。






